名前を呼んで
恋愛ちっくなタイトルですが、姉から弟への気持ちです。 こんな兄弟愛があってもいいんじゃないかなぁ…
「会いたいよぉ…」
「…っ…」
大切な人がいなくなった
それも突然…
私には大切な人がいた。
今はもうここにはいないけれど…
もしかすると、友達や彼氏よりも大切だったかもしれない。
私のたった一人の家族。
喧嘩もして、辛いときは一緒に泣いて、励ましあって…
大切な弟。
私達の両親は、私達が小さい頃に離婚して、私達二人は母についていった。
父がいなくなって、少しは淋しかったけど、私は大好きな弟と一緒にいれることが嬉しかった。
だからそんなに淋しさは感じなかった。
母は私達二人を養う為に、一日中働いていた。
あの頃は、母がどんな仕事をしているのか分からなかったけれど、たぶん夜の仕事だったんじゃないかと思う。毎晩違う男の人が、母を家まで送ってきてたから。
それがいつからだったか、母が帰って来ない日が続くようになった。
母は働きに行く前、必ずご飯は用意してくれていた。しかし、そのご飯も用意されることはもちろんなく、私達二人は、しばらく空腹で何日間か過ごしていたように思う。
「お姉ちゃん…お腹空いた…」
「うん…」
「僕達、ご飯いつになったら食べれるの?ママが帰って来るまで食べれないの?」
…それは辛い。
いつ帰ってくるのか分からないのに、それまで待ってるなんて無理な話だ。
「…待ってて!私が作るから!」
「ホント?…じゃあ、僕も手伝う!」
この日から、私達二人の生活が始まった。
母はごくたまに帰ってきてたみたいで、私達が学校から帰ってくると、テーブルの上にお金が置いてあった。
そのおかげで、私達二人は路頭に迷う事もなく、暖かい布団で寝る事も出来た。 そのうち、母がいない生活にも慣れて、私達は成長していった。
今思えば、ちゃんと高校まで行けたのだから、母はどこからか私達の事を見ていたのだろうか。
学費をちゃんと払っていたんだから。
私達は母に捨てられたわけではなかったんだと思う。学校から帰ると、お金はテーブルの上に置いてあったし、実際生活に困る事はなかったし。捨てられたというような、悲惨なものじゃないように思う。
難しいとこだけど…
気付けば、弟は私の事を
『お姉ちゃん』
とは呼ばなくて、名前で呼ぶようになっていた。
身長も、気付けば私を抜いていた。
大きくなったなぁ…
まるで親のような気持ちで、弟の成長を見ていた。
小さな頃からずっと一緒で、弟がいたから私は、母がいなくても淋しいと思わなかったし、これからもずっと一緒にいるもんだと思ってた。
なのに…『俺さ、お前が姉ちゃんで良かったわ。マジでそう思う』
『俺が、今度は面倒見てやるからさ。』
嬉しかった。
社会人になって、自信がついたんだろうね。
あんたがそんな事言うなんて…
必死で泣くの堪えてたんだよ。
笑われるの嫌だったから。
「何言ってんの。あんたらしくない」
何で素直に
ありがとう
って言わなかったんだろ。
何でちゃんと
嬉しいよ
って伝えなかったんだろ。
今となって、後悔ばかりが私を苦しめる。
「会いたいよ…」
「もう一度名前呼んでよ…」
あんたに呼んでもらうのが
一番安らげたんだよ…?
私の家族はあんただけなのに。
何で私を一人にするの?
「会いたいよ。会いたい」
願っても、叶えられない願い。
誰にお願いしても、誰も叶えてくれない。
涙が溢れて止まんない。
これから私は一人で生きていかなくちゃいけない。
母なんて家族だとは思えない。
苦しい。辛い。
弟の存在が、こんなに大きいものだったなんて。
今更になって気付いた。
バカだなぁ…
私だって、あんたが弟で良かったよ。
誰よりも大事だったよ。
私の弟でいてくれて、本当にありがとう。
会いたい願いは叶わないかもしれないけれど、
もしも…もしも、私の近くに来たのなら、
もう一度名前を呼んで。
絶対聞き逃さないから。
あんたが私の名前を呼ぶ声は、私がおばあちゃんになっても忘れない。
大切な弟…
近くに来たら
名前…呼んでね