乙女ゲームヒロインの猫の様子がおかしい
乙女ゲームのヒロインが目の前にいる。
そのヒロインの膝の上に、猫がいる。
それは原作でもいたペットキャラだ。
画面越しに散々みなれた黒猫だ。
だが、様子がおかしい。
原作の猫は額に変な模様とかなかったし、背中に黒い羽なんては生えてなかったし。なによりーー。
(何を見ている。小娘)
テレパシーっぽい力で人の脳内に語りかけてきたりはしなかったはず。
一体どういうことなの?
私は、乙女ゲームの世界に転生した。
それが分かったのは、7歳になった頃だ。
うっかり転んで、テーブルの角に頭をぶつけるという、そんなまぬけすぎっるきっかけで、前世の知識を思い出した。
転生したのはお金持ちの貴族令嬢。
生活で困る事がないのはラッキーだろう。
前世でブラック気味の会社で働いていた身からすると、お金があって余裕のある生活は大歓迎だ。
そんな私は、好きだった乙女ゲームの世界に転生できたことに喜んだ。
第二の人生は満喫してやると誓い、推しのキャラとうきうきで知り合ったり、交流を深めたりしていたのだが、私がとある人物と知り合った時点でおかしな事が起きていた。
ヒロインのペットが、おかしい。
こういうのって前世の知識を持って転生した人間が、色々やってから、変わるものだと思うのだけど、私以外に転生者がいたのだろうか。
それとなく知り合ったものたちに、変わった人間がいやしないか聞いて回ったのだが、「それはお前だ」と言われるばかりで、有益な情報がかえってっはこなかった。
ヒロインも「推しとか、ゲームとか変わったことを教えてくれる人はあなた以外にはいませんよ」と言っていたし。
サブキャラやモブなども「変な場所で興奮したり、何気ない発言で一喜一憂する人間なんてお前しかいないだろ」と言われたし。
一体なんでこんなおかしなことになっているのだろう。
とはいっても、その変化の主ーーヒロインのペットが、脅威になるかというとそうではない。
だから、特に対処することなんてないのかもしれない。
でも、たまに脳内に話しかけられるとびくっとするっていうか、怖いっていうか、気になるっていうか。
(おい、小娘。ポケットの中にお菓子が入ってるだろう。我によこせ)
今日もヒロインをうちに招いて、中庭にテーブルセットを配置し、お茶会を楽しんでいたんだけど、これだ。
猫に脳内でそんなことを言われて、びくびくしてしまう。
なんでこのペット偉そうなの?
一人称我だし。
それって創作ものでは偉そうな立場の人間が口にするものじゃない?
絶対にそうかと言われるとそうじゃない場合もあるけども。
この猫、魔王とか邪神とかじゃないわよね。
正体はなんなの?
ゲームでは人に話しかける猫の情報なんてなかったわよね。
もしかしてこの猫が転生者なんじゃないの?
そんなふうに私は、猫に脳内で話しかけられるたびに、実に色々なことを考えた。
心臓に悪い時間がこれ以上続くと色々もたないし、私は悪いことを考えるととことん悪い方にいってしまう人間だ。
前世でも過労になると心が沈んで涙がちょちょぎれることがあった。
だから、耐えきれなくなってその猫に話しかけた。
今まで無視していたけれど、さすがにこのままだと何も分からないので。
「も、もしかして転生者の方でしょうか」
「貴様、我の声がやはり聞こえていたのではないか。よくも今まで無視してくれたな」
ふしゃー!
ばりばり!
というわけでコミュニケーションをとろうとしたら、ひっかかれた。
怖いけど、とりあえず無視されたら、嫌だろうし、すみません。
「我は転生者などではないぞ」
落ち着いた頃に話に応じてくれた猫は、私の質問に答えてくれた。
「我はこの世の果に報じ込められている悪魔だ。忘れ去れられた太古の生物で、今の時代には記録にも残っていない存在らしいな」
でも、開けたくない箱をあけてしまい、真っ黒なものでつまった危険な中身を見てしまった。
原作には世界を滅ぼそとするネコ(の皮をかぶった悪魔)なんていなかったけど、本当に大丈夫な存在なんだろうか。
「我は、別の次元から何かが移動してくる気配を感じて、目が冷めたのだ。あれはなんだろうな、人の魂が発するエネルギーに似ていた」
「ひぇぇ」なんて思っていたら、まさかの事実が発覚した。
「お前は転生者なのだろう? ならばお前が我を目覚めさせたのではないか?」
それはもしや、私が転生したせいで、目の前のこの悪魔が目覚めてしまったということだろうか。
どうしよう私のせいで、世界が破滅したりしたら。
転生してラッキーだと思っていたら、とんだ展開だ。
私は体を小刻みに震わせながら、声を発した。
「……世界、滅ぼさないでくださいね」
「ふん、なぜ我が人間のペットなんてものをしていると思っているのだ。眠っていた期間が長すぎて力が戻らんのだ」
なるほど、それなら一安心、なのかな?
「長い間封印されていて、暇な時間には飽きたことだしな。わざわざ生命体を滅ぼして、刺激のない毎日に送ることもないだろう」
それなら今後、破壊活動はしない方向性で?
「太古の昔は、我も若かったから、色々な種族を絶滅させてしまったが、もう少し考えて行動するべきだったな」
なんか怖い情報が出てきたけど、今おとなしいなら大丈夫だと思う。思いたい。
そんなこんなで原作にはない存在がヒロインのペットになっていたが、それからの日々が血にまみれることも悲劇が生産されることもなかった。
なかなか寛容なところもあるようで、ペット様はたまにもふらせてくれたり、なでさせてくれたり、ごろんしてくれることもある。
前世でも今世界でも、ネコなんて興味なかったけど、これはこれでやみつきになりそうだ。
そんなこんなをしながらも私は、普通にお茶会したり社交パーティーに出たりしていた。
原作が始まってからは、勉強に恋に友情したりもだ。
それで普通に卒業式を終えて、エンディングのシナリオも終わった時にはこんなものかと思った。
だが、これでいいのだろう。
何よりも平和が一番。
平和に推しと日常を過ごせるのだから、変な刺激など要らないのだ。
「む、小娘ーー我が目覚めた時のような気配を感じるぞ」
「え?」
「いや、気のせいか、今日は眠いからな。よくあることだ、気にするな」
「そこ重要です! もうちょっとしっかり、感覚をしっかりもってください!」
なんて思っていたのに、この猫ちゃんは。不安になるようなことを言わないでくれません?




