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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第1章 第30話:水底の声 ― 微睡む湖に映るもの

光の涙と、影のささやき。

芽吹けない声も、小さく息をした。


そしてリオナは湖へ向かう。

水はすべてを映し、

すべてを抱える場所。


そこに静かに眠る“声”は、

まだ形を持たず、

目覚めを待っている。

街の北、森を抜けた先に、

小さな湖がある。


人々は「眠りの湖」と呼び、

昼でも水面に夢の名残が漂うという。


リオナは静かに歩いていた。

足音は土に吸われ、樹々が風に揺れる。


昨日の影。

光に怯えた涙。

芽吹かず震えた声。


それらが胸の奥で静かに重なり、

湖へ引き寄せられるように歩かせた。


湖畔に着くと、

水面は鏡のように滑らかで、

空よりも静かな青を抱いていた。


リオナはしゃがみ、手をそっと水に浸す。


冷たくて、やさしい。

深くて、眠っている。


(……この水は、まだ夢の揺らぎを覚えている)


指先に触れたのは、

恐れではなく、静寂でもない。


“まだ言葉にならない願い”


そんな感触。


湖面がかすかに揺れ、

澄んだ奥で光がきらめく。


その瞬間、

水底から淡い声が漂った。


「……みつけて」


風に紛れるほどの微かな声。

子どもとも、少女とも、

影とも光ともつかない。


“誰かの心の奥で置き去りになった願い”


リオナは眉を下げ、静かに応える。


「見つけるんじゃないよ。

見つかる時に、出てきてくれればいい」


水面がやわらかく脈打つ。


ここは、人の心が沈んでも、

決して濁らない湖。


涙が落ちても溶け、

影が沈んでもそっと包む。


だからこそ、声はまだ微睡んでいる。


「……こわい」


「怖い時は、ここにいていい。

いつか顔を出したくなったら、それでいい」


「……まって……て……くれる……?」


「もちろん。ずっと」


言葉は届いたのか、届かなかったのか。

ただ、水底の揺れが少し優しくなった。


リオナは湖面を離れ、立ち上げる。


風が髪を揺らし、

森がざわりと息をする。


その背後で、

湖に小さな影の揺らぎが映った。


昨夜見た影の子だ。

水面に映る姿として、そっと寄り添う。


(来たんだね)


影は言葉を持たず、

ただ水を見つめていた。


“自分よりも深い孤独”を見ているように。

“同じ場所を探している”ように。


リオナは影に向かって微笑む。


「大丈夫。

世界は、ゆっくりでいいところだよ」


風が湖面を撫で、

影は薄く揺れて消えた。


まだ完全には現れない——

けれど確かに、側にいる。


リオナは家路へ歩き出した。

湖は後ろで静かに眠り続け、

水底の声は再び夢に溶けていった。


(見守ることは、手を離すことじゃない)


木漏れ日が優しく肩を照らし、

揺らぎの一日が静かに終わる。

声にならない願いは、湖に眠る。

その声は“助けて”ではなく、

“忘れないで”に近い。


リオナは救わず、引き寄せず、

ただ“見える場所に灯りを置いた”。


それだけで、世界は少しあたたかい。

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