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82話 次なる舞台エジプト王国へ

光が収束し、いつもの会議室空間が姿を現す。バビロニアの大地から帰還した茜たちは、それぞれの席に腰を下ろし、ほっと一息ついた。


「いやぁ、ヒッタイトの時代は面白かったね」


茜が満足げにそう言うと、すかさずリュシアが冷静な声で応じる。


「確かに。あの時代、主はかなり多くの戦果と……それに、多くの装飾品を手に入れてましたからね」


「主は本当に、キラキラしたものが好きだよな」


アルタイも半ば呆れ気味に肩をすくめる。


「好きに決まってるでしょ」


茜は胸を張って即答したが、すぐに視線を宙に泳がせ、少しだけ渋い顔を見せた。


「ただね、今回手に入れた宝物は、特に王様からの下賜品が多くて……歴史的価値がありすぎるのよ。売るに売れないのが困りものなのよね…そう文化的価値が高すぎるのが…。スッピルリウマ王からの黄金のスタンダードなんて、絶対に売っちゃダメな品物だし……うう、使えない宝物ってもどかしい……」


その金銭欲にまみれた本音に、ユカナが呆れたようにため息をつき、ミラナも「強欲の神アカーネ……」とぼそりと漏らす。


そこへ、ガルナードが静かに口を開いた。


「ですが主殿。この時代、主は“神”として広く認識され始めております。この先、どの時代に、いかなる形で干渉されるのか……それが試されることになるでしょうな」


少しの間をおいて、彼は意味深に続ける。


「もちろん、完全に異なる時間軸へと跳ぶという選択肢もありますが……主殿の性格からして、今の流れを断ち切るとは思えませんな」


「うん、そうそう。私もそのつもり」


茜はにやりと笑い、椅子の背もたれに腕をかけた。


「ここまで来たら、このまま楽しみたいし、何より――このまま時代を進めていった先で、どんな未来が待ってるのか、ちゃんとこの目で見てみたいんだよね」


その言葉に、空間の空気が再び動き出す。茜の旅は、まだまだ終わる気配がなかった。和やかに談笑が続く中、不意にエンへドゥアンナが、まるで真面目な生徒のような顔つきで問いかけてきた。


「ところで、先ほどの時代の最後の部分――バビロニア王国ですが、茜の信仰は結局、発生したのでしょうか? たしか……信仰が発生すると、神力が得られるのですよね?」


あまりにも“それっぽい”発言に、一同が一瞬ぽかんとする。神話を書く事を生業とする詩人とは思えないほど、やたらシステムに明るい。


「……エンへドゥアンナさんも、ずいぶん仕組みに詳しくなりましたね」と呟きながら、リュシアが端末を操作して確認を始める。すぐに結果が表示され、彼女が小さく頷いた。


「確認しました。バビロニア王国において、主には信仰値40が発生しています。また、ユカナ様とミラナ様には、それぞれ20の信仰が発生しています」


「おお、やっぱり来てたかー!」と茜が拳を軽く握る。


「これにより、神力の現在値は――」


リュシアが淡々と読み上げる。


「主が581、ユカナ様が570そしてミラナ様が165。さらに通常管理分が407です」


 数値を聞いたミラナが、両手を空に掲げて歓喜の声を上げた。


「はいキター! まだまだ私のボーナスステージ継続中! 次の時代でもっと荒稼ぎしなきゃね~♪」


 そのはしゃぎぶりに、ユカナが呆れながら首を振る。


「ミラナさん、一応上位神なんだから……もうちょっとそれっぽい言葉遣いを…」


「だってぇ~! これまでまともに信仰も神力ももらえなかったんだよ? たまにはご褒美あってもいいじゃん!」


ミラナのあっけらかんとした返答に、茜も呆れたようにため息をついた。


「……この残念神の発言を聞いてると、神様って一体なんなんだろって思うよ。ま、ユクアの“ダ女神”ぶりを見てればもっと分からなくなるけどさ。……とはいえ、さすがにテラ様を見ると“ああ、やっぱり神様ってすごいんだ”って思えるんだけどね……」


