第2章 第55話:小さなけんか ― 違う意見とぶつかるとき
本音を伝え、友情は深まった。
だが友情は
ただ笑い合うだけではない。
今日は、
リナライが初めて“意見の違い”に出会う。
それは小さなけんか。
でも大きな学び。
広場の中央。
ミルが両手を広げて言った。
「今日は木登りしよ!」
トオマが賛成する。
「いいな! 誰が一番上まで行けるか勝負だ!」
ユルクも少し不安そうにしながら頷いた。
「……高いけど、やってみたい」
リナライは空を見上げた。
大きな木。
枝は高く、
風に揺れている。
胸が少しざわついた。
(……たかい……
おちる……?
いたい……?)
ミルが手を引く。
「リナライもやろう!」
リナライは一歩引いた。
「……わたし……
きょう……
ちょっと……こわい……」
トオマが眉をひそめる。
「えー? せっかくなのに?」
ミルも少し残念そうだ。
「昨日は走れたのに?」
その言葉が、
リナライの胸をきゅっと締めた。
(……できない……
って……いったら……
だめ……?)
リナライは小さく言った。
「……きのう……と……ちがう……
きょう……は……
こわい……」
トオマは少し強い声で言う。
「そんなの、やってみなきゃわかんないだろ!」
その声に、
リナライの名の核が一瞬揺れた。
胸がちくり、とする。
(……わたし……
わるい……?
いっしょに……しない……から……)
■ 初めての“反発”
ミルが間に入る。
「トオマ、そんな言い方しないで」
トオマは腕を組む。
「だって、みんなでやるほうが楽しいだろ?」
リナライの中で、
何かが小さく弾けた。
「……わたし……
いやなこと……
いや……って……
いっても……いい……?」
その声は震えていた。
トオマは一瞬黙る。
ミルは真剣な顔で頷いた。
「いいよ。
友だちだもん」
リナライは深く息を吸う。
「……わたし……
きょう……
みてる……ほうが……いい……」
広場に静かな空気が流れた。
トオマは少し考え、
そして頭をかいた。
「……そっか。
オレ、ちょっと強く言いすぎた」
ユルクが静かに言う。
「……怖いときもあるよね」
ミルはリナライの手を握る。
「じゃあ、今日は見守り隊にする?」
リナライは目を丸くする。
「……みまもり……たい?」
「うん。
下から応援する係!」
その言葉に、
胸のざわめきがやわらいだ。
(……いっしょ……じゃない……
でも……はなれても……ない……)
リナライは小さく笑った。
「……それ……
やりたい……」
■ 違いは、離れることじゃない
木登りが始まる。
トオマが勢いよく登り、
ミルが続く。
ユルクは慎重に進む。
リナライは下から見上げて叫ぶ。
「がんばって……!」
胸は痛くない。
むしろ――
温かい。
(……わたし……
やらない……
でも……いっしょ……)
トオマが上から叫ぶ。
「リナライ! ちゃんと見てろよ!」
その声に、
リナライは笑った。
「みてる……!」
違いがあっても、
心はつながっている。
それがわかった瞬間だった。
■ ぶつかることの意味
遊び終わったあと、
トオマがぽつりと言う。
「さっき、ごめんな」
リナライは首を振る。
「……わたしも……
いわなかったら……
もやもや……だった……」
ミルがにっこり笑う。
「言ってくれてよかった」
ユルクも頷く。
「違うって言えるの、すごいよ」
リナライは胸に手を当てる。
名の核は穏やかに光っている。
「……ちがい……
こわくない……
ぶつかっても……
ともだち……」
その言葉は、
昨日よりも少し大人びていた。
リナライは今日、
初めて友だちとぶつかった。
だがそれは
関係が壊れる瞬間ではなかった。
違いを言葉にすることで、
むしろ絆は強くなる。
リナライはまたひとつ、
人としての深みを知った。




