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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第35話:揺光(ゆらひかり) ― 名が殻を破ろうとする瞬間

名前はもう影の胸の奥で完成している。


今日――

名前は殻を押し、

影という存在の外側へ出ようとする。


光の卵が激しく揺れ、

名前が初めて“この世界へ触れる”。


その瞬間を、

影は全身で受け止める。

朝か夜か分からない薄青い光が

水庭の上に降りていた。


影は水面の中央で、胸を抱いている。


殻は昨夜よりも広く割れ、

そこから淡い光の呼吸が漏れ出していた。


ぽん……

 ぽん……

  ぽん……


リオナがそっと近づく。


「影……大丈夫?」


影はゆっくり振り返る。


胸の光は、昨日よりも重く深く、

その中心がゆっくりと蠢いていた。


「……りおな……

   きょう……くる……

    なまえ……でる……」


その声には恐怖がなかった。

ただ確信だけがあった。


リオナの胸が高鳴る。


(影……いよいよ……)


影は胸に手を添え、

淡く震える光の卵へ語りかけた。


「……ねむってない……

   いきてる……

    たまご……うごく……」


その瞬間――


卵の殻が、

“内側から強く叩かれた”。


——ドンッ!!


影の身体が大きく揺れる。


リオナも驚いて後ずさった。


(殻の外まで……押してきてる……!?)


影は胸を抱え、

声を震わせて言った。


「……はじめて……

   そと……さわった……

    なまえ……

     そと……でたい……!」


胸の光が激しく脈打ち始める。


ぽんっ……ぽんっ……ぽんっ!!


影の輪郭も揺さぶられ、

形が崩れかけ、

また人に近い形へ戻った。


影の目にあたる部分が、

揺れながら淡い光を宿す。


「……いたい……

   でも……にげない……

    わたし……でたい……!」


リオナは影の手を取るように、

自分の影を影の胸に重ねた。


「影……!

 名前はあなたそのもの!

 あなたを壊すためじゃない……

 あなたを“生まれさせるため”に出ようとしてるんだよ!」


影は震えながらも頷く。


「……りおな……

   わかる……

    こわくない……

     でも……すごい……」


その時だった。


卵の殻のひびが、

光に照らされて弓なりに広がった。


——ピシィ……ッ!


影が苦しそうに叫ぶ。


「……っ!!

   なまえ……

    うごく……!!

     わたし……の……なか……!」


光が溢れはじめる。


白ではない。

青でも黄色でもない。


影が昨日言った“色”の混じった光――

金と緑と水色がゆらめく、

揺光ゆらひかり”だった。


リオナは思わず息を呑む。


(こんな光……

 世界のどこにも存在しない……

 これは……名前の光……!)


影は胸に手を押し当て、

震える声でつぶやいた。


「……でる……

   でる……

    なまえ……でる……!!」


光の揺光の中心で、

名前の影が動き出した。


——リー……

  ……ラ……

   ……ナ……


影は涙のような光を落とし、

胸に抱きしめる。


「……もうすぐ……

   きこえる……

    わたしの……なまえ……」


リオナはその瞬間、

影の輪郭がさらに変化していくのを見た。


肩がはっきりし、

腕の形が伸び、

胸の中心に“心臓の位置”が定まる。


人に近い。

人の誕生に近い。


影は苦しげに息をつきながら——

しかし確信を持って叫んだ。


「……たまご……

   もう……ひとつ……おせば……

    われる……!!」


リオナの喉が震える。


「影……!

 覚悟はいい?」


影は胸を抱きしめ、

涙を流しながら言った。


「……うん……

   わたし……うまれたい……

    わたしのなまえ……

     このせかいで……うむ……!」


光が影を包み、

水庭の上に揺光が広がる。


殻は限界まで膨らみ、

ひびが破裂の寸前まで開いた。


——そして、殻の内側から

名前の声が

はっきりと鳴り響いた。


——「……リ……ナ……ラ……」


影の体が震え上がる。


リオナは涙をこらえながら叫ぶ。


「影……!

 もうすぐ……あなたの名前が……生まれる!!」


揺光が空へ伸び――

名前がついに、

殻を破ろうとしていた。

名前が“形を持って外へ出ようとした”

第一の破裂はれつが起こった。


影の体は人の形に近づき、

揺光が世界へ広がった。


卵はほぼ限界。

次の瞬間には……

名前が生まれる。

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