始まりの終わり
終わりは誰にでも来る。
最近、空也さんと過ごす時間が増えたと思う。
登校、昼休み、放課後、下校、休日…となんだかんだ言って僕らはずっと一緒にいるようだった。
初めは魔女としてか、なんにしてか、いずれにせよ義務的なものだと思っていたが、瀬矢先生に聞いてみると特に指示した覚えはないと言う。
これは彼女の好意でしていることだと気づくのはそう時間がかからなかった。
別段好きだとかそういうことはお互い示さなかったが、二人でいる時間を共有することを目的にしていたような気がする。
放課後の帰り道、いつものように二人で並んで帰る。
人気の少ない道で気付けば僕は彼女にマスク越しにキスしていた。
彼女は特に拒む様子もなく、じっと目を見ていた。
早く彼女にマスクではない、何か別の制御アクセを作ってあげたいと先生も僕もそう思っている。
終わりは突然やってきた。
放課後、いつものように彼女と帰ろうと席を立つと、彼女は教室にいない。
授業に出ていないというのも最近では珍しくなかったが、放課後には必ず教室にいるというのが暗黙の了解だった。
だが今日は違うようだった。
誰かが廊下から慌てて走ってくる皮靴の音がする。
皮靴ということは生徒ではない。
「後藤田君、ちょっと来て!」
「え…?はあ…」
クラスのみんながこちらに注目しているのを感じる。
瀬矢先生が珍しく息を切らして血相を変えている。
何かあったのだろうか?
先生の後ろを同じく速足でついていく。
よく見ると白衣が所々汚れ、破けているし、端に血のような赤い斑点がある。
「何があったんですか…?」
「聖が連れ去られた」
先生は手短に結論だけを言った。
ふざけているのかと思ったが、先生は真剣な時ほど合理的に考え物を言う人だ。
おそらく事実なのだろう。
「空也さんを捕える魔女なんて、ほとんどいないでしょう!あれで負けるはずが…油断していたんですか?」
「いや…油断もそうだが、聖の弱点を知って尚且つ聖より強くて、油断を誘う魔女が世界に一人だけいる…」
工房に行くと思っていたが、目の前にあるドアには「理事長室」と書かれている。
「まさか…だって理事長は、空也さんの母親でしょう?親がそんなことをするなんて…」
「ああ、ボクもそう思っていたよ…どこかでそうじゃないと思っていたさ。だがオイゲンにしてもアインにしても彼らはみんな彼女と同じカレッジを卒業している。無論、魔女のだ…。疑いはあったが確信はなかった」
理事長室はすでにもぬけの殻で机と椅子以外は何も残っていなかった。
だが机の下の床のはめ込みを押すと壁にホールができた。
「この穴は……」
「どこかの空間に繋がる道だろう……わざとだな」
「とにかく応援を呼びましょう!他にいっぱいいるんですよね?協会の魔女は…」
「無駄だろうね…相手は歴史上、類を見ない魔女、サラマンダーのサラだ。協会の長が叛乱したとなれば誰も戦うまい…」
「じゃあ、あの3人は…?」
「彼女たちはサラの弟子だ。もともと、聖を捕えるための駒だったんだろうね。君が襲われるのを黙って見ていたような連中だよ。むしろ今は敵だろう…」
「……彼女は何のために?」
「オイゲンは時間がどうとかと言っていたな。もしかしたら聖の魔力を利用して何かしでかすのかもしれないな…。とにかく聖を連れ戻す」
中は空洞が広がっており、全体的に暗く、神殿というには無機質な構造であり、首都圏外郭放水路に似ている。
何本もの柱が建っているいると思えば、歩いて行くと中央の魔法陣を囲むような柱の間があった。
そこには魔女総代サラ、オイゲン、アイン、目堂、須天王…皆、同じ漆黒のローブを纏った、僕の知りうる限りの魔女がいた。
魔法陣の中心には空也さんが横たわっていた。
すでにマスクははずされているが、意識がないのか、その姿は、可憐な少女そのものだった。
「サラ……説明してもらおうか」
理事長は特に何も言うのでもなく、ただ魔法陣の中心を見ている。
「世界を変えるため、娘を救うため、と言ったらどうする?」
「……それが、これか。そんな夢みたいな話を本気で信じているのか?娘を犠牲にしてでも為す価値はあるのか?」
「…何かを得るには何かを失わなければならない。私は世界で一番、大きな代償を払った…。どの道、もう遅い。魔法陣は発動している」
淡い紫の光が魔法陣に描かれた幾何学模様を血管を流れる血のように、空也さんを中心に伝わっていく。
「何をする気なんですか…!」
「それは俺が説明しよう」
サーカスの衣装をしたオイゲンが前に出る。
