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11話 交渉と勝利の果てに、英雄と神話を手に入れた

今回でチュートリアルの原始時代編が終了します。ここまでは、どちらかというとシステム的な話がメインだったため、あまりストーリー性はなかったかもしれませんが、ここから先は、各時代に実際に行くことになるため、かなりストーリー重視の話が展開されます。

光の空間が、淡い粒子を舞わせながら形を整える。


 ここは「作戦会議空間」。戦闘が終結するたび、茜たちが次の準備と戦果確認を行う部屋だ。今はまだ机と椅子が置かれただけの、ただ広いだけの空間に過ぎない。


 空間中央に浮かぶ戦況盤が、静かに回転を止め、集計モードに切り替わる。パネルの上には、神力の数値がじわじわと加算されていく。


 リュシアが虚空に浮かぶ表示を指差し、変わらぬ冷静な口調で報告した。


 「第三戦の戦果報告です。初戦勝利ボーナス150、戦術勝利報酬Sによる追加40ポイント。さらに前戦からの繰越分9ポイントを加算し……」


 煌めく数字が固定される。


 《現在神力:199》


 「合計、199神力となります」


 「おお、ガッポリ!」


 茜は、仮想空間でありながら勢いよくイスを回転させ、戦況盤に身を乗り出した。


 「さらに、シナリオの終了に伴い、恒例の特典処理が入ります」


 リュシアの指示に応じて、空間の天井に星のような演出が広がる。戦況盤の表示が一瞬だけ白く輝き、部隊リストが再構成された。


 「生存しているすべてのユニットが、体力全回復。さらに、練度・武装度ともに+1の成長補正を受けました」


 「なるほどね。シナリオが一つ終わると、全回復とボーナスが入るわけだ。ありがたい~!」


 「……その言い方は、元も子もありませんね。あくまで“歴史の一幕が終結”し、生存者たちに経験と価値が積み上がったという記録処理です」


 そこへ、ふわふわとスリッパの音が鳴り、ユカナがテーブルの反対側に現れた。


 「でもね、さっきから神力ゲージがピコンって光ってたんだよ。見て見て、+10されてる〜」


 リュシアが追加情報を展開する。


 「はい。原始時代における“ユカナ信仰”が成立したことで、本格的な継続供給型の信徒システムが発動しています。よって神力が定期的に増加する構造に移行」


 《追加神力+10 → 合計:209神力》


 茜はにやりと笑い、指でその数値をタップするふりをした。


 「……グロガン、いい仕事したわ~。はい、現在神力209っと」


 会議室に笑いが広がりつつも、空間の空気には、確かな“一区切り”の余韻と、次に進む準備が満ちていた。


 作戦会議空間に柔らかな転移光が差し込む。


 光の中心に現れたのは、いつものきらびやかな装束を身にまとった女神——ユクア。完璧な笑みとともに姿を見せた……が、その口元はほんの少し引きつっている。


 「ふむ。チュートリアルは無事終了したようですね。本来であれば、ここで“お祝い”を授けるところですが……」


 彼女は茜を一瞥し、わずかに目を細める。


