原発のメリットデメリット
あるブログへのコメントで、偶然に、強固な原発推進派の人の意見を読みました。意図的なものか、それとも“原発に対する信仰”からなのか、その人は一点のみに論点を集中させ、それ以外の点を無視し、原発批判は“単なる放射能に対する嫌悪からの素人判断”だと断じていました(因みに、僕の反論には何も返せなかったので、恐らくは、論破した状態になっていると思います)。
取るに足らない内容だとは思ったのですが、その人自身のコメントと、その人に対する他の(一部の)人のコメントに、僕は一抹の不安を感じてしまいました。
まぁ、僕だって素人なので、そんなに偉そうな事は言えないのですが、それでも理論的に筋道を立てて考えようとはしています(本来なら、ゲーム理論でも使って、理論的な行動選択の結論を出すべきなのでしょうが)。半ば感情論による、ごく狭い範囲の判断で、原発全体を論じる事ができるはずがありません。ですが、その場の一部の人は、そんなものは全くお構いなしに議論をしていたのです。
原発に賛成するのなら、それなりの理由を情報を公平に扱った上で、理に適った方法で出さなければいけないはずですし、その逆もしかりです。
そこで、僕個人的には、中長期の原子力発電には完全に反対なのですが、それをできる限り忘れて、これから日本は原発をどう扱えば良いのか、その判断の参考になるような文章が書きたいと思い、これを書き始めました。
(ただ、僕は原発はやっぱり反対の人間なので、やはり、どうしても“反対側の視点”になってしまう、という点はご了承ください)
原子力発電所の話を始める前に、まず、行動を選択する為に必要な、基本となる“考え方”から説明をします。これは原発問題に限らず言える事ですが、何かしら思考の軸がなければ、それを論じる事などできないでしょう。と言っても、そんなに難しい話ではありません。何か行動を執る時の判断は簡単に言ってしまえば、
『コストが結果に見合うかどうか』
です。
多大な労力をかけても、得られる結果が期待した程でないのなら、その行動は中止にするべきなのですね。
ただし、“結果に見合うかどうか”を判断するのはなかなかに厄介です。何故なら、未来は予測不可能だから、です(価値基準がそれぞれ異なる点もありますが、それについてはここでは言及しない事にします)。つまり、予測不可能な未来を考慮に入れて、結果を評価する必要があるのですね。
その為の簡単な方法として、行動のフローチャートを書いて、それを評価する、というものがあります。ちょうど原発問題を扱っているので、ここでは、原発の放射能による健康被害を判断してみましょうか。
低レベルの放射能と健康被害との因果関係は、正確には未だに証明されてはいません。あるのは相関関係のみです(ただし、薬の効能判断は、相関関係によって行われるなど、相関関係でも、社会的に有意ではあります)。
という事は、原発を稼働させた場合、事象として、次の二つのパターンが考えられる訳です。
原発→放射能→健康被害
原発→放射能→影響なし
当たり前ですが。
判断基準がこれだけなら、“健康被害”というリスクがある分、原子力発電は行わない方が得、という事になります。ただし、ここでは原発のメリットが考慮されていません。もしも、このリスクを冒しても、得られるメリットの方が大きいのであれば、原発は活用すべき、という事になります。
これは“失われる事によるデメリット”にも注目しなくてはいけない、という事でもあります。この考慮を忘れる人は、意外に多いので気を付けてください。例えば、時折、「原発被害は恐ろしいとは言っても、その死者数は車の交通事故死には遠く及ばない」といった主張を耳にします。
で、
「車は廃止にしないのに、原発だけ廃止にするとはどういう事だ?」
という主張に続く訳ですが、この主張は実に奇妙です。どういう点が奇妙か分かりますか? 先に述べた、“失われるデメリット”が全く考慮されていないのです。車は確かに、事故死者を出していますが、それを上回るメリットを社会に与えてもいます。もし、車を廃止したりしたら、経済被害で人々は大ダメージを受けます。そして、経済の問題でも人は死にます。生活困窮者が増え、自殺や犯罪が増加するでしょう。それを考慮するのなら、交通事故死者をできるだけ減らして、車は使い続ける、という結論になります(飲酒運転の罰則強化など、事故を減らす取組はされていますね)。
その他にも、原発では、ある土地が半永久的に利用を制限される、などのデメリットがあるのに対し、車の交通事故ではない。その土地に住む場合、原発は被害を受けるのをほぼ避けられないが、車に乗る機会を減らせば、車の事故被害に遭う確率は減らせる。被害額がそもそも雲泥の差。などの違いがあるので、車と原発とを比べる事には無理があるのですが。
