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口裂けの魔女  作者: 昼行燈
目は口ほどにものを言う
4/14

入部

今日も空也さんの様子がおかしい。

おかしいというのは変人ぶりのことである。

変人ぶりは相変わらずなのだが挙動不審になっている。

 決定的なのは放課後になってからだった。

全ての授業が終わり、机の中を手早くまとめていると見慣れない茶封筒が入っていた。


「差出人なし、宛名なし、中に…ルーズリーフか」

 ルーズリーフが1枚。


『放課後手芸部に来られたし』


 なるほど。

空也さんは手芸部所属だったな。これはいよいよもって…。

 手芸部、正確な名称は手工芸部。

主な活動は製作した作品を展示したり、なにか応募したりするみたいだな。

手芸部の部室となっている教室の前に掲示している活動内容に書いてあるまんまだが。


 さてどうしよう…そのまま入ってしまおうか。中に部員は誰もいないみたいだけど…。

というか部員ってどのくらいいるんだ?

とりあえずノックしてと。


「失礼しますよー」


 そっとドア越しに教室をのぞいてみても誰もいないみたいだ。

教室内は以外にも広く、作業台や工具などが無造作に置かれている。


「意外と本格的な工房って感じだろ?」


 後ろから声をかけられ振り向くと、顧問の瀬矢次郎せやじろう先生が立っていた。

現代文の担当教員なのにいつも白衣を着ているという少し変わった先生だ。

白衣にきらりと光る眼鏡はぱっと見理系の先生に見えるのだが。


「はあ…たしかに工房って感じの教室ですね…」


 棚にはよくわからない壺や絵、編み物、帽子など節操なく飾られている。


「そうだろう、そうだろう。色々あるんだよ。例えば…ああ、これはボクが作ったんだけどね。ほら、このお守りとか」


 白衣のポケットから取り出したのはどこにでもありそうなお守りだった。

違いがあるとすれば何の御利益があるのかなにも書かれておらず、わからないという点か。


「お守りですか。なんの御利益があるんですか?なにも書いてないですけど」


「それは禁煙だね。自作の中じゃ一番効果があるかも。ハハハ」


 瀬田先生はそう言って今度は違うポケットから煙草を1本取り出して咥えた。

見たところ御利益はなさそうだな…。

というか自作のお守りに御利益を期待していいのだろうか…。


「先生、校内は禁煙ですよ」


「おっとっと…。あ、お守り返してくれるかい?これが無いとついつい煙草に手がのびちゃってねぇ」

 先生は咥えていた煙草を箱に戻してお守りを受け取る。


「それで君は何か手芸部にようかな?」


「ええーっと、まあ用というほどではないんですが、呼び出されたというか、なんというか」


「おお、そうか入部希望か、うんうん。ちょうど男子の部員が欲しかったんだ。ハッハッハ」


「一言も言ってませんよ…」


「まあ、ボクが言うのもなんだが呼んだのはボクだよ」


「はい?」


「聞けば後藤田君は部活動に参加してないそうじゃないか」


「ええ、まあ」


「そこで、君を手芸部に入ってもらおうと思ってね。君には素質があるよ、うんボクが保障する」

 いきなり素質があると言われても…てっきり呼びだしたのは空也さんかと思ったけど。


「素質と言われても、どうしてそんなことがわかるんです?」


「君の趣味は手芸って聞いてねぇ…ボクはピーンときたんだ。いいだろ?入部してみないかい?」

 誰に聞いたんだろう? あんまり話してないだけどなぁ…。


「入部ってもう2年の秋学期ですよ?今から入部ってのはちょっと…」


 時機が過ぎている気がするし、いまから部員と仲良くしていくのはちょっと難しいし。


「まあまあ、部に顔を出すのは好きな時でいいし、他の部員も来たり来なかったり、みんな気ままにやってるし。君も好きに工房を使っていいからさ。放課後のいい暇つぶしと思って入ってみないかい?」


 放課後の暇つぶしか…たしかにバイトもしてないし、カラオケとかゲームとか飽きてきたしな。


「それに後藤田君の成績ならいまから部活動をしたって大した影響はないだろう?」


「……わかりました。まあ暇つぶしくらいにやってみます」


「おお、入部してくれるんだね!よかったよかった。これで懸案事項は…おっと」

 瀬矢先生は曖昧に笑ってごまかした。


「じゃ、これに名前書いて。ああ、クラスとか出席番号とかはボクが書いとくから。担任の先生にも話しておくよ。今日はこれくらいにして、明日また工房に来てくれよ。詳しくは明日話すからさ。では!」


 先生はシュタッと手を挙げてさわやかな笑顔とともに走り去って行った。

男女ともに評判は良い先生なのだが少し変わっている先生なんだよなぁ…。





「ふ…フフフ、ようやく見つけたぞ…これでとうとうボクも…フフフ、思わず笑ってしまうな」


 瀬矢は職員室に戻ると嬉々として入部届けの受理をしていた。

手続きといってもすでに彼の担任には入部の件をさきほど済ましたばかりで、あとは学校の共有データベースにデータの打ち込みをするだけである。

根回しは完璧だった。


「ようやくボクにも弟子ができた、というわけか。なかなか感慨深いものじゃあないか。一人前になったって感じだねえ」


 思えば今まで弟子がいなかったのも彼女のせいであり、彼女のせいでもある。

彼女には自分が素質があると見込んだ生徒をことごとく取られ、彼女には気に入らないの一言で弟子にできなかった若者が何人いたことか…。


 まあ魔女の世界は女性優位の世界だから仕方ないというのもあるが単純に優秀な魔女は女性の方が数が多い。魔力というのは女性の方が強いのだ。

それに彼女、理事長は魔女界でも5本の指に入るつわものだし仕方ないか。

 あのの場合は……まあわがままが強いというのもあるが、特別な存在だから仕方あるまい。


 そんなこんなで弟子というか助手は万年不足していたのだがこれで解決。

あの娘が言うには、「素質がありそう」だからまず間違いないだろうねえ。

 明日は楽しみだなぁ。何から教えようかな、フフフ…。

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