懐古テツクズ号第5話:限界突破の前夜、五人の決意
第15層到達を翌日に控えた夜。テツクズ号は、これまでにない異様な「熱気」に包まれていた。
それは階層の気温のせいではない。エアコンは正常に作動し、外は静かな闇が広がっている。しかし、居住区の空気は、四人の少女たちが放つ無言の圧力と、隠しきれない期待感で、肌がヒリつくほどに濃密だった。
「……明日になれば、15層。……そこを越えれば、いよいよアスモデウスの領域が近づくわ」
フィオナが、磨き上げた剣の柄を握りしめながら、決然とした声で口を開いた。
「……だから、シュウ。……今夜くらいは、私の隣で……王家の守護を、授けてあげてもいいわよ?」
「ちょっと! 王家の守護なんて名目で、シュウを独占しようったってそうはいかないわ!」
エレインが立ち上がり、猛烈な勢いでエルフ耳をピクピクッ!と跳ねさせた。
「……さっきから、耳がうるさいわよ、エレイン」
「……うるさくないわよ! これは魔力の高まり! ……シュウ、私の隣も空いてるわ。……魔法の理論構築を手伝いなさい!」
二人の視線が火花を散らす。そこに、音もなくミーニャがシュウの背後に回り込み、その首筋に顔を埋めた。
「……シュウ。……私は、言葉、いらない。……体温で、語る。……決定」
「……ん、ミーニャ、くすぐったいぞ」
シュウが困惑して身をよじると、ミーニャの猫尻尾がシュウの腕にぎゅっと巻き付き、離さないという意思を示す。
「……あらあら。皆さん、目的地を前にして、少々理性が限界のようですわね」
リィネが、淹れたての茶の香りを漂わせながら、優雅に、けれど確実にシュウの正面を陣取った。
「……私の千里眼によれば、今夜はこのテツクズ号の中で……誰かが『境界線』を越えて、シュウ様の寝所に忍び込む確率が、限りなく100%に近づいていますのよ?」
「なっ……!?」「な、何を不潔なことを……!!」
フィオナとエレインが同時に叫び、顔を林檎のように赤く染める。
だが、その瞳は、リィネの言葉を否定するどころか、「自分がその一人になってやる」と言わんばかりの熱を帯びていた。
「……お前ら、いい加減にしろ。……明日は早いんだ、しっかり休んでおけ」
シュウが溜息をつき、ランプの火を消そうと手を伸ばす。
しかし、暗闇に包まれようとする車内で、四人の視線は一点も逸れることなくシュウを捉えていた。
「……休むなんて、無理よ。……シュウ、あんたが……あんたがそんなに無防備だから……!」
「……そうよ。……私たちの『親密度』、……もう計算式が破綻するくらい、膨れ上がってるんだから!」
耳を真っ赤にして叫ぶ王女とエルフ。静かに爪を立てるスカウトと、微笑みの裏に情熱を隠す賢者。
鋼鉄の壁に守られたこの「揺り籠」の中で、彼女たちの淡い恋心は、もはや「友情」や「仲間意識」という言葉では括れない、巨大なエネルギーへと進化を遂げていた。
「ガハハ! 相棒、聞こえるか? この賑やかさこそが、魔王を喰らうための最強の『絆』ってやつだぜ!」
ミラー越しに親指を立てるガストンの笑い声が、夜の静寂に響く。
テツクズ号は、少女たちの決意と、抑えきれない恋心の熱を乗せて、運命の15層へと滑り出していく。




