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口裂けの魔女  作者: 昼行燈
目は口ほどにものを言う
7/14

Chairman

―――朝。


 朝食を食べて顔を洗い、歯を磨く。

鏡で自分の顔を見る。

血色は悪くない。

健康そのものだと思う。いつもの朝の風景だ。

あとは制服を着て出発するだけだな。

鞄の中身をチェックしていると1階のチャイムが鳴った。


「はーい…あら?どなたかしら…え?ああ、はいはい。ごめんなさい、ちょっと待っててね」

 母さんが応対する声がしたから聞こえてきたが相手の声は聞こえなかった。


「はるくーん?お友達が迎えに来てくれてるわよ。早く支度しなさい」

 友達?朝一緒に登校する友達はいないけど、気まぐれに家に寄ってきたのだろうか。

寄るような友人といえば、みな登校時間ぎりぎりのやつばかりなのだが。


「ふあーい…いま行きますよー」

 階段を下りていくとそこには今日もマスクをつけた空也さんが立っていた。

相変わらずのジト目で、ヒッチハイカーのごとくスケッチブックに、『迎えにきました』と書いて持っている。


「あ、お、おはようございます…」

 眠気が吹き飛ぶと同時に敬語になってしまう。


「あら可愛いお友達ね。でも風邪をひいているのかしら?もう秋だから二人とも気をつけてね」

 ぐぬぬ、なんか意味ありげな目で見られている。というかなんでわざわざ朝迎えに来ているんだ。


「じゃあもう行くから!いってきます!」

 とにかく早く学校に行ってしまおう。

まさか自宅突撃までされるなんて予想外だった。


「それで空也さん、なんでまた朝まで一緒に登校することに…嫌ってわけじゃないけどさ」


 嫌ではないのだが、人の目が気になるというか。

ただでさえ家が近いのに、実際に通学路にいる生徒の多数がこちらを見て何かひそひそと言っている。

まあ彼女はどこ吹く風という様子だ。


『パパに言われたから』

 もっとこう、君には主体性がないのかと言いたくなる答えだが、怒ると怖そうなので言わない。


「そうですか…。しかし昨日の帰りといい、今日といい、そこまで護衛なんて必要なのかな?」

 空也さんは何も答えず、前を歩いていく。


 こういってはなんだが、目撃しただけの僕を襲いに来るのだろうか。

いちいち目撃者の全てを消していくのはとても骨が折れそうだし、わざわざ電話帳かなにかで黒ずくめの男が必死に探していると考えるとなんだか哀愁が…。


 そうこうしているうちに学校に着き、教室の自分の席に僕は座った。


「ゴトーちゃん、彼女ができたんだって?


