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病の箍、十二夜目。今夜のメインディッシュ

2014/09/09加筆修正

 そこは例え晴天でも陰の差す場所。

 暗くて、日によっては辺りの空気に晒されただけで、今にも雨が降ってくるんじゃないかと不安になってしまうような、そんな空間だった。

 町中の建物と建物の間――道ともいえる幅を持つものから隙間としか言い表すことができないようなものまで――多くの陰が集約された先は表通りほどでは無いにせよ少し開けていて、裏通りの、ごく一部の者達にとっての『広場』になっていた。

 それでもこの町に於いては独自の治安維持集団が組織されているので、町裏と云えどそうそう物騒な場所だというものでもなかった。

 ――が、しかし。

 今現在の裏通りの広場ときたら、まるで町中の(かげ)の雰囲気を乗算した様に辛気臭く、湿っぽく、何か重たいものを纏っていた。

 理由ならすぐ、一目瞭然だった。

 広場一帯に蹲ったり、転がったりする人、人、人。

 ぱっと見だけでも十人弱。

 その大体どれもが既に呼吸の際の僅かな身動きさえしていなかった。

 ――目をこれでもかと見開き、眼球の白目部分を真っ赤に血走らせ、口を歪めて苦悶の形相をした者。

 ――天寿を全うしたかの様に双眸をきれいに瞑り、安眠に包まれているかのように安らかな表情を浮かべる者。

 同様なもの、正反対なもの。彼らの形相や表情は様々だが、そのほとんどは皆一様に息絶えて居るという点ではお揃いだった。

 全員(・・)ではなくほとんど(・・・・)というからには、躰の損傷は激しいものの、かろうじて死には至らず息を繋いでいる者も居た。


 ――表現の仕方が間違っていたかも知れない。「死には至らず」ではなく「敢えて殺されず」の方がしっくりと来る状況。

 それ程息を繋ぐ、残されたひとり以外の辺りの様相ときたら凄惨なものだったから。


 腕や脚が一本二本飛んでいるのなど当たり前。頭の中身が飛び散って壁に撒き散らされている者、腹を捌かれて中身がもろっと溢れている者、硬いところに叩きつけられて在らぬ方向に四肢を折り曲げている者。

 今挙げた容態の内、少なくともどれかひとつを転がっている誰もに当て嵌めることができた。

 

――ここには今現在生き残っている男ひとりを含め十人弱が、つい先程まで五体満足に立っていた。

まろび込んできた仕立ての良さ気な服装をした鴨を強請(ゆす)る予定だった。


 ――どうしてこうなった? いつの間に、こうなった??

 余りの惨事からのショックで、生き残った男の記憶は半分飛びかけていた。


 視点の中心を移動する。

 その惨憺(さんたん)たる状況に於いて、生き残った男の他には、只ひとり五体満足に立つ者が居た。

 ユラユラと気ダルそうに上体を揺らしながら、その手に握られた片刃の湾曲した剣も振り子のようにユラユラと揺らす。

 揺らす剣はさっき斬った者達の体液に塗れ、薄い赤色でマダラに染まっている。

「何の目的で、こんな……。俺達に何か」

「目的?」

 揺れながら立つ者は口の端を上向きに歪める。

 重症を負いながらも、まだ命に別状の無い程度、だけれど立ち上がる気概も気力も()うに失った生き残りの男の言葉を、只ひとり両の足で立つ気ダルげな者は、皆まで言わさず遮った。

 短い横槍の言葉尻に合わせて首を傾げれば、淡い寒色の短髪も一緒に揺れた。

 少し遅れて頭髪と同じように色素の薄い瞳を細めるその、青年。

 辺りの薄暗さに確かとは言えないけれど、それはどこか楽しそうな表情にも見えた。

「俺の探しモノの在り処を知ってるって言った癖、コレは何だ? よってたかって。その結果だ」

「そんな、何も――――コンナ」

 男の言葉は青年の視線を受け尻すぼみになる。


 生き残った男の発言後、睥睨(へいげい)するように辺り一帯を見回す青年。

 視線を一周させて元の男に視線を戻す。それからフ、と一息吐くと――。

「まぁ、いいよ。最後にもう一度聞く。俺の探しモノの場所、ホントの所、知ってるの? 知らないの??」

「探すから、命はっ……」

 青年は瞳を眇める。

「それは、――知らない、って事で、OK?」

 青年が、四肢の機能をほぼ奪われて動けないでいる生き残った男に向かって、ゆっくりと前進を始める。

「嫌だ、おねがい……お願いだ! イヤだ、嫌だ!!」

 涙に鼻水に涎、ついでに小便も漏らしながら顔面ぐちゃぐちゃに生き残った男は嘆願を続けた。

 男から漂う異臭に青年はピタ、と前進を止め顔を(しか)める。

 元から湿っぽく独特の臭いが漂う場所で、その独特な臭いと流された体液、主に血と汗の蒸れた臭いが合わさり、更に男が漏らしたものが異臭の度合いに相乗効果を果たす。

 ————なんだこの不協和音。不協和臭?


 「くっさい。」


 予備動作がどれなのかも感じさせず剣が(くう)を滑る。その切っ先が向かうのは生き残った男の、他の者の飛び散った体液で濡れた喉元。

 刃物が届く迄発し続けた「お願い」は、届いた直後にカヒュと空気の抜ける音と一緒に途切れた。

 これで火を通したら……。


 ――――まるで串焼きだな。

と自分の得物に貫かれた、生き残りだった(・・・)男の様を見てぽそりと思った。



「うん、今夜の晩御飯は、決まり。俺も『お願い』してみるか」

 


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