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病の箍、三夜目。大爆笑な生い立ち

2014/08/28加筆修正

 彼女を一瞥するも俺は、パサの表情になど構わず続けた。


「まだ実践はしたこと無いが戦い方は知ってる」


 どういうことかと聞かれれば、そう、脳ミソという記憶媒体に、戦場に於ける敵と対峙した際の所作や立ち回りなど、一連の動作形式や順序が無限に再現される場面・局面に誤差を生むことなく調整されるよう淡く、濃く焼き付けられており、また、通常人が持ち合わせているとされる平均的なそれら戦術の応用能力に関しても、何倍もの情報密度で構成されている。

 俺個人に関して言えば


 中、近距離対峙に於ける直接的物理攻撃に関する動作情報が特化されて————


 もう止めておこう。





 しばしの沈黙。


「ふ~ん。………… …………」

 パサは顔を少しうつむかせた。


 少し、と言っても俺のほうが背骨が長いから、それだけでこの女の頭のてっぺんしか見えない。だから、表情も読み取れない。


 パサは、何を思っているのだろう。

 もしかして気に障る話でもしてしまったのだろうか。

 ウチを出るとき父さんから、人に失礼の無いように、とも言われたのに。


 どうすればいいんだ、こんな時。

 

 なにも思いつけない。


 ああ、パサの肩が震えてる。


 怒りに震えてるのか?

 泣いているのか?


 成す術もなくオロオロと手の平をパサに差し向けようとしたその時、



「…………ふっ 」


「?」


「ふふふふっ …………あはは!」


「!?」


「イヲンって、面白いこと言うね!! 兵器って、ププッ」


「!!?」


「どうみても人間じゃん! イヲンってば! 真面目な顔してこんなトンデモ発言する人だったなんてっ」


 盛大に噴飯(ふきだ)し、収まりのつかない様子の、パサ。

 うずくまるような体勢になったり、天井を仰いだり、忙しそうだ。


「…………面白いか?」 

「うん、ゥハハ」



「へ~んなの!」まだパサは笑いの余韻に浸っている。



 ――――とりあえず、俺は話を続けることにした。


「…………俺は父さんと一緒に居たかった。でも、戦争は終わって、偉いヤツらの秘密のキメゴトで俺と俺のキョウダイは処分されることになった。父さんは……俺のことが好きだから逃げて、生きてほしい……と」


 話している内、カタカタと、気付けば俺のカラダが小刻みに震えていた。



 ああ、また 発作が始まった。

 ”あの薬”が無くなってから 急に回数が増えた。

 故郷を出る際父さんから渡された、あの携帯水筒の平たい容器を思い浮かべる。


 どこかで”コレ”が過ぎるまで独りになっていないと、大変なことになる。


「……俺は、今体を蝕まれている病を抑える”箍(たが)”を探している」


「え、病気……なのに薬じゃなくて、箍?」

 ポロっと口から零すように、最後の『箍』を発音したパサは、驚いた風で目を見開いている。


 パサに話しかけられて、いつの間にか瞑っていた目をゆっくり開いたときには、ドン、と押し寄せてきていた、発作という名を借りた衝動が心なしか弱まっているように感じた。

 それでも次に自分の体に意識を戻したときには、俺はいつの間に腰に提げる曲刀の鯉口を切っていた。

 敵はここには居ない、判ってる、なのに。

 今の自分がしようとしていることを異常だと思うことさえ、余裕がない。

 気がどうにかなってしまいそうだった。


 幸い、テーブルの下で起こっている俺と俺自身との攻防はパサには気取られては居ないようだった。


「……イヲン?」

 それでも、俺の様子がおかしくなった事に気付いたようで、眉根を寄せて心配そうな視線をパサは向けてくる。


 俺は剣を抜こうとする右手を、左手で右手首を必死に握り締める事で抗った。

 この場から早く立ち去らなければパサを……。

 勢いよく席を立つ。


 ガタン! と座っていた椅子の、俺が立ち上がった勢いにたたらを踏む音が部屋に響く。


「……すまない。コノ、変な食べ物、アリガトウ…………」 

 ――――躰の感覚が鈍く、だるく、重い…………。


 気を抜けば今にもコレに意識を乗っ取られてしまう。


「ええっ もう帰っちゃうの!? あっ、じゃあまた暇な時来てよ、え、と……待ってるから!」



 俺は何かしらの合図を返すでもなく、時々、半ば俺の意志を嫌がり一瞬痙攣(けいれん)するかのようにビクつく思うままにならない躰を、心の中で叱咤しながらパサの家を後にした。



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