独りごちるようにぼやく茜に、ミラナが満面の笑みで近づいてきた。


「でもでも、今回の神力は、ちゃんと茜が使っていいよ? 分かってる、分かってる。さすがにこの神力が私ひとりで得られたとは思ってないし」


思いのほか素直な反応に、茜は逆に眉をひそめた。


「……ねぇ、残念神。何かたくらんでるでしょ?」


茜が鋭い視線で詰め寄ると、ミラナは肩をびくっと震わせた。


「ううん! な、なにもたくらんでないってば!」


わざとらしく笑いながら手を振るが、その直後、自爆するように口を滑らせる。


「そんな次の時代が終わっても、そのまま契約延長してボーナスステージ継続!――なんて思ってないって!」


間。

茜が無言で睨み、ユカナが呆れたように眉をひそめる。


「……ミラナさん、本音が駄々洩れですよ」


リュシアが珍しく真顔で問いかける。


「神になったとはいえ、下位神の主に上位神がここまで依存するのは、神格的にいかがなものかと……」


「でもでも!」


 ミラナは必死に身を乗り出す。


「私、これまで一度だって恒常的に信仰もらえたことなかったんだよ!? 今回が初めての大当たりなんだよ!? もうちょっとくらい、私が恵まれてもバチ当たらないと思うの!」


語尾がだんだん泣きそうになってきて、茜は思わず手を額に当てた。


「……あんた、本当に残念神だったんだね……。ま、正直見てて面白いし、本人がついて来たいって言うなら止めはしないけど……でもさ、いいの? 至高神テラ様の許可とか、必要なんじゃないの?」


その問いに、ミラナは「待ってました!」とばかりに空間から紙を一枚取り出した。


「新しい契約だとたぶんアウトだけど……契約延長なら、大丈夫! ……だと思う! ほらこれ、契約書だから! 早くサインして!!」


ミラナが差し出した紙を茜は受け取り、まじまじと眺めた。そして、静かに言う。


「ねぇ、残念神……これ、絶対に拙いやつだよね?」


その瞬間、ミラナは目を逸らした。


その動きでもう確信した。茜は深々とため息をついて、契約書をテーブルの上に戻す。


「これはもう、絶対にテラ様の許可が要る案件だよ。だからこうしよう。次の時代が終わったあと、あんたの“働き”次第で、私からテラ様に掛け合ってみる。それで許可が下りたら、契約延長。どう?」


