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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第43話:はじめての痛み ― 小さな傷と、はじめての涙

“食べる喜び”を知った翌日、

リナライに訪れたのは

生きている者なら避けられない

“痛み”という経験。


その瞬間――

彼女は初めて涙を流す。


痛みと涙の意味を知る物語。

朝の庭は静かで、

鳥の声が少し遠くで聞こえていた。


リナライは、

昨日覚えたばかりの“歩く”練習を

庭の端で一生懸命続けていた。


リオナは少し離れたところで

微笑ましく見守っている。


「……みて、りおな……

   ゆっくり……できる……!」


彼女は慎重に、一歩、また一歩。

足の裏で地面の形を確かめながら歩く。


だが、

その先に――

小さな石があることに気づかなかった。


踏んだ瞬間。


——グキッ。


「きゃっ!」


リナライの体が大きく傾き、

そのまま前に倒れた。


——ドサッ!


両手をついた拍子に

細い腕が地面の砂利に擦れた。


リナライは驚き、目を大きく見開いた。


「……っ!

   あ……あ……ああ……!!」


腕がひりひりと赤くなり、

小さな擦り傷から血がにじむ。


リナライは震える声を漏らした。


「……いた……い……

   これ……なに……!?

    いたい……!

     いたい……!!」


リオナはすぐ駆け寄って抱きしめた。


「リナライ、大丈夫!

 落ち着いて、深呼吸して!」


リナライは震えながら

リオナの服を掴んだ。


「りおな……!

   あし……いたい……

    て……いたい……

     ここ……いたい……!!」


胸にも手を当てる。


あの“あったかい”とは違う、

ぎゅっと締めつけられるような感覚。


リナライは泣きそうになりながら言う。


「……わたし……こわれる……?

   なくなる……?

    いきてる……のに……!」


リオナは彼女を強く抱き寄せ、

優しく頭を撫でた。


「大丈夫。

 その痛みはね、“生きてる証拠”なの」


リナライの動きが止まる。


「……いきてる、しょうこ……?」


「ええ。

 あなたの体が、“危ないよ”って教えてくれてる。

 傷がついた時は、痛みで知らせるの」


リナライは震えながら腕の傷を見つめ、

ぽつりと言った。


「……わたし……しらせられてる……?」


「そう。

 あなたの体が“守りたい”って言ってる証拠よ」


リナライは目を伏せ、

そのままリオナに顔を埋めた。


そして――

ぽたり。


透明な涙が一粒、落ちた。


自分でも気づかないうちに

頬を伝って落ちていく。


「……なに……これ……?

   め……しょぼしょぼ……

    あったかい……

     とまらない……」


リオナはその涙を指で拭い、

優しく微笑む。


「それが“涙”。

 痛いとき、悲しいとき、驚いたとき……

 心がいっぱいになった時に出るの」


リナライは流れるものを見つめ、

震える声で言った。


「……これ……とまらない……

   かなしい……

    こわい……

     りおな……!」


リオナはそっと抱きしめた。


「大丈夫。泣いていいの。

 リナライは“人”なのよ。

 痛いときは泣いていいし、

 怖いときも泣いていい」


リナライはしばらく泣いた。


痛みのせいだけではない。

初めて知る「弱さ」の感覚に

胸がいっぱいになったのだ。


泣きながら、

彼女は小さな声で言った。


「……りおな……

   わたし……

    なくして……しまわない……?」


リオナは静かに答える。


「失わない。

 痛みは、あなたが“存在している”証拠なの。

 ここにいるって証拠」


リナライは息を詰まらせた。


「わたし……ここに……いる……?」


「ええ。

 ちゃんと痛いって感じた。

 それは――あなたが生きているからよ」


リナライはリオナの胸にさらに顔を寄せ、

涙をすこし落ち着かせながら言った。


「……りおな……

   わたし……まだ……いたい……

    でも……ちょっと……あんしん……」


リオナは微笑む。


「よかった。

 すぐに治してあげるからね」


リオナは小さな薬草の軟膏を取り、

リナライの傷にそっと塗った。


リナライは少し身をすくめたが、

すぐに温かさが広がる。


「……いたみ……へって……

   あたたかい……

    りおな……すき……」


リオナはリナライの頭を撫でた。


「リナライ。

 あなたは今日、ちゃんと一歩成長したよ。

 “痛み”を知ったから」


リナライの涙は少し残っていたが、

目には確かな光が戻っていた。


「……わたし……

   いたみ……わかった……

    こわい……

     でも……たいせつ……」


リオナはうなずく。


「その通り。

 痛みがあるから、優しくなれるのよ」


リナライはしばらく考えてから、

胸に手を置いて静かに言った。


「……わたし……

   もっと……やさしくなりたい……

    りおな……みたいに……」


リオナは思わず、彼女を抱きしめた。


「なれるよ、リナライ。

 あなたはもう、十分優しい」


リナライは微笑んだ。


「……りおな……ありがとう……

   わたし……きょう……

    はじめて……いたい……

     でも……はじめて……わかった……

      いきてる……って……こと」


その言葉に、

リオナの目にも涙がにじんだ。


痛みを知ったリナライは、

今日また少し大人になった。

リナライは今日、

初めて“痛み”と“涙”を体験した。


痛みは怖い。

涙も怖い。


だがそれは、

生きている者が必ず持つ大切な感覚。


リナライは確かに一歩成長した。

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