いずれにしろ、他の機能との差を、原発存続の理由にするのは無理があります。もし仮に、原発と同じくらい問題のある機能があったとして、それが廃止されていなくても、原発存続の理由にはなりません。問題があるのなら、その問題のある機能も廃止にしなければならない。もちろん、『コストが結果に見合わない』場合ですがね。その判断は、極一部の問題だけで行うのではなく、もっと広い範囲を捉えなければなりません。そして、それぞれのメリットとデメリットを比較して、コストに見合った結果が得られるかどうかを判断の基準とするのですね。また、それはもちろん、原発以外の発電手段の有効性も論点となってきます。
では、まず、原発のメリットとデメリットをそれぞれ列挙してみます。と言っても、メリットデメリットの中には疑わしいものから、ほぼ確かなものまで幅広くあるので、その違いも明記しなければなりません。
まずは、明らかなメリットから。
1.ウラン産地は世界各国に分散しているので、原油のように、政治リスクに伴う供給不安がない
2.ベースロード電源としては優秀
3.日本は技術力でリードしている部分があるので、輸出ビジネスとして有効
次に、疑わしいメリット。
1.CO2排出量が少ない
2.(部分的に観れば)コストが安い
最後に、かなり疑わしいメリット。
1.プルトニウムによる燃料の再利用が可能
今度は、デメリットを列挙します。まずは、明らかなデメリットから。
1.一度でも事故が起これば、国家規模の被害が出る
2.強レベルの放射能による健康被害
3.(廃棄物処理、停止中にかかる費用、などの)コストが高い
4.発電コントロールが難しい
5.ウラン資源の枯渇懸念
6.政治家や官僚などの不正の温床
次に、疑わしいデメリット。
1.CO2排出量が多い
2.低レベルの放射能による健康被害
立場によって、メリットにもデメリットにもなるもの。
1.核兵器への転用が可能
と、ザッとこれだけ上げてみました(もし、まだあるぞって主張があったら指摘してくれると助かります)が、説明が必要ですね。まず、コストという言葉には、資源としてのコストと労働力としてのコストがあります。特別分けませんでしたが、これは分けて判断するのが困難だったからです(が、実はこの違いはとても重要です)。
また、メリットとデメリットで、それぞれ矛盾する内容があります。これは、敢えてそうしてあります。実は原発には、様々な話が飛び交っていて、内容が一定していないので、公平に取り上げるのなら、こうなってしまうのです(一見、矛盾しているようで、実は違うというものもありますが)。
では、“メリット”から特に説明が必要なものについて、述べていきたいと思います。おさらいすると、メリットは以下でした。
1.ウラン産出地が世界各国に分散しているので、原油のような、政治リスクに伴う供給不安がない
2.ベースロード電源としては優秀
3.日本は技術力でリードしている部分があるので、輸出ビジネスとして有効
この中で説明しなければいけないのは、『2.ベースロード電源としては優秀』でしょう。ベースロード電源というのは、最低限常に供給し続ける電力源というような意味ですね。使用料の変動に合わせて、発電量を増やすのではなく、常に発電し続ける部分です。
原発は一度発電し始めると、途中で停止する事は困難なので、結果的にベースロード電源の役割を担う事になります。莫大なエネルギーを持つ上に、一度反応すれば自動的に核反応は続くからですが。ただし、この点はデメリットにもなります。停止がし難い。これは、つまりは、発電コントロールがし難い事を意味します。
因みに、電力需要の低い夜間でも原発は停止させる事ができないので、発電し続けるしかありません。夜間の電気料金が安い理由の一つが、これだとも言われていますね。電力供給量の方が需要よりも多いのです。
次に“疑わしいメリット”を説明したいと思います。“疑わしいメリット”の内容は以下です。
1.CO2排出量が少ない
2.(部分的に観れば)コストが安い
この二つは、いずれも矛盾する内容が、デメリットの中にありますね。
まずは、『1.CO2排出量が少ない』から説明します。原発は、ウランを燃焼している稼働中には一切、CO2を出さないとされていますが、これには反論があります。稼働中はCO2を出さなくても、ウラン精製時にはCO2を出すというのです。また、ウランを採掘する過程でも、膨大な鉱物資源を掘り起こさなくてはならないので、CO2を排出するとも言われています。ただし、それでも火力発電所に比べれば、CO2排出量は少ない可能性は大いにあり、定かではありません。なので、僕は『1.CO2排出量が多い』というデメリットも“疑わしい”としました。
続いて、『2.(部分的に観れば)コストが安い』について。これは、デメリットの中の『3.(廃棄物処理、停止中にかかる費用、などの)コストが高い』と矛盾していますね。
以前の主張では、原発は“コストが安い”という事になっていました。初期費用はかかるものの、それに対する発電量が膨大である為に、結果的にコストが安くなる、と。しかし、これは現在では“都合良く作られた数字”である事が知られています。
