第2章 第58話:リオナの過去 ― 守ると決めた理由
夢を見た翌朝。
リナライの胸には
まだ微かなざわめきが残っていた。
それに気づいたリオナは、
静かに語り始める。
それは、
彼女が“影に名を与えた理由”。
朝の光が柔らかく差し込む部屋。
リナライはまだ少し不安げに
胸のペンダントを握っていた。
リオナはその様子を見て、
穏やかに言う。
「……昨日の夢、まだ気になっているのね」
リナライは小さく頷く。
「……りおな……
どうして……
わたしに……
なまえ……くれた……?」
その問いは、
ずっと胸の奥にあったもの。
リオナは一瞬、目を伏せた。
そして静かに語り始める。
■ 失われた存在
「……昔ね、
私はひとりの子を守れなかったの」
リナライは息を止める。
リオナの声は静かで、
けれど揺れていた。
「その子は……
名を持っていた。
笑って、泣いて、
ここに確かにいたの」
窓の外を見る。
「でも、ある日――
突然いなくなった」
リナライの胸がきゅっと締まる。
「……いなく……?」
「うん。
事故だったわ」
言葉は短い。
だが重い。
「私はね、そのとき思ったの。
“名前があっても、守れないことがある”って」
沈黙が落ちる。
■ 影と出会った日
「そのあと……
水庭であなたを見た」
リナライは息を呑む。
「……わたし……?」
「ええ。
あなたは影のように揺れていた。
名もなく、声もなく、
ただ存在していた」
リオナは目を閉じる。
「私は思ったの。
“今度こそ守る”って」
リナライの胸の名の核が
わずかに熱を帯びる。
「あなたはまだ何者でもなかった。
だからこそ、
私が選べると思ったの」
「……えらぶ……?」
「名前を。
未来を。
あなたの“はじまり”を」
リオナは優しく微笑む。
「失ったあの子を
あなたに重ねたわけじゃない」
その言葉ははっきりしている。
「でも、
もう一度“守る”と決めることで、
私は自分を赦したかったの」
リナライは静かに聞いていた。
■ 名を与えるということ
「名前はね、
ただの音じゃない」
リオナはリナライの胸に手を当てる。
「“ここにいる”と宣言するもの」
リナライの目が潤む。
「……わたし……
ここに……いる……?」
リオナは強く頷く。
「ええ。
あなたは、
あの日からずっとここにいる」
リナライの胸の光が、
柔らかく広がる。
「……りおな……
わたし……
あなたの……
“やりなおし”……?」
リオナはすぐに首を振る。
「違うわ」
はっきりと。
「あなたはあなた。
過去の誰かではない。
“リナライ”よ」
その言葉に、
リナライの胸の曇りが
すっと晴れていく。
■ 守るという約束
「でもね」
リオナは続ける。
「守ると決めたのは本当」
リナライは静かに問う。
「……いまも……?」
「もちろん。
でも、あなたはもう
守られるだけじゃない」
リオナは笑う。
「昨日、自分で言ったでしょう?
“いまをいきる”って」
リナライは思い出す。
「……うん……」
「それができるなら、
私は安心して守れる」
その言葉は、
重さではなく、温かさを持っていた。
■ 光と影の統合
リナライはゆっくりと立ち上がる。
窓の外、
朝日が庭を照らしている。
「……りおな……
わたし……
ひかりも……
かげも……
あなたの……
きもちも……
ぜんぶ……
だいじ……」
リオナの目に涙が滲む。
「ありがとう、リナライ」
リナライは微笑む。
「……わたし……
えらばれた……
でも……
いまは……
じぶんで……
えらぶ……」
その宣言は、
彼女の自立の証だった。
リオナは初めて
“守ると決めた理由”を語った。
失った過去。
やり直したい願い。
そして今の選択。
リナライは知った。
自分は誰かの代わりではない。
“選ばれた存在”であり、
そして“自ら選ぶ存在”であることを。
物語は、
静かに核心へと進んでいく。




