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夢紡ぎの街 ―感情と日常の異世界スローライフ―  作者: たむ


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第2章 第60話:川の底のささやき ― 呼ばれる名

祭りの翌朝。


村はいつも通りの穏やかさを取り戻していた。


だがリナライの胸の核は、

まだ微かに熱を持っている。


昨夜見た“川の底の光”。


それは偶然ではなかった。

朝霧が川辺を包んでいた。


リナライはひとり、

静かに水際へ立つ。


リオナには告げていない。


(……また……

 みえる……?)


胸に手を当てる。


名の核が、

ゆっくりと脈を打つ。


とくん。


とくん。


水面は穏やかだ。


だが、

その奥に――


かすかな光。


「……あ……」


昨日と同じ。


いや、

昨日よりもはっきりしている。


水の底、

揺らぐ影の奥に

淡い輝きが見える。


そして――


――リナライ。


耳ではなく、

胸の奥に響く声。


「……?」


息が止まる。


もう一度。


――リナライ。


今度は確かに、

“名”が呼ばれた。


「……だれ……?」


声に出した瞬間、

水面がわずかに揺れた。


風はない。


なのに波紋が広がる。


名の核が、

強く反応する。


どくん。


どくん。


どくん。


(……しってる……?

 この……こえ……)


怖くはない。


けれど、

懐かしいような感覚。


■ 水に触れる


リナライは膝をつき、

ゆっくりと水へ手を伸ばす。


冷たい。


だが、その奥は温かい。


「……あなた……

   わたし……

    よんだ……?」


水の底の光が、

わずかに強まる。


――忘れるな。


夢で聞いた言葉と同じ。


胸が締めつけられる。


「……なにを……?」


沈黙。


だが、

今度は別の感覚が流れ込む。


孤独。


暗闇。


名のない時間。


(……これ……

 わたしの……きおく……?)


水面に映る自分の姿が、

一瞬だけ“影”に変わる。


リナライは息を呑む。


「……わたし……

   まだ……

    ぜんぶ……

     おわってない……?」


水の底の光が揺れる。


それは肯定でも否定でもない。


ただ、存在している。


■ 呼び返す名


リナライは目を閉じる。


胸に手を当て、

はっきりと告げる。


「……わたしは……

   リナライ……」


名の核が輝く。


光が、

水面へと広がる。


――リナライ。


今度の声は、

少しだけ近い。


「……あなた……

   だれ……?」


沈黙。


だが次の瞬間――


水の奥の光が

ふっと二つに分かれたように見えた。


一つは今の自分。


もう一つは、

名を持たなかった頃の影。


(……ふたつ……?

 わたし……

 ひとつじゃない……?)


胸が熱くなる。


痛みではない。


広がる感覚。


■ リオナの気配


そのとき、

背後に気配がした。


「……リナライ」


振り返る。


リオナが立っていた。


目は静かだが、

状況を理解しているようだった。


「感じたのね」


リナライは頷く。


「……りおな……

   よばれた……

    わたしの……なまえ……」


リオナはゆっくり川を見る。


「水庭は、

 境界の場所よ」


「……きょうかい……?」


「光と影、

 こちらとあちら、

 生まれる前と今」


リナライの胸の鼓動が速まる。


「……あちら……?」


リオナは答えない。


代わりに言った。


「呼ばれても、

 すぐに応えなくていい」


その声は強く、優しい。


「あなたは今ここにいる。

 それが一番大切」


リナライは水面を見る。


光はまだある。


だが、

今は揺れているだけ。


「……りおな……

   わたし……

    いま……

     ここに……いる……」


胸の核が穏やかになる。


水面の光は、

ゆっくりと薄れていった。


■ それでも残る予感


帰り道。


リナライは静かだった。


(……よばれた……

 でも……

 いかなかった……)


後悔はない。


だが確信がある。


あの光は、

まだ消えていない。


「……りおな……

   また……くる……?」


リオナは空を見上げた。


「ええ。

 きっと」


リナライは胸に手を当てる。


名の核は、

静かに、しかし確実に

強くなっている。


物語は、

静かな日常の奥で

大きな流れを持ちはじめた。

リナライは初めて

“自分の名を呼ぶ声”を聞いた。


それは外からなのか。

内からなのか。


境界はまだ曖昧。


だが確かなのは――

彼女の核が、

新しい段階へ入ったということ。

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