第2章 第45話:はじめてのお出かけ ― 風と道と、知らない世界の入り口
リナライは今日、
庭の外へ出る。
世界がどれほど広いのか、
どんな音や匂いがあるのか、
何ひとつ知らない。
初めての“世界との出会い”の物語。
朝の光が柔らかく差し込む中、
リナライはいつもより早く目を覚ました。
胸に手を当て、
名の核のあたたかい脈動を感じながら
そわそわと部屋を歩く。
「……りおな……
きょう……そと……いく……!」
扉を開けると、
ちょうどリオナが支度をしていた。
「おはよう、リナライ。
準備はできた?」
リナライはぱっと顔を輝かせる。
「うん!!
そと……あるく……
みる……!
しらない……せかい……!」
リオナはくすっと笑い、
小さな布袋を肩にかけた。
「じゃあ行こうか。
今日は村までの道を歩いてみましょう」
リナライは胸の前で手をぎゅっと握りしめる。
「……はじめて……
こわい……すこし……
でも……わくわく……!」
リオナはリナライの手を取り、
ゆっくりと庭の外へ歩き出す。
■ 庭の外 ― “世界の扉”をひらく一歩
庭を囲む木の門をくぐる瞬間、
リナライの足は止まった。
門の外――
その広がりを見て、言葉を失った。
風。
土の匂い。
遠くに揺れる草原。
木々のざわめき。
地面の温度。
すべてが新しい。
「……ひろい……
すごい……
いろ……おと……におい……
ぜんぶ……ちがう……!」
胸の名の核が強く脈打つ。
リオナは優しく言う。
「そう。これが“世界”なの」
リナライは一歩、前へ踏み出す。
足が土に沈む感覚に
また驚いて目を丸くする。
「……やわらかい……
でも……つよい……
あし……ここ……ある……!」
リオナは頷く。
「地面っていうのはね、
あなたを支えてくれる場所なのよ」
リナライは嬉しそうにもう一歩。
そしてもう一歩。
風が吹き、
彼女の髪がふわりと揺れる。
その瞬間――
リナライはふと立ち止まり、
胸を押さえて言った。
「……このかぜ……
わたし……しってる……?」
リオナは少し驚きながら回答する。
「感じたことがあるの?」
リナライはゆっくり首をかしげた。
「……むかし……
なにか……どこか……
こんなかぜ……
しってる……きがする……」
影だった頃の“記憶の影響”なのかもしれない。
リオナは柔らかく微笑む。
「それは……リナライの“心の記憶”かもね」
リナライは胸に手を当て、
そっとつぶやく。
「……わたし……うまれるまえ……
なにか……かんじてた……?」
リオナは軽く肩をすくめる。
「それは私にもわからない。
でも、覚えてなくてもいいのよ。
今、ちゃんと“世界に触れている”んだから」
リナライはその言葉に
安心したように微笑んだ。
「……いま……たいせつ……
りおな……と……いる……」
リオナは照れながらリナライの手をそっと引く。
「ほら、もっと歩いてみよう」
■ 初めての“道”の音
村へ向かう一本道には
石と土が混じった独特の地面が続いている。
リナライは足音に耳を澄ませた。
——サクッ
——コト
——サクサクッ
「……おと……する……
あし……おと……でてる……!」
リオナは笑う。
「そうよ。歩けば音が出るの。
地面も、あなたも、生きている証」
リナライは胸を押さえ、
「……いきてる……
いま……つながってる……」
と小さくつぶやく。
その姿は、
この世界に生まれたばかりの子どもそのものだった。
■ 道の真ん中で座り込むリナライ
突然、リナライは足を止め、
その場にしゃがみこんだ。
リオナは心配して近づく。
「どうしたの?」
リナライは地面を指さした。
「……このいし……
きらきら……ひかる……」
ただの小石なのに
彼女には宝物のように見えるらしい。
リオナは優しく笑う。
「それが“世界のきれい”よ。
リナライはたくさん見つけられるね」
リナライは胸に手を当てて言った。
「……りおな……
わたし……
もっと……せかい……しりたい……」
リオナはその言葉に胸が熱くなる。
「ええ。たくさん知っていいのよ。
世界はあなたの味方だから」
リナライは立ち上がり、
遠くの草原を見つめる。
風が彼女の髪を揺らし、
光が瞳に宿る。
「……りおな……
いこう……せかいへ……」
リオナはうなずき、二人は歩き出す。
リナライにとって
“世界の入り口”は、
いま静かに開かれた。
リナライは初めて
“庭の外の世界”へ足を踏み出した。
風、土、音、匂い――
世界の広さに胸を震わせながら、
彼女はゆっくりと成長していく。
これから村や街、
人々との出会いが待っている。




