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病の箍、十五夜目。新規属性発動の彼

2014/09/12加筆修正

 来客で気が逸れたのを良いことに、まずは自身が未だ周辺視野内に捉えられていることを踏まえた上で、気配を殺して立ち位置をずらす。

 相手が気付いていないのを確認すると、音無し(忍び足の高等版)で往く通りを一本ずらした。そうしてまんまとイヲンはその場を辞することに成功した。

 先程の通りから、町の大通りをまたいで反対隣のこちらの通りは、食材を中心にした商店通りだ。


 あの調子だと客との遣り取りを締めた後に気付く、というところか。

 無意識にこの先の展開を計算しつつ、イヲンはフ、と口元を緩めた。まだまだ『ほくそ笑む』という意地悪さ迄昇華させることを知らないイヲンの表情の、今のところの限界だった。


 何かに気持ちを和ませ頬を緩める(それなりな)美青年。


 すれ違い様イヲンを視界に留めた恋多き年頃の娘さんは、薄っすら目元を染めて、思わず脚を停めてしまった。

 

 勘違いなのだけど、それは。


 そんな年頃の娘さん達の心情を知る由も無いイヲンさんは、商店通りを過ぎて特に目を引くものが無くなると目も脚も、わき目も振らずひたすら目的地へと向けていた。

 実は、前回のパサのうちへの訪問時、あの体温調節の為の〈かもじ〉的形状の管を忘れて彼女の元を去ってしまったらしい。今のイヲンの後ろどたまはどこかスッキリとしている。

 背筋をしゃんと伸ばし凛とした雰囲気を醸す、淡い寒色の髪を持つ(それなりな)美青年が歩を進めるその後ろ姿は、結構な数の女性の目に留まっていたりした。

 やっぱり……彼自身の感知するところではなかったけれど。





 パサのうちに辿り着いたイヲンは入り口の戸を叩く。何度か試みたが内からの応答は無い。


「パサ? 居ないのか??」


 無音。


「パサ?」


 やはり、応答なし。

 

 その時イヲンの脳裏に、初めて彼女と出会ったときの遣り取りが思い起こされた。


『アタシ脚が悪くて――――』


 もしや、隣の部屋なんかでバランスを崩し転倒して、そのまま起き上がれずに居るのでは。そうなると怪我もしているかも知れない。ふと、そんな良くない考えが頭を過る。


「パサ、パサ!」


 一度考え出すとどんどん変な方向へ思考が傾いていく。戸に当てたままの拳で、今度はガンガンと少し力の籠った音を立てた。


「居るのか、居るなら返事を、パ――――」

「イヲン!」

 返答が返ってきた! どこからだった、やはり――

「中か!?」

 返ってきた返答に、頭部だけ体温が上昇している気がした。

「どうなんだっ、入るぞ!」

「イヲンの後ろ!!」

「ハ……」

 先程からのそのままの体勢で、二拍ほど硬直してから言われた方向へ。ゆっくり後ろへと視線を移していく。


 からくり仕掛けの人形が振り返ったみたいだった、とは後のパサ談。

 

 ゆっくり振り向いた先には、いつぞやの様に目ん玉を剥いた、鎌を手にしたパサが突っ立っていた。





 イヲンが声を荒げるに至った事の次第を例の焼き菓子をカジりながら聞いたパサは、欠片をいくらか噴飯(ふきだ)してしまった。


「どんだけ幼気(いたいけ)な少女なのアタシ!!!!」


 パサの爆笑混じりのコメントに一瞬、イヲンの眉間に皺が寄ったように見えたのは目の錯覚か。


「…………」


 無言でお茶をすするイヲン。その口元が若干尖っているように見えるのもまた、目の錯覚か。


「ゴ、ゴメンってイヲン……」

 

 向けられた、これまた尖った(ように感じられる)視線に、パサは笑いを引きつらせてしまう。


「き、今日は何だかいつもより調子が良いからさ、朝から畑の草むしりしてたのよ」


「…………」


「イヲンが来た時は、丁度うちの陰で休憩してたの」


「…………」


 なんなのよ……。パサは思わず零したくなったが、こらえた。


「だから……っ、ごめんってば!」


「…………許す」


 コチラの必死な様が彼に通じたのか。本当に、パサからしたら「なんなのよ」だった。




サブタイトルの意味するところ、答えは次話の後書きで。。。

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