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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第66話:ナリのはじめて ― 影が歩き出す日

名を与えられた影、ナリ。


まだ小さく、不安定だが、

確かにこちら側に固定された存在。


だが――

名を持つということは、

“世界に現れる”ということでもある。


今日は、

ナリが初めて歩き出す日。

朝。


川辺に立つナリは、

昨日よりも輪郭がはっきりしていた。


顔はない。


だが、

黒い輪郭は揺れない。


リナライは微笑む。


「……ナリ……

   おはよう……」


ナリは、

わずかに傾く。


それは挨拶のようだった。


名の核が、

静かに共鳴する。


(……つながってる……)


■ はじめての一歩


ナリは石のそばから動こうとしない。


まだ、

固定された場所から離れられないようだ。


リナライはそっと手を差し出す。


「……あるける……?」


ナリは揺れる。


一歩。


輪郭がわずかに薄くなる。


リナライの胸が光る。


どくん。


光が流れ、

ナリの輪郭が安定する。


二歩目。


今度は薄くならない。


「……できる……」


ナリはゆっくりと、

川辺を歩いた。


それは、

影が自分の意思で動く

最初の瞬間だった。


■ 村の視線


だが、

世界は静かではない。


川へ水を汲みに来た女性が、

突然立ち止まった。


「……え?」


視線の先。


ナリの輪郭。


女性は息を呑み、

桶を落とした。


水が地面に広がる。


「なに……あれ……?」


声が震える。


リナライの胸が締めつけられる。


(……やっぱり……

 みえる……)


リオナがすぐに前へ出る。


「落ち着いて」


だが、

ナリは村人の視線に気づき、

輪郭が揺れた。


不安。


恐れ。


それがリナライに伝わる。


「……だいじょうぶ……」


リナライはナリの前に立つ。


「……ナリ……

   こわくない……」


ナリは揺れを止める。


■ 共存の難しさ


村人はざわめき始める。


「昨夜の影だ」

「裂け目の残りか?」

「危険じゃないのか?」


視線は冷たい。


好奇心と恐れが混じる。


リナライの胸が痛む。


(……わたし……

 うけいれられた……

 でも……ナリは……?)


リオナが静かに言う。


「この子は危険ではありません」


だが言葉だけでは足りない。


ナリは小さく、

揺れながらリナライの後ろへ隠れる。


その動きは、

明確な“意思”。


リナライは振り返る。


「……ナリ……

   にげたい……?」


ナリはわずかに首を振る。


消えない。


逃げない。


ただ、

怖がっている。


■ リナライの決意


リナライは一歩前へ出る。


「……このこ……

   なまえ……ある……」


村人がざわつく。


「名を与えたのか?」

「どうして?」


リナライは胸に手を当てる。


「……ナリ……

   ここで……

    いきる……」


その声は震えている。


だが、

逃げない。


リオナが続ける。


「私が責任を持ちます」


沈黙。


村人たちは互いに顔を見合わせる。


完全な理解ではない。


だが、

即座の拒絶でもない。


■ ナリの選択


ナリが、

ゆっくりと前へ出た。


村人たちの前。


輪郭は揺れない。


そして――


小さく、

地面に影を落とした。


本来なら、

影は物体に従うもの。


だがナリは、

自分で影を作った。


村人のひとりが呟く。


「……生きている……?」


その言葉は、

拒絶ではなかった。


リナライの胸が熱くなる。


(……いきてる……

 うん……)


■ はじめての共存


ナリは、

リナライの隣に立つ。


逃げない。


消えない。


ただ、

そこにいる。


村人たちはまだ戸惑っている。


だが、

石を投げる者はいない。


追い払う者もいない。


それは小さな前進。


リオナが静かに言う。


「時間が必要ね」


リナライは頷く。


「……うん……

   いっしょに……

    いきる……」


ナリが、

かすかに頷いた。


それは、

影のはじめての“意思表示”だった。

ナリは歩き出した。


だが世界は、

簡単には受け入れない。


共存は奇跡ではなく、

積み重ね。


リナライは今、

“守られる存在”から

“守る存在”へと確実に変わっている。


だが境界の揺らぎは、

まだ完全には消えていない。

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