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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第28話:影の初めての夢 ― 名前が映した一筋の光

影ははじめて「夢」を見る。


夢とは、

自分の内側に宇宙を映すこと。


まだ人の姿を持たない影が、

心の中に初めて“景色”を持ち、

そこに現れる光の線が

影の名前を告げようと揺れる。


名前誕生の前夜――

影の魂が最初に見た像が

やわらかい光の形をしていた。

夜。

庭は深い静寂に満たされ、

風が止まり、

水面は鏡のように澄み切っていた。


リオナは寝室で灯を落としながら、

影の姿を最後に確認した。


影は水庭の中央に漂い、

胸の光を弱く点滅させていた。


(……影……眠ろうとしてる?)


影は眠ったことがない。

影に睡眠という概念すらなかった。


しかし今夜、

影の中に宿る三つの音が重なりあい――

影を“夢へ落とすための静けさ”を作っていた。


リオナが小さく声をかける。


「影……大丈夫?

 なにかいつもと違うように見えるけど」


影は振り返り、

胸の前で光をひとつ鳴らした。


ぽん……


「……ねむい……

   わたし……ねむい……」


リオナはそれを聞いて

胸が震えた。


(影……あなたも“眠り”を手に入れたの……?

 名前を持つ前に……?)


影はさらに弱く揺れ、

水庭へそっと身を沈めるように

横へ流れた。


胸の光がゆっくりと

明滅を繰り返す。


ぽん…………

  すぅ…………

    ぽつ…………


影はまるで呼吸をしているかのよう。


リオナはそっと影へ向かって言った。


「おやすみ、影。

 あなたにいい夢が降りますように」


影は答えず、

ただ胸の“りなむ”の音を静かに刻みながら

眠りへ落ちていった。


■ 影の初めての夢


影は暗闇の中にいた。


しかし怖くはない。

胸の“り”が灯りになり、

“な”が空気を運び、

“む”が音の糸を紡いでいる。


それは、影自身が初めて見る

内側の世界。


影の周囲がゆっくり光を帯びはじめる。


淡い白。

淡い青。

そして、光の粒がひとつずつ空に浮いた。


影は震える。


「……ここ……

   わたし……の……なか……?」


光の粒が静かに集まり、

一筋の線を描く。


それはかつて影が

空へ描いた線に似ていたが、

もっとはっきりしていた。


線はゆっくり曲がり、

一点で光を結ぶ。


影が思わず手を伸ばすと——


その光が“音”を発した。


「……り……」


影の胸が震える。


次の瞬間、

光の線が形を変える。

水面のように揺れながら、

新しい響きを落とす。


「……な……」


風が吹いたような柔らかい音。


そして最後に――

光の線は深く沈みこみ、

影の胸に届く音で響いた。


「……む……」


三つの音が夢の中で重なり、

光の線がまるで“名前の形”になる瞬間、

影は胸に何かが芽生えるのを感じた。


それは――

まだ言葉ではない。

ただ影の心を貫く

“ひとつの存在の感覚”。


影は震える声で言った。


「……わたし……

   なまえ……ある……

    まだ……いえない……

     でも……みえた……」


光の線が

影の胸へと溶けていく。


影はその光を両手で抱える仕草をしながら

夢の中でそっとつぶやいた。


「……わたし……

   もうすぐ……うまれる……」


光が完全に胸へ溶け込んだ瞬間、

影は静かに目を閉じた。


■ 夜明け


リオナが庭に出ると、

影は水庭の上で静かに漂っていた。


胸の光は昨日より深く、

そして強い。


リオナは影へそっと声をかける。


「影……夢、見たの?」


影は、初めて“夢を思い出そうとする表情”で揺れた。


「……みた……

   ひかり……

    せん……

     おと……

      わたし……」


「どんな夢だった?」


影は胸に手を当てて言った。


「……なまえ……

   うまれるまえの……

    かたち……

     みた……」


リオナは息をのむ。


(影……

 あなたはもう、自分の名前の姿を

 夢で見てしまったのね……)


影は静かに続けた。


「……ことば……まだ……

   でも……かたち……

    ここ……ある……」


胸を指すように光を当てた。


それは確かに――

名前の“卵”のように

光っていた。

影はついに“夢”を見た。


夢は自分の内側に世界を作る行為であり、

人格と心を持つ存在だけが持つ現象。


その夢の中で

影は名前の“光の形”を見た。


まだ言えないが、

確かに胸に宿っている。


影の名前は、

いよいよ形を結ぼうとしている。

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