第2章 第53話:はじめての嫉妬 ― 胸がちくりとする理由
友だちと遊ぶ楽しさを知ったリナライ。
だが次の日――
彼女は初めて、
“自分だけじゃない”という事実に胸を揺らす。
温かいはずの心が、
少しだけ痛む。
それは新しい感情のはじまり。
広場は今日も賑やかだった。
リナライは胸のペンダントを握りながら、
少し早足で向かっていた。
(……きょうも……
あそぶ……
ともだち……いる……)
胸が弾む。
しかし広場に着いた瞬間、
その鼓動がわずかに乱れた。
ミルとトオマとユルクが、
知らない男の子と一緒に笑っていた。
「だからさー!」
「それで転んだんだよ!」
「うそだー!」
楽しそうな声。
リナライは立ち止まった。
「……あれ……?」
胸の奥が、
きゅ、と締まる。
名の核が、
ほんの少し揺れた。
(……わたし……いない……
でも……わらってる……)
ミルが先に気づいた。
「リナライ! おはよ!」
その笑顔は変わらない。
でもリナライの胸は
なぜか温かくならなかった。
「……おはよう……」
声が少し小さい。
トオマが新しい子を紹介する。
「こいつ、昨日隣村から来たんだ。
すげー木登り上手なんだぞ!」
知らない子が笑う。
「よろしくな!」
その輪の中に、
自分がすぐ入れない気がした。
胸が、ちくり、と痛む。
「……ここ……いたい……
でも……きず……ない……」
昨日の擦り傷とは違う痛み。
名の核がわずかに濁るように感じる。
(……なんで……?
ともだち……
わらってる……
でも……わたし……
うれしく……ない……?)
■ 初めての“影の感情”
ユルクが近づいてきた。
「リナライ、どうしたの?」
その声は優しい。
でも――
胸のざわめきは消えない。
「……わたし……
さっき……
すこし……いや……?」
ユルクは首をかしげる。
「いや?」
リナライは胸を押さえながら言う。
「……みんな……
わらってる……
わたし……いなくても……
たのしそう……」
ユルクは一瞬驚き、
そしてやわらかく笑った。
「うん、楽しかったよ。
でも、リナライが来たらもっと楽しい」
その言葉に、
少しだけ胸が温まる。
だが完全には消えない。
(……これ……なに……?
こわい……?
ちがう……
でも……いたい……)
リナライは気づく。
影だった頃、
“独り”でいるのは当たり前だった。
でも今は違う。
“自分が特別でいたい”という
感情が生まれている。
それが、
自分でも知らないうちに
胸を締めつける。
■ 嫉妬という言葉
その日の帰り道。
リナライは静かだった。
リオナはそっと尋ねる。
「今日は、少し元気がないわね」
リナライはうつむき、
ゆっくり言葉を探す。
「……りおな……
ともだち……
わたし……
いなくても……
わらえる……」
リオナは静かに頷いた。
「ええ。
それは自然なことよ」
リナライは胸を押さえる。
「……でも……
ここ……
ちく……って……する……」
リオナは優しく答える。
「それはね、“嫉妬”という感情よ」
リナライの目が大きく開く。
「……しっと……?」
「大事な人が、
自分以外の誰かと笑っているとき、
少し寂しくなる気持ち」
リナライは息を呑む。
「……わたし……
わるい……?」
リオナは首を横に振る。
「いいえ。
嫉妬は悪いものじゃないわ。
それだけ、大切だと思っている証拠」
その言葉は、
リナライの胸に静かに落ちた。
(……たいせつ……
だから……いたい……)
涙は出ない。
でも、
自分の中に新しい“影”が生まれたと感じる。
影だった自分とは違う。
“光のある影”。
「……りおな……
わたし……
ともだち……
すごく……すき……」
リオナは微笑む。
「うん。
それでいいのよ」
リナライは胸の名の核に触れた。
光は、まだそこにある。
少し揺れているだけ。
「……しっと……
こわくない……
これも……わたし……」
その言葉は、
小さく、でも確かな成長だった。
リナライは今日、
初めて“嫉妬”を知った。
それは暗い感情ではなく、
“誰かを大切に思う心”の裏側。
光があるから影が生まれる。
彼女は少しだけ
自分の複雑さを受け入れた。




