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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第82話:第三の影 ― 境界の子

森の奥で揺れていた影は一つではなかった。ナリとノアの存在が境界に波を広げ、影たちは静かにこちらの世界へ引き寄せられている。だが三体目の影は今までとは少し違っていた。核もなく名前もない。にもかかわらずその影は自分の意志で歩き始める。そしてその夜、村は初めて影が三体になる瞬間を目撃する。

森の奥は昼でも薄暗い。木々の影が重なり合い、地面は常に黒く沈んでいる。その暗がりの中で、新しい影がゆっくり形を変えていた。まだ輪郭は不完全だ。腕の形が崩れ、足元の影が広がり、時々煙のように消えかける。それでも影は立ち上がろうとしていた。


川辺ではセリスが観測装置を見つめている。針はこれまで見たことのない振れ方をしていた。小刻みに揺れ、数値が上がり続けている。「反応が増えています。」隊員が言った。「境界波が三方向から来ています。」リオナは森の方を見た。「三つ……?」セリスは静かに頷く。「影が三体目まで増えようとしています。」


リナライの胸の核が強く鳴った。どくん。ナリの核も同時に光る。ノアの輪郭も揺れた。三つの存在が同じ方向を見ている。森の奥だ。そこから新しい影がゆっくり現れた。


その影は今までのものとは違った。ナリのような核はない。ノアのような安定した輪郭もない。だが歩いている。影は足を引きずるように前へ進む。木々の影を吸い込みながら形を保っている。


村人たちがざわめく。「また影だ……」「もう三体目なのか。」ミルはリナライの服を握った。「怖い……。」リナライは静かに言う。「だいじょうぶ。まだ……わからない。」


ナリが一歩前へ出る。核が強く光る。どくん。新しい影が止まる。ナリと影が向かい合う。ノアもゆっくり近づく。三つの影が同じ場所に立った。


セリスが低く言う。「共鳴が始まります。」観測装置の針が振り切れる。境界の波が空気を震わせる。新しい影の輪郭が揺れる。黒い霧のように広がる。「危険です!」隊員が叫ぶ。「形が保てません!」


影は崩れかけた。腕の形が消え、体の半分が地面の影に溶ける。だが完全には消えない。影は必死に立とうとしていた。


ナリが小さく声を出す。「……ナ……リ……。」ノアも続く。「……ノ……ア……。」二つの名前が森に響く。新しい影が震える。音を追うように輪郭が動く。


「……ナ……。」かすかな声が響いた。村人たちが息を呑む。「今……聞こえた?」トオマが言う。「影がしゃべった……?」


影はもう一度揺れた。「……ナ……。」だが声は崩れる。言葉にならない。影の体がまた溶け始める。


リナライは前へ出た。胸の核が強く光る。どくん。どくん。ナリの核と同じ鼓動だ。影の揺れが少し止まる。


「ここに……いたい?」リナライが静かに言う。影が揺れる。それは頷くようにも見えた。


セリスが言う。「意思があります。」リオナが頷く。「ならば選ばせるしかない。」


ナリがゆっくり言う。「……ここ……。」ノアも小さく揺れる。新しい影が二つの存在を見つめる。まだ形は不安定だが、消えてはいない。


森の奥ではさらに影が揺れている。だがまだこちらへは来ない。三つの影が共鳴している。空気が静かに震える。


影が一歩前へ出た。輪郭が少し安定する。足元の影が地面に固定される。完全ではない。だが立っている。


セリスが小さく言う。「固定が始まっています。」隊員が記録板に数値を書き込む。「境界波が安定しています。」


ナリの核が光る。ノアの輪郭が揺れる。新しい影が二つの存在の間に立つ。まだ名前はない。核もない。だが三つの影が同じ場所に存在している。


村の人々はその光景を静かに見ていた。影は恐ろしい存在だったはずだ。だが今は違う。影は話し、歩き、存在している。


リナライは影を見つめた。「まだ……名前……ない。」影が小さく揺れる。それはまるで言葉を待っているようだった。


ナリの核がゆっくり光る。ノアが静かに揺れる。三つ目の影が立っている。


境界は確実に変わり始めていた。

第三の影が現れた。まだ名前も核もない存在だが、ナリとノアの共鳴によって形を保っている。影は一体ではなくなり、二体でも終わらなかった。森の奥にはまだ多くの気配がある。もし影が増え続ければ、この世界の常識は完全に変わるだろう。村は今、静かな変化の中心に立っていた。

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