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『神託の儀と、底辺の境界線』

聖クロイツ学園の大講堂は、熱狂と選別の残酷な空気に包まれていた。

 十五歳の春に行われる『神託の儀』。授けられる固有スキルは人生の指標となり、平民が貴族を凌駕する唯一のチャンスであり、同時に無能を切り捨てるための残酷な儀式でもあった。

「……判定終了。次、平民特待生、シュウ!」

 神官の乾いた声に、シュウは緊張で強張る体を動かし、壇上へ歩を進めた。

 彼は人里離れた魔境で生き抜いてきた「生存術サバイバル」の経験を買われ、特例で入学した少年だ。だが、魔術理論の成績は最下位。この神託に全てを賭けていた。

 祭壇の水晶に震える手で触れた瞬間、シュウの手の甲に、不気味な紋章が浮かび上がる。

固有スキル:『魔物喰い(プレデター)』

「……魔物を、喰らうだと?」

 神官が眉をひそめ、鑑定結果を吐き捨てるように読み上げた。

「効果:魔物の肉を摂取した際の拒絶反応を無効化し、栄養として効率よく吸収する。……以上。戦闘補助も魔力増幅もない。文字通りの『ゲテモノ食い』、生活支援スキルだな」

 一瞬の静寂の後、講堂は爆発的な嘲笑に包まれた。

「特待生が聞いて呆れるぜ」「兵士の炊き出し係がお似合いだ」「汚らわしい、寄るなよ」

 罵詈雑言の嵐の中、次に壇上へ上がったのは、黄金の髪をなびかせたアルトリウス・フォン・グランツ公爵令息だった。

「……見ろ。これが『選ばれし者』の力だ」

 アルトリウスが手を掲げると、眩い光と共に装飾の施された伝説の聖剣が顕現した。

 スキル:『聖剣の導き(エクスカリバー)』。

「おおおっ!」と地鳴りのような歓声が上がる。初期ステータスは驚異の『2,500』。対するシュウの数値は、わずか『15』。

 アルトリウスは勝利者の余裕を浮かべ、すれ違いざまにシュウの耳元で冷たく囁いた。

「魔物を漁るネズミが。私と同じ空気を吸っていると思うだけで虫酸が走る。早々に退学届を出すことだな。不潔なゴミは、学園の景観を損なう」

 イヤミな冷笑を浮かべるアルトリウスの背後には、彼を崇拝する取り巻きと、複雑な表情を浮かべる生徒会長のフィオナ、そして高火力の魔導才女として知られるエルフのエレインが控えていた。

 シュウは何も言い返せず、ただ唇を噛み締めて講堂を後にした。

 彼が向かったのは、華やかな学生寮とは真逆の方角にある、学園の端。

 そこには、学園の実力至上主義からこぼれ落ちた者たちの吹き溜まり――通称『野外活動部』のボロ小屋があった。

「……よう、シュウ。散々な結果だったみたいだな。顔が死んでるぜ」

 小屋の前で、重厚な鋼鉄の塊を黙々と叩いていたのは、ドワーフの同級生、ガストンだった。

 彼は屈強な肉体と、金属に魔法特性を与える『神の鍛冶槌』を持ちながら、「ドワーフの打つ武具は重くて野蛮だ」と騎士道部を追い出され、この場所に追いやられていた。

「……ガストン。俺のスキルは、ゴミだったよ」

「知ってるさ。だがよ、坊主。お前が魔境で獲物を捌く時のあの執念。ありゃあ、スキル云々の話じゃねえぞ」

 ガストンは、自作した無骨な大盾を傍らに置き、シュウに一本のなまくらな短剣を放り投げた。

「そのスキル……『魔物喰い』だっけか。そいつが本当にゴミかどうかは、俺が決めてやる。まずはその短剣で、迷宮のスライム一匹、自力で仕留めてみせろ」

「……スライム一匹、か」

「ああ。エリート共が鼻を明かすのは、お前がその『境界ボーダー』を一つでも超えてからだ」

 夕闇に沈む学園の片隅。

 伝説の聖剣を授かったライバルが称賛を浴びる中、ハズレスキルを授かった少年と、時代遅れのドワーフ職人が、最底辺からの這い上がりを誓う。

 それは、後に世界を震撼させる『最強の捕食者』の、あまりに静かで孤独な産声だった。

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