「ははぁ~~っ!! アカーネ様ぁっ! これからもどうぞよろしくお願いしまぁすっ!!」


盛大な土下座とともに、ミラナが床に突っ伏す。もはや威厳の欠片もないその姿に、一同は沈黙したまま、静かに顔を見合わせた。


「……うん、やっぱり残念神だわ」


と、茜がぽつりと漏らした。


ミラナの土下座騒動もひと段落し、場が落ち着きを取り戻した頃。茜は椅子にもたれながら、ふとリュシアに視線を送った。


「ねぇ、そろそろ次の時代、決めないとだよね? 今ってどの段階だったっけ?」


リュシアは軽く頷いて端末を操作し始める。


「はい。次は『後期青銅文明・第二ステージ』です。……本来であれば、ヒッタイト王国の別の時代が選ばれるところですが――」


一度、言葉を切り、画面を確認したリュシアが、意外そうに目を細める。


「どうやら、選択肢が複数存在しているようですね」


「え? 選択肢?」


茜が身を乗り出すと、リュシアが淡々と告げた。


「おそらく、主が“神の側”であることが影響しているのでしょう。ヒッタイト王国以外に、エジプト新王国のルートが開かれています」


その言葉に、茜の目がぱっと輝いた。


「……どの時代のエジプト?」


「カデシュの戦いを初戦とする、ラムセス2世の時代ですね」


その名を聞いた瞬間、茜は椅子から跳ねるように立ち上がった。


「ラムセス2世!? それ、行くしかないじゃん!」


まるで憧れのスターの名前を聞いたかのような勢いでそう叫ぶと、すぐさま指を突き立ててリュシアに言い放った。


「エジプト新王国にするよ、決定!」


だが、リュシアは一応の確認を怠らなかった。


「よろしいのですか? この場合、ヒッタイト王国とは敵対関係になります。かつての盟友の子孫達と、戦う可能性が出てきますが――」


その問いかけに、茜は自信満々に応える。


「大丈夫。カデシュの戦いは、史実では引き分けに近い形になるはずだし、なによりその後、歴史上初めての“和平協定”が結ばれるんだよ? アカーネとして、その協定を導くような動きをすれば、ヒッタイトにもエジプトにも影響力を残せる。両方にいい顔するってやつ!」


捲し立てるように言い切る茜に、リュシアは小さく笑みを浮かべて頷いた。


「……そこまでお考えでしたら、私から言うことはありません。次の行き先は、エジプト新王国――カデシュの戦いの時代ということで、了解いたしました」


そのやり取りを聞いていたアルタイが、腕を組んで口を挟む。


「でもよ、主? たしかカデシュの戦いって、かなり大規模な戦車戦だったよな? そこに関与するってんなら、こっちの騎馬戦力を相当強化しとかないとマズいんじゃねえか?」


「そこなんだよねぇ……」


茜は考え込むふりをしながら、人差し指を唇に当てた。


「私たちがエジプト側で直接戦車戦に手を出しちゃうと、ヒッタイトが敗北する形になりかねない。だから――戦車戦には介入しない」


「じゃあどうやって戦う気なんだ?」とアルタイが首をかしげると、茜はニヤリと笑って、先ほどの時代から持ち帰ったある品物を指さした。


「ここで、あのスッピルリウマ王からもらった“スタンダード”の出番ってわけ!」


その言葉に、アルタイは「ああ」と納得するように頷いた。


「なるほど。あれを見せれば、ヒッタイト側も主をただの敵だとは思わねぇか」


「そうそう。派手に戦うだけが神の仕事じゃないんだよ。タイミングと演出、これが一番大事なんだから」


「それで主、かなり神力は蓄えられていますが……どのように配分なさいますか?」


リュシアが淡々と問いかけてくると、茜は机に肘をついたまま、くるくるとペンを回しながら返した。


「うーん、ねぇリュシア。もう私たち、鉄器文明の開発って全部終わってるよね? もし次の時代を開くとしたら、何が手に入る?」


リュシアは数回タップしたのち、画面を茜に向けながら説明を始める。


「次は、ギリシャ・ヘレニズム文明です。いわゆる“ポリス国家の時代”……主の大好きな、ポプリタイの時代ですね」


その言葉に、茜の目がぱあっと輝いた。


「きたぁああああっ!! 重装歩兵のファランクスの時代、開・幕っ!! これぞ歴史のロマンっ! リュシア、今すぐ開放!!」


挿絵(By みてみん)


「文明4-1、“重装ファランクス教練・長槍戦術”ですね。開放コストは本来170ですが、私の補正で121で済みます。この文明を開放すると、ポプリタイとタランティン軽騎兵が開発可能となります。開発コストはそれぞれ神力71と79です。どうなさいますか?」


「即開放!! ポプリタイ……やっと使えるっ。あとタランティン軽騎兵も当然ね! あれでしょ、南イタリアのギリシャ人都市タレントゥムの騎兵隊。アレクサンドロス大王の遠征軍にもいたっていう……投槍装備のヒット&アウェイができる騎兵。これは絶対欲しい!」


リュシアが設定を進めると、ユニット開発が完了し、通常管理分の神力は残り136となった。


「じゃあ次の文明、4-2を開けるとしたら何が増えるの?」


茜が次を促すように問うと、リュシアは画面をスクロールして応じる。


「文明4-2、“トーション攻城兵器革新”です。主の投石機が“トーションカタパルト”に進化可能となり、また鉄槍騎兵が重騎兵の“ヘタイロイ”へと進化可能です。文明開放には135、兵科開発には79と93必要です」


