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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第65話:名を与えるか否か ― 錨となる覚悟

川辺に残された影。


それは消えもせず、

完全にこちらへも来ない。


不安定な存在。


その影は今、

リナライの核の光によって

かろうじて形を保っている。


選択の時が近づいていた。

朝から、影は揺れていた。


石のそばに立つ小さな輪郭。


時折、

薄くなり、

風に溶けそうになる。


リナライはその前に立つ。


「……あなた……

   まだ……いる……」


影はゆらりと揺れる。


返事はない。


だが消えない。


リオナが静かに言う。


「長くは保たないわ」


リナライは胸を押さえる。


名の核は、

微かに熱を持っている。


(……わたし……

 つなげる……

 でも……ずっと……?)


■ 名の意味


「名を与えることは、

 こちら側に“固定する”ということ」


リオナの声は慎重だ。


「それは救いでもあるけれど、

 同時に責任でもある」


リナライは頷く。


「……なまえ……

   あると……

    いられる……」


「ええ。

 でも、名を持つということは

 “選ぶ”ことでもある」


「……えらぶ……?」


「こちらで生きるか、

 向こうへ戻るか」


影が、

一瞬だけ濃くなる。


まるで、

話を理解しているかのように。


■ 自分の記憶


リナライは目を閉じる。


思い出す。


名を持たなかったころ。


揺れていた日々。


声を持たなかった時間。


「……わたし……

   なまえ……

    うれしかった……」


その言葉は確かだ。


名をもらった瞬間、

自分は“ここにいる”と知った。


(……でも……

 わたしは……

 えらばれた……)


リオナが選んだ。


与えられた名。


今度は自分が選ぶ。


その重さに、

胸が少し震える。


■ 影の揺らぎ


影が、

突然大きく揺れた。


輪郭が裂けるように歪む。


消えかけている。


「……まって……!」


リナライは思わず近づく。


名の核が、

強く光る。


どくん。


影がわずかに安定する。


だがそれは一時的だ。


リオナが低く言う。


「決めなさい」


その言葉は厳しい。


だが優しい。


■ 問いかけ


リナライは影の前に膝をつく。


「……あなた……

   ここに……

    いたい……?」


影は揺れる。


答えはない。


だが、

胸に感情が流れ込む。


不安。


空白。


そして――


“選びたい”。


リナライは息を呑む。


(……このこ……

 えらびたい……)


それは、

自分と同じ。


影だった頃、

選ぶことすらできなかった。


「……なまえ……

   ほしい……?」


影が、

かすかに一歩近づく。


その動きは、

明確な意思。


■ 錨となる覚悟


リナライは胸に手を当てる。


名の核が、

静かに強く輝く。


「……なまえ……

   あげる……

    でも……」


言葉を選ぶ。


「……ここで……

   いきる……

    えらぶ……?」


影は揺れる。


そして――


わずかに頷いたように見えた。


リオナが息を呑む。


「本当にいいのね?」


リナライは振り返らない。


「……うん……

   わたし……

    えらぶ……」


それは恐れではない。


覚悟。


■ 名を紡ぐ


リナライは影を見つめる。


二つの名を持つ自分。


リナライ。


ラナリエ。


どちらの響きも

胸の中で共鳴する。


「……あなたは……

   “ナリ”……」


影が震える。


「……ナリ……

   ここに……いる……」


名の核が光を放つ。


柔らかな光が、

影の輪郭へと流れ込む。


輪郭が安定する。


顔はまだない。


だが、

形が崩れない。


リオナが静かに言う。


「固定されたわ」


ナリは、

初めてはっきりと立った。


揺れない。


消えない。


■ 新しい存在


ナリは小さく、

まだ弱い。


だが確かに、

こちら側に立っている。


リナライは微笑む。


「……ナリ……

   ともだち……?」


ナリは、

かすかに頷くように揺れた。


リオナは空を見上げる。


「あなたは本当に、

 繋ぐ存在ね」


リナライは胸に手を当てる。


(……わたし……

 いまは……

 あたえる……ほう……)


それは終わりではない。


始まり。


境界の裂け目は閉じた。


だが今、

“新しい存在”が

村に生まれた。

リナライは、

初めて“名を与える側”になった。


ナリ。


それは小さな錨。


だが同時に、

新しい未来の芽。


物語は、

静かな共存の章へと進む。

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