「俺の能力、『Leap and Walk』は、過去に戻る魔法だ。現在から過去へ飛び、そして通常の時間の流れとともに現在へ戻る。そして過去に戻ったとしても過去を変えることはできない。一度決定した現在、未来は覆すことができない、必ずどこかで『修正』してしまう。そういう不便な能力さ。だが、この能力を使えば過去を知り、未来を変えることができる。君も体験したはずさ」
未来から来たような既視感は、これだったのか…。
「そして、この不完全な能力を、無限のような魔力で補完すると…どうなると思う?答えは簡単。我々は過去も未来も行き来できるようになる。その上で、この世にはびこる悪を全て叩き潰すというわけさ」
「そんなことできるものか…!」
「理論上は可能だ、小僧」
死んでいたと思われたアインがフードを取って姿を見せた。
70、いや80くらいの老人だ。
「時間跳躍はさほど難しくない。だが物理的に人間を跳ばす、力がどうしても足りない。そこで無限に湧く魔力を動力源に行使すれば、時間魔法、一つの『奇跡』が使うことができる。この魔法陣はそのバックアップと魔力を娘から引き出すものよ」
「そんな…」
「まあ、残念ながら失敗するんだがね」
瀬矢先生が煙草に火を点けると同時に、上の天井部からローブを靡かせ、舞い降りてくる人影がいた。
「…させない」
江宇瑠璃さんが稲妻状に曲った短剣を魔法陣に突き刺すと、紫に発光していた魔法陣は蒼へと変化する。
「瀬矢の手の者だったか…!オイゲン発動させなさい!目堂、須天王!裏切り者はお前たちが処理しろ!アイン、誰も近づかせるな!」
理事長は真っ先に先生の動きを封じようと、そして彼女たちは裏切り者である江宇さんを、オイゲンは魔法陣に能力を発動させるつもりのようだ。
「後藤田君ッ!行けッ!」
全員が一斉に動く中、僕はフリーだった。
迷わず空也さん目がけて走る。
数秒しただろうか、背後で先生のうめき声と鈍い音がした。
僕は振り返らなかったが、想像できた。やられたのだ。
まさしく瞬殺だろう。
前方からわざと離れて、二人を引きつけ戦っていた江宇さんも目堂さんの木刀に貫かれた。
「はぁ、はぁ…あともう少し…!」
あと数メートル、というところで目の前にはアインが立っている。
だが、彼は道を譲るように右に退いた。
「どの道、もう間に合わん」
そんな言葉など僕は意に介さずに、彼女のもとへと走る。
魔法陣に足を踏み入れようとした、その時。
魔法陣の円周に放電現象が起こり、陣中の魔法回路が青や紫に点滅し始めた。
この光が不安定なのは、さきほど江宇さんが突き立てた短剣のせいか。
一瞬、気を取られたが彼女を助け出すべく、僕は魔法陣に足を踏みいれる。
一歩踏み出そうとした時、右足に激痛が走り、倒れる。
右足を見ると太ももがぬるりとし、制服の上から血が染み出る。
咄嗟に撃たれたのだと気づく。
この中で銃を使う人物は、と考えようとしたがやめて、這いつくばって彼女の元へ。
だが、遅かった。
魔法陣の中へ入ったものの、辿り着くことはできず、魔法陣は発動した。
世界の全てが真っ白になり、僕は自分が失敗したことを悟った……。
もはや何もかもわからない。
ただ白い闇の中を僕は彷徨っている気がした……。
To be continued...
さて、これで完結となります。
伏線?回収してねーだろ、え、終わり?唐突じゃね?という感じですが…。
初投稿なのでご容赦を…ではなく、あくまで作品自体が伏線と言い訳します!
・空也聖の魔力はどこからきてるの?
どっかからきてます。作中にちょろっとでてます。
・スマホ娘ってなにしてたの?
色々スパイしてました。
・Virtuって結局なにしたかったの?
世界制服です。時を操作したかったんです。
・なぜサラ(理事長)は娘を使ったの?
色々あったんです、色々。ただ彼女は娘を大事にしています。
・アインって何者?
この世界の人間ではありません。
・結局、主人公どうなったの?
死んだか、あるいは○○しました。
・時間返せ!
フヒヒ、サーセンwww
・なんでこういうラストなの?
...。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回もなにか書こうと思っていますが、しばらく読み専になろうかと思っています。
また感想、ご意見、不明点がありましたら活動報告(割烹)や感想、メッセなんでもいいので下さい!
改稿もしていきますので割烹を見ていただければ幸いです。
こんな駄作ですが、これで終わりです。