「うおおおおっ、ねじりロープの威力……トーション式! これ絶対に欲しい!! それとヘタイロイって、あのマケドニアの精鋭重騎兵だよね。これは大きいよ……うーん、無理してでも開けたい。……ここはユカナの神力、貸して!」


突然の指名に、ユカナが一瞬まばたきしたあとで、苦笑交じりに答える。


「……やっぱり私の神力も、茜の神力みたいに容赦なく使われてくんだよね。でもまあ、私の信仰は茜のおかげで増えたようなものだし……いいよ、使って」


「本当に躊躇なく他人の神力を吸い上げるよね、この人……」とミラナがぽつりと呟くと、茜はキッと睨んだ。


「こら残念神。あんたの神力はまだ使ってないでしょ」


ユカナの神力は263に減少し、文明4-2と新兵科の開発が完了する。


「ちなみに文明4-3は“三段櫂船造船・海洋戦術”で、今はまだ必要ありません。弓兵強化が見込める4-4まで一気に進む選択もありますが……今は兵科整備を優先した方がよろしいかと」


「なるほど、そこはリュシアの判断に従うわ」


茜は頷き、手元のリストを見ながら次々に指示を飛ばしていく。


「じゃあ今のうちに、進化できる部隊を全部進化させるよ。鉄槍歩兵6部隊はポプリタイへ。神力14×6で84。鉄槍騎兵3部隊をヘタイロイに進化、神力30×3で90。軽弓騎兵3部隊をタランティン軽騎兵で20×3で60。投石機2部隊をトーションカタパルトにして30×2で60。これで合計294。全部私の神力からで、残りは287ね」


すると、ユカナが画面を覗き込みながら声をかけた。


「ねぇ茜? 私の親衛隊のスパルタのポプリタイ、神力150で50人から100人になるみたいだけど、どうしよう?」


「マジか……! でも150って重いな……」


その時、横からミラナが手を挙げた。


「それ、私の神力でやってあげる。あれ、私の護衛部隊でもあるし……私の安全のための投資ってことで」


茜は驚いたように振り返り、ふっと笑った。


「残念神にしては思い切ったね」


「当たり前でしょ。これはね、私の未来のための戦略投資なのよ!」


「……へぇ~、あんたもやっと分かってきたじゃん」


全員の表情に、わずかながら“戦闘準備”の緊張感が宿り始めていた。


「主、とりあえず今回はこれくらいにしますか?」


リュシアが静かに尋ねるが、茜は腕を組みながら首を振った。


「うーん……次って“カデシュの戦い”でしょ? 歴史に残る大戦に突入するんだから、ここで中途半端な補強じゃ後悔しそう。しっかり準備しておきたいな」


その言葉に、ガルナードがうなずいて口を開く。


「確かに、今ならまだ神力にも余裕があります。部隊を増やすには絶好の機会でしょう。それに……アルタイ殿の騎兵隊も強化が必要ですな」


「よし、じゃあ追加配備!」


茜は即断即決で指を立てる。


「まず、ヘタイロイを2部隊、それにタランティン軽騎兵も2部隊追加。これで合計200、これはユカナの神力から使わせてもらうね」


「やっぱり私の神力、容赦なく削られてく……」


ユカナが笑いながら嘆くと、茜は悪びれもせず「感謝してるよー」と軽く返す。


「次、ポプリタイを4部隊追加。28×4で112、これは私の神力からね」


リュシアが素早く配備を進めると、茜はさらに続けた。


「そして、今雇った8部隊全部――ヘタイロイ×2、タランティン軽騎兵×2、ポプリタイ×4――この子たちの武装と練度を一段階上げておこう。神力200必要でしょ? これは通常管理分と私の神力から、それぞれ100ずつ出すから」