「まさかあのひげそりの後藤田に彼女が…」


「つーか、相手が口裂け女じゃ、あんま羨ましくないな」


 席に座った途端に四方の友人から口撃を浴びる。


「君らねえ…そんなんじゃないんだ。だいたいひげそりってなんだよ。しかも普段はチャイムぎりぎりに来る癖にみんな早くないか?」

 きっと昨日一緒に帰ったところを誰か見てて、それをからかうために、わざわざ朝少し早く登校してきたのだろう。

おそらく今日一日はこのネタでいじられるのだろうな…。


 放課後。

さて今日は来いともなんとも言われてないけどいってみるか。

手芸部に行く途中、竹刀と防具袋を持った目堂咲めどうさきさんとはち合わせた。


「あ、どうも。剣道部だったね、目堂さん。いまから部活なんだ」


「見ればわかりますよね。失礼します」

 まあ一度顔合わせしたぐらいじゃ、こんなんだよね。


手芸部の部室の前につくと中から声が聞こえる。

誰かが先に来ているらしい。


「失礼しまーす…ってあれ」

 部室内には瀬矢先生ともう一人、ブロンド碧眼のローブを纏った外国人女性がいた。

立ち振る舞いから歳は先生と同じくらいのようだが妙齢の女性のように見える。


「あちゃー…バッドタイミング」


「む。キミが後藤田はる君、ですね?」

 つかつかと近づいてくるこの女性は180㎝近くあり荘厳で威圧感がある。


「話はこのバカから聞きました。瀬矢の弟子になったそうですが、魔女の総代としてこの件について認めるわけにはいきません。キミは魔女にはなれません」

 そう言うとローブの女性は右手を怪しく暗紫色に光らせて僕の顔に近づける。

彼女の右手に文字が円形に浮かびあがり光を帯びる。


「ちょっと待った!今回の件で彼は目撃者の一人だ。接触もしたみたいだし記憶を消すにはまだ早いんじゃないか?それに僕の弟子になったばかりだ」

 瀬矢先生がすかさず青みがかった白い湯気のような大気をまとった右手で掴みとめる。


「だからです!聖は一人だけならまず負けないでしょう。私の弟子の3人も心配いりません。だが、この少年はどうです!彼は足手まといになります!それがわからないくらい平和ボケしましたか!」


「…たしかに彼が人質にとられた場合身動きができなくなる。サラ、その通りだ。だが…魔女の弟子の申請は届出制になっていて、その国の支部長が届出を受理すればいいことになっている」


「貴様というお前はいつもいつもヘラヘラと…全く…。規則は規則。総代として守らないわけにもいかない。が、今後なにかあればすぐ貴様の首が飛ぶのだ、いいな!物理的にだ!だいたい貴様はだな…」


「おい、サラいい加減にしないか。後藤田君困っているだろう。いやーごめん。こちらは理事長兼魔女協会の総代、瀬矢サラ。まあ…妻です」

 やっと声をかけられたかと思ったが怒涛のやりとりのせいで事態がよく飲み込めない…。


「理事長のサラだ。以上」


「ああ、とにかく今日はもう帰っていいよ。ボクはサラの相手しないといけないし…。ああ!そうそう、今日の帰りも聖をつけていってね!」


「なんだと!貴様、娘に悪い虫がついたら…」


「いや、だから護衛のためだとさっきから…」


 よくわからないが今日のところは帰るとしよう。

後半の方はなんか夫婦喧嘩みたいになっているし…。

しかしいきなり魔女になれないって言われても、特になりたい!って思ったわけじゃないのにな。


 そういえば帰りも空也さんが護衛?につくのか。

昇降口にはいないみたいだけど帰ったのかな。

まあ、襲われるなんてことはそうそうないと思うし、家も近いから大丈夫だろう。

僕はそのまま帰宅することにし、正門を通りがかると、意外な人物が声をかけてきた。


「や、元気そうだね。後藤田くん」


 正門にはあの夜、空也さんに吹っ飛ばされたサーカス男が立っていた。やはり生きていたのだ。

不思議なことに周囲の生徒はこの男に誰も気づいていないようである。


「ん?どうしてって顔をしているな。ああ、周りには俺の姿は見えない。そういう服なんだ。伊達や酔狂でこういう格好をしているんじゃないんだぜ?まあ、趣味も多少は入っているけどな」

 サーカス男はぴんぴんとしてそう言った。どうやら怪我もなにもしていないらしい。


「さて、今日は君とちょっとお茶にでも行こうと思ってわざわざ待っていたんだぜ。もちろん俺のおごり。行くだろ?」


「…断る。知らない人について行っちゃいけないって学校で習ったんでね」


「そうかい。じゃあ強制的にお茶に付き合ってもらうろしよう」

 サーカス男のステッキから黒い霧があふれ出す。

白昼堂々とこんな真似を、と思ったが魔法は一般人には見えない。

瀬矢先生や理事長はこういう事態を警戒していたのかと、身をもって知ったときにはすでに手遅れだった。

僕はそのまま黒い霧で窒息しそうになり、やがて意識を失っていった…。 

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