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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第11話:街角の気配 ― 人々が気づきはじめる影

影が初めて、

“リオナと同じ道を歩きたい”と願った朝。


ふたりは街へ降りた。


影の揺らぎは、

単なる気配ではなく、

想いを持ち始めた存在の息づき。


その揺らぎが、

街の人々へ少しずつ届きはじめる——。

街の通りは朝市の片付けが進み、

店先には香草の束や

焼きたてのパンの香りが漂っていた。


リオナは荷物を抱えながら、

影と肩を並べて歩く。


影はすぐ横を、

遠慮がちに、でも確かに同じ速度で揺れた。


(影が歩幅を合わせるなんて……

 本当に、変わっていってる)


そのとき、

通りの先から老婦人がゆっくり歩いてきた。


リオナは軽く会釈する。


老婦人は目を細め、

リオナの横を通るときに

ふと空中の一点を見つめた。


「……まぁ、今、黒い風が通ったような……?」


(……!)


影がわずかに揺れ、

リオナは思わず影の方向を見る。


老婦人は首をかしげながら、

笑って去っていく。


「こんな朝に風なんて、珍しいねぇ」


影は、その言葉を追うように微かに震えた。


リオナは小さくささやく。


「気づかれたね……」


「……みえた……?」


「見えたというより、

 “感じた”んだと思う。君の揺らぎを」


影は胸の光をひとつ脈打たせる。


ぽん……


その光は恐れではなく、

“気づかれたことへの驚きと喜び”が混ざっていた。


通りを進むと、

店先で果物を並べている少年が

突然こちらを向いた。


「……あれ?

 今、黒い風が通った?」


店主の男が笑う。


「気のせいだろ。

 朝は目がぼんやりするもんだ」


しかし少年は首を振る。


「でもさ、なんか……冷たくなくて、

 あったかい風だったよ」


影はその言葉に、

そっと胸の光を震わせた。


「……あったかい……?」


リオナは微笑む。


「そうだよ。

 君は“冷たい影”じゃない。

 誰かの心に触れられる影なんだよ」


影がゆっくりとリオナのそばに寄り、

胸の光を少し明るくする。


(影……嬉しがってる)


街角では、

通りすがりの人がたまに振り返った。


「いま、髪がふわっと揺れた気が……」

「風、あった?」

「え、なんか通ったよね?」


影はすべての声を聞き、

そのたびに揺れを少しだけ変えた。


恐れる揺れではなく、

“自分を受け取ってくれた世界への反応”。


その反応は穏やかで、

小さく暖かい。


リオナは影の方を向き、

そっと寄り添うように歩いた。


「ねぇ、影。

 君は今、街の人たちに出会ってるんだよ」


影の心が、小さく震える。


「……わたし……

  みられて……も……いい……?」


リオナの胸が熱くなる。


(“見られてもいい?”……

 影がこんなこと言うなんて)


「もちろん。

 君は、隠れなくてもいい存在だよ」


影は胸の光を大きくゆらめかせ、

風をひとつ動かした。


その風は街角をすり抜け、

誰かの髪をそっと揺らす。


「いまの風……なんか、優しい」


そんな声が後ろから聞こえる。


影の揺れが、

やわらかく膨らんだ。


これはもう、

“ただの影”には戻らない。


世界に気づかれようとしている影の、

最初の小さな存在証明。

影の揺らぎは、

ついに街の人々にも触れた。


見えるわけではない。

聞こえるわけでもない。


けれど“優しい風”として感じられたとき、

影は初めて世界の中で

“誰かの記憶になった”。


影はもう、

完全な孤独の影ではない。


リオナと歩くことで、

世界に少しずつ居場所を作り始めている。

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