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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第1章 第39話:揺らぐ昼下がり ― 声にならない訪問

影がいない朝を経て、

胸に残ったのは、やわらかな寂しさ。


そして昼下がり。


風は暖かく、

街の声はいつもどおりに賑やか。


だが、庭に立った“気配”は、

影でも光でもなく。

ただ「近づきたい」と揺れている。

昼下がり。

ゆっくりとあたたかさが満ち、

街には穏やかな音が溢れていた。


遠くで子どもたちの笑い声。

どこかでパン生地を叩く音。

鐘のない時間の、静かな時間。


リオナは庭の石を並べ直していた。

水庭の縁に、苔むした石をすこしずつ補う。


(影の気配はない……

でも、それでいい。

来たいときに来ればいい)


その思いを胸に置いて、

指先に泥の冷たさを感じていた時だった。


風が、ひと呼吸だけ止まった。


庭の空気がそっと揺らぐ。

まるで、誰かが立ったように。


リオナは振り返る。

そこには――

人影でも影の子でもない、“揺らぎ”がひとつ。


色も輪郭もない。

けれど、確かにそこに“いた”。


風の粒子が、

ゆっくりと形を探している。


(……これは、影ではない)


影の子のような濃さがない。

光の涙のような輝きもない。

もっと曖昧で、柔らかい。


“始まりそうで、始まらない気配”。


リオナが背筋を伸ばすと、

ふわりと空気が震えた。


「……あ……」


息のような、草いきれのような音。

名前ではない。

願いでもない。


(声にならない声……?)


リオナは、そっと問いかける。


「……迷っているの?」


揺らぎは、かすかに波打つ。

風が吹けば消えそうなくらい弱い。

それでも“ここ”を選んだ。


「……だれ……か……」


その音は、問いではなかった。

捜索でも、懇願でもない。


ただ、

“繋がりたい”という震え。


リオナは胸に手を当てる。


(この揺らぎ……

もしかして、影が生んだ波かもしれない)


影が願いを知った夜――

どこか別の場所で、

別の心が、そっと揺れはじめた。


「誰かを探しているの?」


揺らぎは答えない。

かわりに、風にひと粒の温度を残した。


冷たくないけれど、温かくもない。

それは、涙になる前の気配。

言葉になる前の想い。


(心は、声になる前に震える)


リオナは手をそっと差し出す。


触れるためではない。

ただ、“ここにいるよ”と示すため。


「大丈夫。

まだ言わなくていい。

誰を探しているのか、思い出さなくてもいい」


揺らぎは、ゆっくりと近づく。

手に触れる寸前で止まり、

そして――


そっと、胸の前でほどけた。


風に消えず、

地に落ちず、

ただ空気に溶けた。


(また来るだろう。

影とは違う形で)


揺らぎが消えたあと、

庭には、**ひとつの“湿った音”**だけが残った。


泣いたのではない。

けれど、泣きたい気持ちを

水ににじませたような余韻。


リオナは石の上に手を置き、

静かに息をついた。


(心はつながる。

触れなくても、見えなくても。

だからこそ、寂しくなることもある)


風が戻る。

世界が動き出す。


その風は、

誰かの名もない気持ちを

運んでいくようだった。

影が“欲”を知った夜、

別の揺らぎが生まれた。


それはまだ声ではなく、

願いでもなく、

ただ“知りたい”という芽。


心は孤立しない。

誰かの震えは、知らないどこかに響く。


リオナはまた、

ひとつの揺らぎに寄り添った。

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