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口裂けの魔女  作者: 昼行燈
鶏口となるも牛後となるなかれ
11/14

Magic circuit

今日は土曜日。

隔週で半日の授業があるが今週はない。

だから本来学校に来る必要はないのだが、部活動となれば話は別だ。

したがって僕もまた手芸部という名の魔女の活動に勤しむべく部室にいる。


「相変わらずの出席率ですね、先生」


「まあ仕方ないね…もともとあの3人は兼部しているだけだし。ボクたち二人で始めようか。聖は…まあ見学かなあ」


 空也さんはストローで紙パックのジュースをマスクの隙間に入れて飲んでいる。

今日はやることがないようだ。


「今日は工房らしくモノ作りの予定だよ。物に魔力を宿させるにはどうするかって話」


「お守りとかですか?」


「うーん、それもいいけど聖のマスクを作ろうと思ってね」


「マスク…ですか。前々から思っていましたけどあのマスクはどんな効果があるんですか?」


 この前はあのマスクをはずすと変身してしまうような感じだったが…。


「ああ、もう見たと思うから言うけど、あれは聖の魔力を抑えるためのマスクなんだ。彼女の場合、少し特殊でね。普通魔力は制御できるんだけど……それができなくてね。そういう体質なんだ」


「制御できない…そう言えばオイゲンが『呪い憑き』とか言ってましたけど、それと関係が?」


「呪い憑きというのは生まれ持って特質な能力を持つ者を言うんだけど、その中でも特に危険な能力者のことを言うんだ。この子の場合は『言葉通りに相手に効かせる』能力だ」


「言葉通りに?相手を操る能力ですか」


 だとしたらかなり凄い能力だ。

危険視されるのも頷ける話だが本当にそんなことができるのか。


「まあ君が疑問に思うのも無理ない。本来そんな能力は魔力が無限になければできない芸当だからね。しかし、聖の場合は魔力が桁はずれだ。そして呪いの言葉は口から発せられる。それは耳をふさいでも喉を潰しても防ぐことはできない。直接相手の体に効かせるのだからね」


「どこにそんな魔力があるんですかね…」


 椅子に座って雑誌を読んでいる彼女を見る。

『今が旬!素敵なデコトラのデコり方!これでライバルに差をつけろッ!』という珍妙な雑誌を読んでいる。

そんな雑誌がこの世に存在していたとは知らなかったが…。

その雑誌も読み終わったらしく、鞄から新たに『リーゼント100選』なる雑誌を取りだした。

相当な乱読家らしい。

いずれにしても彼女のどこにもそんな魔力があるとは思えなかった。


「さあ…詳しいことはわからない。異世界から彼女の体に流れ込んでいるって可能性もなきにしもあらずだし、本当にもともと魔力が無限にあるのかもしれない。いずれにせよ、そんな大量の魔力をコントロールするのは難しい」


「異世界ですか…いよいよ現実離れした話ですね。それでどうやってマスクを作るんですか?」


「正確にはマスク自体を作るわけじゃないんだ。お守りもそうだけど、ほら工房の隅に製図台があるだろう。それを見てくれればわかるよ」


 教室の隅に板が斜めに設置された机があった。

縦と横にスライドが付き、手元には円、楕円といった様々な形の線引きが置いてある。

板には設計図が張られており、それはマスクの上に直線や曲線が左右対称に、複雑に交差している図だった。


「マスクみたいですけど…この模様は、何か回路のような形になっているんですか?」


「さすが鋭いね。そう、これが魔法回路といって物に魔法効果を付属させるためには、この回路を使うんだ。基本的に魔法回路は交差させるのが基本になる。だから緻密な作業が必要になったり、計算したりと意外と学問的なんだ」


「なるほど。この交差の繰り返しというか、必ずどこかで循環するような形は、人間の血液循環に似てますね」


「その通り、魔法回路は人間の血液循環を模したものなんだ。これは科学の副産物なんだよ。近年になるまでこういった魔法回路というのはなかったんだ」


「しかしこれなら先生一人で作れるんじゃ…」


「それが困ったことに物の材質や形状によって魔力の流れ方が全く異なってね。より効率的な魔力の流れる魔法回路を探すのは一人じゃ難しくってね。君に簡単なテスターをしてもらいたいんだ」


「テスターというとテストですね。どうやってテストするんですか?」


「簡単だよ。物に書きこんだり、縫いこんだ回路に直接魔力を流し込んで、その流れの速さ、流れの効率を観測するんだ。まあ、あとやってもらうとしたら雑用くらいだよ」


「なるほど。魔法というか魔力が引き出せる今ならできそうですね。じゃあ早速やりましょうよ」


 ただ魔力を流して観察する、これくらいなら僕にもできそうだ。


「いや魔力を魔法回路に流すと言っても、これはこれでコツがいるんだ。失敗すると感電したみたいにビリビリくるから気をつけないと。最初はこの糸からはじめよう」


 手渡されたのは1本の赤い毛糸だった。感電すると言うけどどの程度なのだろう。

静電気程度なのかそれとももっと痛いのか。


「安心して。単純な回路ほど簡単に、微量の魔力を通すんだ。逆に言えば複雑な回路ほど多量の魔力を通すことができる。その糸はかなり単純なものだから、失敗しても静電気程度だよ」


 よく見ると毛糸にはさらに細い糸のような物がらせん状に絡みついている。

僕は両手でつまんで、試しに少し魔力を流してみた。


「おお…光ってる!」


 毛糸の左から右へとゆっくり淡い青色の光のようなものが走る。

手に痛みもないようだから成功したのだろう。


「そうそう。そんな感じに痛みもなく順調に魔力が流れればOK。次はもっと魔力を流してごらん」


 言われた通り、次は強めに魔力を流してみる。

すると毛糸は耐えきれなかったのか、ぶつりと切れ、両手に静電気のような痛みが走った。

毛糸が千切れるというより、何か回線ショートしてブチっと切れたように感じた。


「失敗するとすぐにショートしてしまうんだ。だから魔法回路は意外と繊細に扱わなくていけないよ。まだ今の段階じゃ、有機物が精いっぱいだろう。熟練すれば無機物、金属類にも魔力を流すことができるようになるよ。まあ金属に魔力を流すのはなかなか難しいがね」


 その日、僕は先生の指導のもと何とか雑巾に魔力を流すことに成功した。

魔法回路の通った雑巾はよく汚れがふき取れるそうで、ついでに工房の掃除をさせられたが…。

ちなみに空也さんはその日、10冊のコアな雑誌を隅から隅まで読み終わり退屈そうだった…。

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