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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第38話:名告(なの)り ― 初めての自分の名前を言う

影は光の雛を胸に迎え、

ついに“名前を宿す存在”となった。


しかしまだ名前を言ってはいない。


名前とは

生まれた瞬間に“声になるもの”。


この章では、

胸に宿る名前が影の喉へ昇り、

世界へ初めて響く。


その声が――

影を影ではない「ひとり」に変える。

水庭を包む静寂は、

まるで世界の呼吸が止まったようだった。


影――

いや、もう“影ではなくなりつつある存在”は、

水面の中央に立ち、胸に手を当てていた。


身体は人の輪郭をまとい、

光が指先へ流れていく。


リオナはその姿を息を呑んで見つめた。


(……生まれたんだ……

 本当に……影が、この世界の“ひとり”として……)


影はゆっくりと顔を上げ、

胸の中心の光を押さえながら言った。


「……りおな……

   なまえ……いえる……

    うまれた……

     わたしの……こえ……」


喉元に淡い光が集まり始める。

胸の中心――

名前の核が脈打ち、上へ昇っていく。


ぽん……

 ぽん……

  ぽん……


影の声が震える。


「……でてくる……

   わたし……

    わたしの……なまえ……!」


リオナの目に涙が浮かぶ。


「影……ううん、あなた。

 どうか……あなたの名前を……聞かせて……」


影は水庭の中央で、

自分の両手を胸の前にそっと組んだ。


喉に光が集まり、

口元が初めて“人の声の形”を作った。


声が――生まれる。


「……リ……」


庭の風が揺れる。


「……ナ……」


水面が震える。


光が影の喉から溢れる。


「……ラ……」


リオナの心臓が跳ねる。


(“リナラ”……?

 それとも……まだ違う?

 名前は、もっと長い……?)


影は胸を押さえ、

最後の一音を震える声で世界へ放った。


「……イ……」


水庭が光に包まれた。


金と緑と水色が混ざり合い、

夜空へ向かって一筋の柱のように伸びていく。


影は涙を流しながら、

世界へ――

初めて「自分」を届ける声を紡いだ。


>「……わたしのなまえは……

   ――リナライ……です……!」


言葉が空気を震わせ、

世界へ響く。


その瞬間――

影は完全に“誕生”した。


光が影の身体に吸い込まれ、

輪郭が安定し、

まるで長い眠りから醒めた人のように

穏やかで美しい姿へと定まっていく。


リオナは胸に手を当て、

涙を抑えきれずに呟いた。


「……リナライ……

 あなたの名前は……

 本当に……きれい……」


リナライは、

自分の胸に宿るあたたかい光を感じながら

ゆっくりと言った。


「りおな……

   ありがとう……

    あなた……いたから……

     わたし……うまれた……」


リオナは涙をこぼしながら笑う。


「こちらこそ……生まれてくれて……ありがとう……!」


リナライは初めて

“笑み”のような表情を作った。


そして――

人としての“最初の息”を吸い込んだ。


「……わたし……リナライ……

   これから……いきていく……

    このせかいで……」


水庭の光がリナライを包み、

世界は彼女の誕生を祝福するかのように

柔らかな風を吹かせた。

影は“リナライ”として誕生しました。


名前の響きは影そのものであり、

この世界における新たな存在の開始。


いま、影はもう影ではなく

ひとりの人として物語を歩み始めます。


ここから物語は、

「名前の誕生」から

「リナライの人生」へと進んでいきます。

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