浮気の濡れ衣を着せられたので、それに乗っかることにしました
「リーシャ!お前との婚約を破棄する!理由はお前の浮気だ!」
学園の大広間でブレイグが私に向かって宣言した。彼の隣にはクラスメイトのエリファがにっこりと佇んでいた。広間にいる学生達も何事かと私たちの周りに集まってくる。
浮気しているのはどっちよ。エリファと毎日お昼を一緒に食べて、街にデートに行ったりしてるくせに。本人達は隠し通せてると思っているかも知れないが、あんな派手な格好して外出してれば嫌でも目に入るというものだ。
「私が浮気ですか?そのような事をした記憶はないのですけど?」
「しらばっくれるな!俺は見たんだからな!お前が見知らぬ男とキスする所を!昨日の放課後、教室での行為をしっかり見てしまったのだ!」
「私も見ましたわ!」
ブレイグの大きな声に続いて、エリファの甲高い声。合唱みたいな、見事な後追いだ。
学生達が彼らの言葉でざわざわ揺れる。
「他の殿方と接吻だなんてハレンチですこと!」
「あのリーシャさんが浮気……信じられない」
「でもブレイグ様も……」
ひそひそと学生の間で噂が巡り回る。その断片が私の耳にも聞こえてくる。
「キスですか。――ブレイグ様の浮気の定義はキスなのですね」
「どういう意味だ」
「いえ、目を見るだけでも浮気だ、という者もいれば、手を繋ぐのもデートするのも浮気じゃない、という者もいるので」
「そんなどうでもいい話で話題をそらすな!何をごまかそうとしている!――まさか、俺に隠れて男とデートしていたのか!?デートもキスも浮気に決まっているだろう!言い逃れなんて出来ると思うなよ!」
「なるほど、ブレイグ様の浮気はデートからなのですね」
私はにっこりと笑う。
ブレイグは墓穴を掘っていることに気が付いていないのだろう。勝ち誇ったその表情が彼の心情を物語っている。気分は悪女を断罪する正義のヒーローに違いない。
「では私からも――ブレイグ様、あなたとの婚約を破棄します。理由は同様、あなたの浮気です」
「なっ!」
ブレイグは私の言葉に焦り、一瞬隣のエリファを見る。
自覚あったのですね……本当に救いようがない。
「ブレイグ様、エリファさんとデートに行かれたことがありますよね?私、しっかりとこの目で見ましたよ」
「なっ!何をバカなことを!第一、お前一人の証言でどうなると言うのだ!」
「いえ、そんなの学園の生徒なら誰でも知っています。ねぇ皆様」
私がそう言って周りの学生に目を向ける。
「私見たんだけど、この前キラキラの服着て王都の街にエリファさんとブレイグさんが歩いてて……」
「私も見た!――でも王都じゃなくて観光地のレイウン湖にいらしたわ!」
「前からその話はあったし、今に始まった事じゃないでしょ」
彼らの返答など聞くまでもない。その噂話の断片だけでも、十分すぎるほどだった。
「さて、何か言い分はありますか?ブレイグ様」
「わ、分かった。確かにエリファとデートはしたさ。でも、お前はキスだ!見知らぬ男とキスをしたのだぞ!どっちの罪が重いと思っているのだ!」
「あぁ、まだその主張をされていたのですね」
私はにっこりと笑みを浮かべて続けた。
「ここは貴族の子供を預かる学園。部外者の侵入はあり得ません。今は他の学年の生徒はダンジョン攻略に行っているので――見知らぬ男なんているはずがないのですよ」
私の台詞を聞いたときのブレイグの驚いた顔。何か反論しようとしたのか口を開いたが、何も思い付かなかったのか空中で口をパクパクさせるその間抜け面。まるで陸に上がった魚を想起させるその行動に、私は思わずフフッと笑った。
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