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病の箍、一夜目。落ちる夢

2014/08/28加筆修正。



 もうずっと歩いてる気がする。

 暗い暗い、道筋も不確かな一本道。


 もしかしたら今まで歩いてきた道に、分かれ道もあったのかもしれない。


 いや、過ぎたのはどうでもいい。それよりいつまで歩けばこの道の果てに辿り着けるんだろう。



 立ち止まる。



「……―――― ――?」



 何かが聞こえる。でも、割れすぎていて、何を表しているのか全く聞き取れない。


 声、なのか。


 おと、なのか??


 暗闇の中反響ばかりが音の大半を占めていてその中核が掴めない。


 ふと、自分の上方から聞こえた気がして、届くかも分からないのに手を触れてみようと腕を伸ばした途端、体重を支えられている感覚が予告も無しに消える。

 一瞬の浮遊感の後、すぐに地面のあった方向へ、ぐんと躰を引っ張られる。



 落ちる、と理解したその瞬間に視界がひらけた。




 ————俺が目をさます。


「ひゃっ!?」


 それと同時にそばで小さく短い悲鳴が聞こえた。

 そして さっきまでの自分は夢の中に居たのだと悟った。


 視線を上げれば見慣れない女が大きな瞳をひん剥き、目の前で尻餅をついていた。

 死体が目を覚ました!……とでも叫び、いや、言いたいのか?


 海松(みる)色の髪に同じ配色の瞳を持った女。

 太目の眉だがくりっとした目と併せると凛々しさではなく穏和さを感じさせる。

 今まで旅してきたが、どこの国でも押し並べて女たちは特殊な職業に就きでもしないかぎりスカート履きが圧倒的に多かった。

 この女はそのスカートをまるで股から下、縦ふたつに千切ったような、ゆったりしたズボンを履いている。

 風采から、この女がその特殊な生業の中に生きている者とも思えない。



 不意に腹の虫が鳴く。


 そういえばここ数日まともなモノを食べていなかった。

 草、苦い木の実————しかし、食べられそうなものは口にした。


 しばらく尻餅をついたまま固まっていた女は、俺の腹の虫を聞き少し経ってくつくつと笑い出したかと思うと、警戒心など微塵も感じさせないふにゃりとした表情を俺に向けた。

 自分は足が悪い、立つのを手伝ってくれれば 何か食べさせてやる、と言う。


 彼女と一緒に自分も体勢を立て直し、彼女が指差す先を見やる。


 改めて自分が行き倒れていた辺りに目をやってみる。

 先日着いた町から蛇行する、緩やかな傾斜道を歩き続けた先。郊外と言えるか。小高い場所に位置している道の半ば。

 少し離れた場所に見える深青く茂る葉、その大木より向こう。

 物置か何かかと思っていた小屋が彼女の家だそうだ。


 この丘の上の彼女の家の裏手には木々が広がっているが、前方、町に続くゆるい坂道方面へはぱらぱらとしか樹木は存在しない。

 故に自宅の窓から外を眺めた際、行き倒れている俺が目に飛び込んできて慌てて飛んできたという。


 さぁさぁ、と女が俺の袖を引っ張って、半ば強引に連れ立って先へ向かうことにする。

 空腹はガマンできるが、くれるというモノを拒む理由はない……そうだろう?



 小屋……いや、イエの中は小奇麗というよりは物が少ないように思えた。


 父さんとよく過ごしたあの薄明るくて電子機械音が絶え間なく鳴り続ける部屋が、モノが多かったからかも知れない。

 それに、キョウダイ達も居た。


 みんなどうしているだろう。俺と同じように、それとも――――――――。



 ――――――――そうだ……。



 結局俺たちは、  「…………」なんだから。どうなっても。

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