 「あなた、もう色々と“もらいすぎ”では?」


 「ちょっとまった~~!」


 茜は椅子を蹴るようにして立ち上がり、両手を広げて抗議した。


 「神様が! 自分の判断ミスで人間が得したからって! 報酬カットって、それただの八つ当たりじゃないの!?」


 「八つ当たりではありません。……ただ、ちょっとぐぬぬってなっただけです」


 「正直!!」


 その様子を後ろで見ていたユカナが、手を口元に添えながら小声でつぶやく。


 「お姉ちゃん、いつもこんな感じだから……」


 「おだまり!」


 ユクアがピシッと指を差し、妹に突っ込む。ユカナはびくっとしながらも、ちょっと楽しげだ。


 茜は、そのやり取りを横目に見ながら、にやっと笑った。


 「うわー、怖。もうこれは広めるしかないよね。これから私達が周る全ての時代で拡散しなきゃ。“ユクアという神は、恐怖の神である”って!」


 「やめなさい!! そんな風評被害、神格に関わります!」


 「じゃあ素直に祝ってくれればいいじゃん?」


 「……うっ……」


 神であるはずのユクアが、ほんの少し口ごもったその瞬間。


 リュシアがため息混じりに、冷静な助け舟を出す。


 「ユクア様。主の行動にルール違反はありません。よって、通常通りの報酬処理が最も妥当かと」


 「……ぐ……そうね、仕方ないわね……」


 渋々といった様子で、ユクアは視線を逸らしながら腕を組んだ。


 ユカナがこっそり茜に耳打ちする。


 「ねえ、これ……お姉ちゃん、今すっごくイライラしてると思う」


 茜は肩をすくめて、にやりと笑う。


 「顔に全部出てるもんね。見ていて面白いわ」


ユクアがしぶしぶ腕をほどき、渋面のまま指を軽く振った。その動作に呼応して、会議空間の天井に淡い金光がゆっくりと広がっていく。


 「……では、チュートリアル突破特典の“司令官ユニット召喚”を解放します。好きなだけ運を祈るといいわ」


 「おっ、来た来た〜!」


 茜は戦況盤の前に立ち、腕をぶんぶん振りながら期待の視線を送った。


 「今度はどんなのが来るかな~。できれば見た目と声がカッコいいと嬉しいな~!」


 リュシアが小声でぼそりと呟く。


 「指揮能力よりも見た目を重視するとは……」


 その瞬間——


黄金色の光が戦況盤の中央を包み込むように立ち上がる。


 それはリュシアが現れた時の“虹色の柱”ほどの神威ではない。だが、確かに空気が変わった。神紋の刻まれた円環が低く唸りながら回転し、その中心から金光が柱のように伸び、空間を切り裂くように展開する。


 そしてその中から、重々しい鎧のきしむ音と共に、一人の男が姿を現した。


 銀に近い灰色の髪と顎髭。鋼鉄のような視線。全身を包むのは、古き騎士の象徴とも言える重厚な金属鎧。胸元には赤いスカーフを巻き、腰には使い込まれた鋼の剣を携えている。


 威圧的でありながら、穏やかさを秘めたその風貌は、ただの戦士ではなかった。歴戦を生き抜き、重ねた年輪に裏打ちされた“貫禄”が、そこにはあった。


挿絵(By みてみん)