その“コストが安い”という計算の中には、核廃棄物の処理コストが入っていませんし、夜間に無駄に発電した分を蓄える為の、揚水発電のコストも含まれていない。また、これは予想ですが、停止中の原発費用も、恐らくは計上されていないのではないでしょうか。何故かテレビのニュースではあまり報道されませんが、原発は停止中もかなりのコストがかかるのだそうです。最近の電力会社の損失について、火力発電所の為の燃料費等がかかる、と説明されていますが、確実に停止中の原発費用もその要因になっているはずです。
ただし、限定的には、事実であるという面もあると判断し、疑わしいメリットの中に含ませました(この点については、後でもう少し説明します)。
では、次に“かなり疑わしいメリット”。
1.プルトニウムによる燃料の再利用が可能
これは、高速増殖炉の事ですね。
もしこれが成功すれば、実質、2000年間は資源の枯渇が心配ないと言われています。
が、
高速増殖炉の開発は世界各地で失敗していいる上に、通常の原発よりも遥かに危険な代物です。最近になって、中国で実運転に成功したというニュースが流れましたが、どの程度のものなのかは、大いに疑うべきでしょう。更に、日本は地震の巣ですから、はっきり言って、高速増殖炉の研究開発はリスクがあり過ぎて、とても現実的とは言えません。高速増殖炉“もんじゅ”で、危うく大惨事になるところだった事故も記憶に新しいですが、そういった実績を観ても認めるべきでないのは明らかです。
また、仮に高速増殖炉の実用化に成功したとしても、維持コストがかかるのであれば、ほぼ意味がありません。何故なら、少子化が深刻な日本は将来、労働力不足になると予想されるので、労働力がかかる発電手段は好ましくないと考えられるからです(これは、原発全般の問題点でもあります)。
次に“デメリット”を説明します。
1.一度でも事故が起これば、国家規模の被害が出る
2.強レベルの放射能による健康被害
3.(廃棄物処理、停止中にかかる費用、などの)コストが高い
4.発電コントロールが難しい
5.ウラン資源の枯渇懸念
6.政治家や官僚などの不正の温床
『3.(廃棄物処理、停止中にかかる費用、などの)コストが高い』と『4.発電コントロールが難しい』については、既に説明したので省き、『5.ウラン資源の枯渇懸念』から説明します。
ウランは実はそれほど豊富な資源ではありません。可採年数は、変わる数字の代表格なので色々と言われていますが、長くても100年ほどしか持たないと言われています(60年なんて意見も)。中国を始めとする他の国々が、原発を製造しまくっているので、ウランの価格高騰はもっと早くから起こるでしょう。また、円の価値が下がれば、自ずからウランのコストも上がります。
つまり、将来的にはウランの供給不安が考えられるのです。そうなれば、当然、電力料金は上がります。これは、間違いなくデメリットの一つです。
次に『6.政治家や官僚などの不正の温床』を説明します。原発は公共事業と結びつき、様々な人の思惑で利権構造が出来上がってしまっています。税金を利用して、利益を得ようとする人々がいるのはほぼ自明でしょう。これは、直近の原発問題を考える上で、もっとも厄介な点かもしれません。
では続いて、“疑わしいデメリット”。
1.CO2排出量が多い
2.低レベルの放射能による健康被害
『1.CO2排出量が多い』については、先に説明したので、『2.低レベルの放射能による健康被害』を説明します。
低レベルの放射能と健康被害については、相関関係しか提示されていません。確かに、それでも不安は不安ですが、多少、ヒステリックに反応し過ぎている点も事実でしょう。
では、続いて“メリットにもデメリットにもなるもの”。
1.核兵器への転用が可能
個人的には、これはデメリット以外のなにものでもないのですが、日本も核武装した方が良いと考える人にとっては、明らかにメリットでしょう。
価値基準の差によって、180度評価が分かれるので、判断不能としました。
ただ、個人的には、非核三原則に違反していると考えられる点も考慮に入れ、明らかに問題点だと思うのですが。
では、メリットとデメリットを説明し終えたので、これを踏まえた上で、コストに見合う結果が得られるかどうかを判断したいと思います。
ただし、ここでもう一つ、注釈を入れさせてください。
時々、短期間のみ効果がある事と、長期間効果がある事を混同してしまう人がいます。ですが、この二つは全く違います。
例えば、煙草。短期的には、煙草を吸えば快感を得られるのでストレス解消になると考えている人がいるようですが、それは飽くまで短期的な話です。長期間吸い続ければ健康を害し、却ってストレスが溜まります。
短期間のみ効果のある事の利用は、限定して行われるのが普通で、基本的には長期間効果のある事を行うべきです。もちろん、これは原発に対しても言える事です。長期的にメリットとデメリットを判断した場合、原発は果たしてコストに見合った結果が得られるのでしょうか?
