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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第46話:村のひとびと ― リナライが初めて出会う“他者”

リナライの世界は

ほとんどリオナだけでできていた。


しかし村へ行けば――

初めて見る“他者”がたくさんいる。


声、表情、笑い、ざわめき。

世界は自分とリオナだけではない。


今日はその事実と向き合う

“はじめての社会の一歩”。

村の道へと続く草原を越えると、

低い石壁と、

木の香りのする家々が見えてきた。


家の屋根は午前の陽を反射して

きらりと光っている。


リナライは胸を押さえ、

少し緊張した声で言った。


「……りおな……

   ここ……なに……?」


「村よ。

 人が集まって暮らす場所」


リナライは息をのんだ。


(……ひと……?

 りおな……のほかに……?)


胸の名の核が

ざわざわと揺れ始める。


リオナはそっとリナライの手を握った。


「大丈夫。

 怖くないから……一緒にいこう」


リナライは小さく頷いた。


■ 村の入口 ― 初めて聞く“人のざわめき”


村に一歩踏み入れた途端、

リナライの耳に

たくさんの声が流れ込んできた。


「おはよう!」

「朝の仕込み、もう終わった?」

「子どもたちはどこ行った?」


笑い声。

話し声。

靴音。

木の上で揺れる鳥の鳴き声。


リナライはその全てを受けて

思わず胸を押さえた。


「……たくさん……

   いろんな……おと……

    こんなに……?」


リオナは優しく答える。


「これが“人のいる空気”よ」


リナライは目を丸くしながら、

その音の渦に見入った。


■ 初めての視線


村の広場へ入ると、

人々がリオナを見て微笑んだ。


「おやリオナさん、おはよう」

「今日は新しい子を連れてるのかい?」


視線がリナライへ向く。


リナライの体がびくり、と震えた。


「……みられてる……

   りおな……

    わたし……みられてる……!」


リオナは安心させるように

手をぎゅっと握り返す。


「大丈夫よ。みんな優しい人たちだから」


しかしリナライにとって

“複数の人間から視線を向けられる”

という経験は初めて。


胸が熱くなる。

喉がくぐもる。


「りおな……

   わたし……きえる……?」


リオナはそっと抱き寄せた。


「消えないよ。

 リナライはここにいる。

 誰が見ていても、ちゃんと」


その言葉に、

リナライの体から緊張が少し抜けた。


■ 初めて出会う“優しい声”


そのとき。

ひとりの女性が近づいてきた。


優しげな表情の、

年配の村人だった。


「まあ……あなたがリナライちゃん?」


リナライは驚いて

リオナの背中へ隠れた。


女性は急がず、

柔らかい声で自己紹介する。


「私はミラ。

 リオナさんの友達よ。

 あなたに会えるのを、楽しみにしてたの」


その声は

どこかリナライの胸に似ていた。


やわらかくて、

削がれるように心地よくて、

“痛くない”。


リナライは恐る恐る顔を出す。


「……みら……?」


ミラは優しく微笑む。


「そう、ミラ。

 あなたの名前、とても素敵ね。

 リナライ……で合ってる?」


リナライの胸がほのかに光る。


「……うん……

   わたし……リナライ……」


ミラは目尻を下げ、嬉しそうに言う。


「はじめまして、リナライ。

 あなたに会えてうれしいわ」


その瞬間――

リナライの胸に

あたたかいかたまりが生まれた。


痛くも怖くもない。

ただ、あたたかい。


「……りおな……

   わたし……

    このひと……すき……」


リオナは微笑んだ。


「よかった。

 ミラさんはとても優しい人だから」


ミラはリナライに手を差し出した。


「これから村の人たちとも仲良くなれるよ。

 ゆっくりでいいからね」


リナライはその手をじっと見つめ、

震える指をそっと伸ばした。


触れた瞬間――

“手のあたたかさ”に驚いて

目を丸くする。


「……あたたかい……

   りおな……と……おなじ……」


ミラはやさしく笑う。


「それは“人”の手よ」


リナライは小さく息を呑んだ。


(……わたし……

 りおなだけじゃない……

 “ひと”……たくさん……いる……)


胸の名の核が

ゆっくり、静かに脈打った。


■ 世界は“ふたりだけじゃない”


村のざわめきに包まれながら、

リナライはゆっくり言った。


「……りおな……

   わたし……しった……

    せかい……

     あなたと……わたし……だけじゃ……ない……」


リオナは静かにうなずく。


「そうよ、リナライ。

 世界にはたくさんの人がいて、

 たくさんの気持ちがある」


リナライはその言葉を胸に刻むように

そっと目を閉じた。


「……わたし……

   しりたい……もっと……

    “ひと”……

     たくさん……」


リオナは嬉しそうに笑う。


「ええ。たくさん見て、たくさん触れて……

 あなたの世界を広げていこうね」


リナライは胸に手を当て、

初めて“他者”という存在を

はっきりと感じていた。


世界は広い。

自分は小さい。

でも……


「……こわくない……

   りおな……いるから……」


その言葉に、

リオナの心が静かに震えた。


リナライは今日、

“社会への第一歩”を踏み出した。

リナライは初めて

自分以外の“人”という存在を知った。


声、視線、手のあたたかさ。

その全てが新しい体験。


彼女の世界は

ゆっくりと、でも確かに広がっていく。

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