ようこそ手芸部へ!
翌日の放課後。
「ちょっと早すぎたかな」
結構緊張しながら入った部室、工房には誰もいなかった。
やっぱり早すぎたか。ホームルームが終わってすぐに来てしまったから他に誰もいないみたいだ。
うちのクラスは基本的に担任の「解散」の一言で終わりだからなぁ…。
「お、いるいる。ちゃんと来てくれたね」
今日は後ろから声をかけらなかったな。瀬矢先生が今日も白衣姿で登場。
「こんちは。それで今日は何をするんです?」
「うん、今日は早速なにか作ってもらおうかなー…って思ってたけど部員たちとの顔合わせにしたよ。君には色々話さなきゃいけないことがあるしね」
「顔合わせですか…」
なんか緊張してきたな。
「まあホントに顔合わせ程度だよ。部員全員が顔を合わせるなんてあんまりないしね。協調性がないというか、個性が強いというか…まあそこはボクの人望で今日集めたんだよ」
「はぁ…それで話すことというのは?」
「うむ…。驚かないで欲しいんだが…」
瀬矢先生の眼鏡がきらりと光り、顔つきが神妙になる。
「実は、ボク、魔女なんだ」
工房内がシーンと静まりかえる。他の部屋から生徒の声が聞こえるくらいに。
「これは笑うところですか?」
「いやいやいや!これは本当の話なんだって!信じてよ!」
いつも飄々と冗談っぽく「ハハハー」とか言ってる人だからなぁ。
話1/4くらいに聞かないと。
「またまたー、そうやって僕をからかっているんでしょう?」
「むむむ!そこまで言うのならば証明してみせようじゃなあいか!そうだな…君は月曜日の夜、この学校で謎の怪人と女の子に出会っただろう!」
「な…ま、まさか先生は…」
「次の君のセリフは……『ま、まさか瀬矢先生はあの時の化物みたいな女だったんですか!?』と言う」
「ま、まさか瀬矢先生はあの時の化物みたいな女だったんですか!? …ハッ! ってそもそも先生は性別違いません?それに魔女って女じゃ」
「む、ノリはいいけど反応悪いなー。あんまり驚かないか。ま、仕方ない。その通ぉり、ボクはあの化物女でもないし変な格好をした男でもない」
「じゃあなんで知ってるんですか?」
「ふふふ、実に単純ないい質問だね。それは僕が関係者だからさ。言った通り僕は魔女さ」
「でも魔、女なんでしょう?男の場合は…ええっと魔男?」
「いや男の場合でも魔女さ。もともとwitchから魔女と翻訳されたみたいだけど、その頃にはwitch=女魔女というのイメージがあったんだろう。男性に対してもwitchって言うのさ。まあ実際も女性が多かったみたいだけど」
へえー…詳しいんだな。
「で、関係者って…あの夜のことを見ていたんですか?」
見ていたなら助けてくれてもよかったのに。
「いや見てはいないよ。聞いたんだよ。当の本人の口からね」
本人?どっちのことだろう…。
サーカス男は敵意はないようだったけど、女の方は…どうだろう。
「大丈夫。危害を加えたりはしないよ。君はもうこちら側の人間なんだからさ」
それって思いっきり巻き込まれてません?
「危ないことは嫌ですよ。痛いのとか…」
「うーん意外にヘタレているねえ。まあ君に戦闘を期待しているわけじゃないよ。君にはボクの助手、いや弟子として入部してもらったのさ」
助手?弟子?一体なんのことだ。
「弟子ってなんですか?」
「うーん、話すと長いからねえ。詳しい話はまた今度ってことで。ちょうど部員も3人来たみたいだし」
扉の方から女子たち話し声がする。
「ういーっす、先生きましたよー、お?」
「…きました」
「先生、私忙しいので手短に」
対照的と言うか個性的というかまたえらく気の強そうな女子3人だな…。
しかしどの人も見かけたことがあるな。
スポーツで活躍して壇上で表彰されているのを何度か見かけた気がする。
「後藤田君、紹介するようちの部員の3人。左から、日焼けツインテ娘の須天王亜季君、スマホっ娘の江宇瑠璃君、右のクールポニーテールが目堂咲君。彼女らも魔女だ」
ずいぶん変わった名字だがそういえば見たこともきいたこともあったな。
「先生ヘンなあだ名つけるのやめてください。セクハラです。それにポニーテールは運動をするからしているだけです」
「そうっすよー、日焼け娘ってバカっぽいじゃないですかぁー?」
「スマホも持ってない癖に…(嘲笑)」
う、うわあ…個性というか気が強いというかみんなツンケンしてるよ…。
こんな部でやっていけるのかな…。
「はあー…しっかし先生もひょろいもやし子をてうれてきましたねー。もっとマッチョな男子部員きぼー」
もやしで悪かったな…。
「まあ、文化系みたいな感じではありますね」
「冴えない…(呆れ)」
言いたい放題言いやがって……。ここはガツンと言ってやらねば。
「まあまあ、ほら一応顔合わせなんだからさ。後藤田君も自己紹介して!」
ガツンと…言って…!
「あ、そのどうもはじめまして。いやーなんか見ちゃって手芸部というか魔女の弟子?みたいなのになりましたー。よろしくどうぞー」
我ながら自分の社交性がうらめしい!
「どうも」
「ふーん、フツーだねー。つまんないなー。もっと一発芸みたいなのないのー?つっかえないなー」
「普通ね…(微妙)」
ホント三者三様に言いたいことをズバズバと…!
「ま、まあみんなここは初の顔合わせなんだし、親睦を深めるためにみんなでお茶でも…。そうお金はボクが持つから!ね?」
「あーわたしパスっす。陸上(部)あるしー」
「私も剣道部の練習で付き合う時間も義理もありませんね」
「同じくテニスの練習。それと先生の弟子じゃないし。指示しないで(イラッ)」
三人はそれぞれの部活があるらしくて、ほとんど僕との会話無しに早々と教室を去って行った。
教室に入ってから出るまで、おそらく5分とかからない顔合わせだったな。
その上言いたい放題言葉のサンドバックにされただけだったし。
「先生の人望も大したものですね…」
「言わないでよ…ボクの弟子じゃないんだし。彼女たちは理事長の弟子でね。まあ気が強いのは師匠譲りなんでしょう…。仕方ない、いい機会だから今日はボクら魔女の世界の話でもするとしよう」
魔女の世界、か。入部するとは言ったけど弟子入りするとは一言も言ってないけどなあ…。
「実は本来の目的は顔合わせは、顔合わせでも別だしね」
「……?」
言っていることが二転三転する先生だなあ、もう…。