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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第1章 第36話:星をひとつ拾う夜 ― 影が見た夢の端

灯りが眠りを包み、

影は暗闇に溶けながらも、孤独ではなかった。


そして夜の終わり——

ひとつの星が静かに落ちる。


それは運命ではなく、

ただ“そばにいたい”という

幼い心の願いが落とした光。

夜更け。

街はほとんど眠り、

風音だけが屋根の上を渡ってゆく。


リオナは庭に出ていた。

灯りは消さず、静かに揺れている。

灯籠の光と月明かりが混ざり、

世界が淡い青に染まっていく。


(今夜は、心がよく揺れる夜だ)


その時、空で小さな輝きがほどけた。


ひとつの星の粒が、

静かに尾を引きながら落ちてゆく。

叫ぶでもなく、追いかけるでもなく、

ただ、静かに落ちる光。


地面に触れる前に、

それはふっと消え——

代わりに小さな光の粒が、庭の草の上に残った。


リオナは指先でそれを拾う。

冷たくも暖かくもない。


けれど、心の奥と同じ温度だった。


(これは……“誰かの夢の端”だ)


落ちた夢。

まだ形にならない願いの欠片。

きっとどこかの誰かが、

夜に抱きかけた想いを、まだ手放していない。


その時——


影の気配が、そっと足元に落ちた。


灯りの境界、

光と闇の端に、影の子が現れる。


昨日よりも輪郭が柔らかい。

近づこうとし、躊躇し、立ち止まる。


リオナは手のひらを少し開き、光を見せた。


「ほら、星のかけら」


影は近づく。

その足取りは小さく、震え、でも止まらない。

やがて、影のかすかな手が光に触れた。


光は消えない。

むしろ、影の色を少し照らした。


影は震えた。


「……あた……し……も……」


(あたしも……欲しい?

あたしも……ここにいたい?

あたしも……夢を見たい?)


言葉は途中で、かすれて消える。

けれど、意思は伝わった。


リオナは静かに答える。


「……いいよ。

その気持ちがあるなら、もう半分叶ってる」


影は小さく震え、

その震えは、涙の代わりに光を抱くような揺れ。


「……ほし……い……」


その声は、決して大きくない。

でも、世界に向けられた初めての“欲”。


(ああ——

これが“願い”か)


影の心が、ようやく“未来”という方向を持った。


リオナはそっと影に問いかける。


「名前、欲しい?」


影は一瞬揺れ、

やがて小さくかぶりを振る。


「……まだ……こわい……」


リオナは微笑む。


「じゃあ、今はそのままでいよう。

名前が怖くなくなるまで、待ってていい」


影はひととき動かず、

そのあとゆっくりと夜に滲むように消えた。


残った光の欠片は、まだ手のひらにある。

冷たさも熱もなく、ただ心の音と同じ鼓動。


リオナはそっと空を見上げる。


(願いを持つというのは、

誰かを求めるということでもあるんだな)


胸の奥がやさしく痛む。

心が動く音がする。


やがて、東の空がうっすら白む。

夜の終わりと、影の始まり。


リオナは星の欠片をそっと水庭に浮かべた。

光は水に沈まず、ゆらりと漂う。


「また来るといいね。

君が、君のままで来られる夜に」


風が静かに返事をした。

影は言った。


「……ほし……い……」


それは、誰かになりたいでも、光になりたいでもない。

ただ「願いを持ちたい」という、最初の欲。


「欲」は生きている証。

優しさも痛みも、そこから始まる。


リオナは願いを奪わず、与えず、

ただ“願いが生まれる時間”を守った。

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