「了解しました」


リュシアの指先が端末上を滑り、強化は完了。茜が満足げに息をつく。


「……で、残りの神力は?」


「通常管理分が36。主の管理分が75、ユカナ様が63、ミラナ様が……15ですね」


「ふむ。まだ補強しようと思えばできるけど……キリがいいし、今回はここで打ち止めにしておこうか」


そう言って、茜が立ち上がろうとしたそのとき――ぱっと手を挙げて割り込んできたのは、あのミラナだった。


「ねぇ、ねぇ! 今回のエジプト新王国への降臨――ここは私に任せて!」


その言葉に、全員がピタリと動きを止める。茜はジト目でミラナを見つめた。


「……残念神に任せるのって、なんかすっごく不安なんだけど?」


だが、ミラナは胸を張って満面の笑み。


「任せてってば! 上位神である私が本気出せば、今回の降臨演出くらい、バッチリやってみせるって!」


あまりに自信満々なその姿に、茜は首をかしげたままため息をつく。


「……なんであんた、そんなに自信あるのか分かんないけど……」


「いいから、いいから! 悪いようにはしないって♪」


ミラナは得意げにウインクするが、その軽さがまた不安を呼ぶ。とはいえ、茜も特に代案があるわけではなかったため、渋々頷く。そして茜は、今回の時代遷移に持ち込む装備を慎重に確認していた。身にまとうのは、ヒッタイト王国のピヤッシリ副王より授けられた、格式高き神装束。重厚な金製の太陽円盤ペクトラルをはじめとするその装いは、まさしく“神の装束”であった。


左の手首には、バビロニア王から授かった、金製のイシュタルの「八芒星」と銀製の風の神の「渦紋」が描かれた天文腕輪が輝く。袋にはトルコ石、瑪瑙、ラピスラズリ、紫水晶といった宝石類、そして秤量銀が整然と収められている。どれもかつての旅路で手に入れた“生ける証”だった。


そして――

スッピルリウマ王から譲り受けた、ヒッタイト王の黄金のスタンダード。


「これだけは……絶対に軽々しく見せられないよね」

 

茜は黄金部分を丁寧に布で包み、先端に布のかかった杖のように見せかけた。その金の輝きが戦場に現れるとき、すなわち歴史が大きく動く瞬間になる――そんな予感があった。装備を確認し終えた茜は、まだ浮かれ顔のミラナにじとりとした視線を向ける。


「……本当に、大丈夫なんだよね?」


「任せなさいって!私だって上位神なんだからさ」


胸を張って、どこまでも自信満々なミラナ。だが、その態度がむしろ茜の警戒心に火をつける。


「いや……たしかに、あんたが“直接的に何かやらかした”ってわけじゃないけどさ。けどね――」


茜はミラナをじとりと睨みつけた。


「これまでの発言と行動、全部総合すると、どう考えても信用できないのよ。神力の荒稼ぎ発言に、すぐ興味本位で突っ込んでくる無計画さ……。それに、自分の都合でしか動かないし」


「えぇ〜!? ひどくない!? 私は一度も失敗してないよ?」


「むしろ、あんたが絡んだ事案って、全部ギリギリで私がフォローして成立させてるだけでしょ? 信用できるかって聞かれたら……うん、無理!」


ミラナはぷくっと頬を膨らませて抗議しようとしたが、周囲の皆の視線が静かに同意しているのを感じ、口を閉じた。


「……も、もう今回は大丈夫だからっ。今回はちゃんと真面目にやるってば!」


「ほんっと〜にぃ?」


茜は呆れと疑念を込めて目を細めた。それでも、結局は任せるしかない。茜は深いため息をついて言った。


「まあ……いいよ。今回は任せる。でも失敗したら、テラ様に報告するからね?」


「ひぃっ……!」


ミラナの顔から笑顔が消えた瞬間、時空は静かに歪み始めた――。静かに、だが確かに、景色が波打ち始める。床が、天井が、空気そのものが、まるで水面のように歪み――。そして次の瞬間、光のうねりが全身を包み込む。


時空はねじれ、光と影の境界が崩れ――茜たち一行は、紀元前1274年――エジプト新王国へと降り立った。

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