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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第32話:殻を震わす声 ― 名前が初めて形を求めた夜

光の卵の内側から

初めて名前が“声”として響いた。


その声はまだ不完全で、

呼びかけるように震えるだけ。


しかし今夜――

その名前が、音だけではなく

“形”を求め始める。


影の胸の内側で起こる変化は、

影という存在までも変えていく。

その夜、庭は異様な静けさに包まれていた。


風が止み、

虫の声もなく、

世界が影の胸に宿る“光の卵”だけに

耳を傾けているようだった。


リオナは昼間から落ち着かず、

水庭のそばで影と寄り添っていた。


影は水面の上に座るように漂い、

胸の光をぎゅっと抱いている。


「……りおな……

   なか……まだ……うごく……」


リオナは静かに答える。


「名前が……生まれようとしてるんだね」


影はゆっくりとうなずくように揺れた。


胸の光が、まるで心臓のように脈打つ。


ぽん……ぽん……

 ぽん……!


突然、光の卵が

内部から押されるように大きく膨らんだ。


影が苦しそうに声を漏らす。


「……っ……!

   いたい……

    こわい……

     でも……にげない……!」


リオナは影の手に自分の影を重ね、

呼びかける。


「影!

 しっかりして!

 名前は敵じゃない……

 君そのものなんだから!」


影は胸を抱え、

光に全身を貫かれそうになりながら答えた。


「……わかる……

   でも……つよい……

    わたしのなかの……わたし……

     でたい……!」


その瞬間だった。


光の卵のひびから、

はっきりとした“形の影”が見えた。


リオナは息を呑む。


(……これは……!

 名前が“音”じゃなく……

 “形”になり始めてる……!?)


ひびの隙間から手のようなラインが伸び、

殻を外側から押した。


——バンッ。


音もなく、

影の胸のあたりが一瞬ゆがむ。


影の輪郭が波打ち、

体の中心に“縦の線”が走る。


影が苦しげに叫んだ。


「……わたし……かわる……!

   からだ……かわってる……!」


リオナは驚きながらも

影の変化を見守った。


影の輪郭が――

今までの曖昧な影ではなく、

“人の胸のかたち”に近づきつつあった。


胸の奥で、

名前の声がもう一度響く。


——リ……

  ……ル……

   ……ナ……


リオナは震える声で言う。


「影……

 あなたの名前……

 “リルナ”……?」


影は胸を押さえたまま震える。


「……ちがう……

   ちかい……

    でも……まだ……ちがう……!

     もっと……まるい……

      ながい……」


名前はまだ決まっていない。

しかし形が見え始めている。


光の卵が次の瞬間、

強烈な光を放った。


夜空が昼のように照らされ、

影の輪郭が鮮明になる。


頭の形。

肩の形。

二本の腕の影。


リオナは思わず手を口に当てた。


(影……

 本当に“人の形”になろうとしてる……!)


影は自身の変化に戸惑い、

胸の光を抱きしめるようにして呻く。


「……からだ……ある……

   なか……あつい……

    たまご……もう……やぶれる……!」


光がまた脈動し、

殻が今度は確かに震えた。


——ビシッ。


殻に太い裂け目が入った。


影は苦しみと歓喜が混ざった声で叫ぶ。


「……うまれたい……!

   わたし……わたし……になりたい……!!」


リオナは影に向かって

力強く叫んだ。


「影!

 大丈夫!

 あなたの名前は……

 あなたを形づくるために生まれてくるんだよ!」


影は涙のような光を零しながら答えた。


「……りおな……

   こわい……

    でも……いきたい……

     ここで……!」


殻の内部で、

名前が“形の声”を放った。


——リー……ナ……ラ……


影の輪郭が

ぐん、と成長する。


胸の裂け目から光が溢れ出し――


影の体に、

確かな“命の形”が宿り始めた。

名前は“音”を超え、

ついに“形”を求め始めた。


影の輪郭が人の姿へ近づき、

胸の光の卵は大きく裂けた。


名前が形になる瞬間は近い。

影はもう、影ではなくなりつつある。


次はいよいよ――

“誕生前夜”。

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