結論から言わせてもらうなら、確実にNOであると僕は判断します。何より、『ウラン資源の枯渇』という問題点が致命的だからです。いずれは枯渇する資源に長期間頼り続ける事が、現実的ではないのは自明でしょう。仮に原発が安全であったとしても、これでは利用しようがありません。デメリットの説明でもしましたが、発展途上国が原発をかなりの量、製造しているので、ウランの価格高騰は、もっと早くから起こります。
将来世代の事など、少しも考えないのであれば、それもまた違ってきますが、それではそもそも長期的判断ではなくなってしまいます。
また、日本の大問題として、“少子化”があります。これは、将来は労働力が不足するだろう事を意味してもいます。という事は、ウラン資源が枯渇する頃にエネルギー転換をやろうと思っても、労働力不足により難しくなるだろう事が予想されます。この労働力不足問題は、核廃棄物の処理にとっても問題になります。
核廃棄物処理の費用は、電気料金に含まれており、積立てられているなどと説明されていますが、労働力が不足すれば、どれだけ積立てられていても無意味です。労働力不足に伴い物価が上昇し、積立金は実質、減ってしまうからですね(そもそも廃棄物処理にはどれだけの費用がかかるのか、漠然とした試算しか出せていないのですが。国家予算規模の費用がかかる、なんて主張をしている人もいます)。
労働力不足は、ウランの再利用を認めたとしても、問題になります。労働力が不足している状況下では、いくら資源があったとしても、それは活用できません。
因みに、自然エネルギーは、一度製造してしまえば労働力不足があまり問題になりません。何故なら、太陽光発電も、風力発電も、地熱発電も維持費が安価だからです(製造コストは高い)。更に、太陽電池は再利用効率が高く、風力発電は耐用年数が100年以上です。つまり、労働力が余っている今の内にできるだけ造っておけば、労働力が不足するだろう将来に備えられる、という事になります。また、もちろん、そうして太陽電池などを造れば、その分での雇用創出効果も期待できます。つまりは、景気が回復するのです(デメリットももちろんあります。人件費が上がれば、国際競争力を下げるでしょう。ただし、対策により、その影響を下げる事は可能です)。
余談ですが、太陽電池には理論的な太陽光利用効率が、50%の原理や80%にも達する原理が存在します。まだ、開発途中ですが、もしその開発に成功し実用段階に達すれば、太陽光発電と蓄電だけで、かなりの電力を賄う事が可能になるはずです。
この他にも、もちろん、長期間、原発を活用する事の問題点はまだあります。長期間利用すれば、大事故が起こる可能性も当然、大きくなります。老朽化も重なりますから、更にリスクは高く判断する必要があるかもしれません。政治家や官僚などの不正の温床になっている点も、かなり不安です。
以上の点から、長期間の活用に関しては、原発の活用はほぼ有り得ないでしょうが(奇跡的な技術革新でも起これば、話はまた違ってくるかもしれません)、短期間に注目をした場合は、そうとばかりも言い切れません。
何故なら、既に原発は既にそこに存在していて、ウラン燃料も国内にあるからです。更に、原発は停止中でもかなりのコストがかかるので、稼働させないのは、明らかに損です。どうせなら、稼働させた方が良い、かもしれません。少なくとも、代替エネルギーの開発が軌道に乗るまでの間くらいは。
ならば、地域に人口が少なく、地震の可能性も低いと考えられ、重要な位置にない原発を選んで稼働させる、という選択肢は現実的という点は認めるべきかもしれません(因みに、浜岡原発は完全にアウトです。地震が起こる可能性が高く、日本の動脈の一つでもあるからです)。
が、ここにも少し不安な点があります。
果たして、理性的な判断やコントロールを、今の政治に求められるでしょうか? 一度、稼働を認めさせてしまったら、なし崩しで、原発政策が続行されてしまうかもしれない。また、本来なら原発再稼働を許すべきではない、重要な地域にある原発の稼働を行ってしまう可能性もあります。原発事故以来、衰退し続けている原子力産業が、再稼働を認める事で、復活してしまうかもしれない。
最近の、政治の原発再稼働に対する強引な手法、ネットでの原発推進派の盲信的な態度を観ると、そんな不安を僕はどうしても覚えてしまうのです。
また、そうして原発再稼働を認めなければ、メタンハイドレートの採掘や、自然エネルギーの開発を促す事が可能かもしれません。
個人的には、直近での原発再稼働、短期間での利用についての判断はどちらとも言えないと思っていたのですが、最近になって、少し再稼働反対に傾いてきました。
なんだか、やっぱり、原発反対派の意見になってしまいましたが、可能な限り、メリットとデメリットは公平に記述したつもりです。判断材料を提供する、という目的は果たせたつもりでいます。
あなたが、真剣に悩んでくれることを望みます。