 男は静かに、茜の前に立ち、右拳を胸に当てて言った。


 「……我が名は、ガルナード・デ・リュミエール。そなたが、今回の我が主か?」


 「イ、イケオジ、キターーー!!」


 茜は一瞬ぽかんとしたあと、叫びながらスリッパを脱ぎ飛ばしそうな勢いで立ち上がる。周囲が一瞬沈黙する中、ガルナードは眉をわずかに持ち上げた。


 「……な、なるほど。今度の主は……随分と元気がよろしいようだ」


 その柔らかくも低い声に、リュシアが静かに前へ進み出る。


 「お久しぶりです、リュミエール卿。またご一緒できて光栄です。……今度の主は、多少“型破り”ですが、有望かと」


 「おお、リュシア殿! 相変わらず見事な補佐役ぶり。貴殿が認める主ならば、私も力を尽くす価値がありそうだ」


 茜はそのやり取りを見て、口を尖らせながらぼそりと呟く。


 「なんか二人で意気投合してるし……。はいはい、新参者ですよ。どうせ私は新顔ですとも」


 ユクアが割って入る。


 「また……またしても、どうして高ランクばかり……確率おかしいでしょ?!」


 茜は得意げに笑いながら、椅子にどっかり座り直した。


 「ガチャってそういうもんじゃない?」


****


 会議空間にまだ金の光の余韻が残る中、茜はぽつりと手を挙げた。


 「そういえばさ、ちょっとだけ、補償っていうかお願いがあるんだけど」


 「……補償?」


 すでに何度もその言葉を聞かされてきたユクアが、明らかにげんなりとした顔で振り返る。


 「さっきのガチャで“高レア”引いておいて何言ってるのよ! それにラピスラズリの首飾り、神力、信徒、もう十分得たでしょ!?」


 「いやいや、今回はほんとに真面目なお願いなのよ」


 「あなたの“真面目”は信用できないのよ……」


 茜は椅子から立ち上がると、少し芝居がかった仕草で言葉を重ねる。


 「聞いてくれる? 私じゃなくて、ユカナの話。ねえ、考えてみてよ。妹を、神様のくせに、戦場にスリッパ一つで送り出してるお姉ちゃんがいたら、それどう思う?」


 ユクアの視線が、スリッパのままポカンと立っているユカナに向く。


 「……それを言われるとちょっと弱いわね……」


 「でしょ!? だからせめて、護衛兵くらいつけてあげるのが姉の務めじゃない? 50人くらいでいいから、見た目強そうで、できればカッコよくて、スパルタっぽくて、筋肉もあって——」


 「それ、完全にあなたの趣味でしょ!!」


 「趣味でも役には立つ。でしょ、リュシア?」


 「私は肯定も否定もしませんが……間違ってはいないとは思います」


 「で、どうする? つける? つけない? 妹、守らない?」


 「……ぐぬぬ……わかったわよ! 護衛をつければいいんでしょ、護衛を!」


 ユクアはとうとう音を上げ、ふてくされたように指をひらりと振る。


 空間の端から、ひとつの金属駒がころんと転がってくる。


 《ユニット獲得:ポプリタイ(スパルタ)》


 茜がそれを拾い上げようと身をかがめた、そのとき。


 ユクアは一瞬、嫌な予感がしたように茜をじっと見た——そして小さく舌打ちするように言い捨てた。


挿絵(By みてみん)


 「……もういいわ。これ以上何か強請られたらたまらないし、早く次の時代に行ってちょうだい!」


 そう吐き捨てると、ユクアはぴしゃりと手を振って空間に転移の光を走らせ、そのまま一言も残さず神界へと姿を消した。


 しばらくの静寂のあと、茜はゆっくりと駒を拾い上げる。


 「……ちょろい」


 リュシアは、その茜の声を聞いて、小さく額に手を当てた。


 茜は、掌の上でポプリタイの駒をじっと見つめていた。重みのある金属材質に刻まれたスパルタのポプリタイの駒は、明らかに他のユニットとは違う風格を放っている。


 「いやぁ……これは、思った以上に強そうね」


 その言葉に、リュシアが戦況盤に駒の詳細を投影した。数値が現れた瞬間、空気が一瞬だけ凍りつく。


 「武装度:♠、練度:♠……レベルSの上ですか…カテゴリー的には伝説の戦闘部隊ですね」


 「うわぁ。青銅の文明じゃ絶対に止められないやつだ、これ」


 茜は楽しそうに笑うが、その口調には少し慎重さも滲んでいた。


 「でもね……これ、護衛専用だから、あんまり好き勝手には動かせないよね。ユカナの傍からは離れない、って仕様なんでしょ?」


 リュシアは頷きながらも、戦況盤を操作して駒の指示反応範囲を示す。


 「はい。ユカナ様の周囲を常時警戒。離れる指令には反応しません。つまり……運用するのでしたら相応の工夫が必要かと」


 「まあ……それでも十分強すぎるよね。これ、200人くらいの青銅文明の相手なら普通に蹴散らすでしょ?」


 「……本音を言えば、前線に出さないで正解です。通常の半分の規模の部隊でしょうけど、あの駒ひとつで戦況がひっくり返ります」


 その評価に、ガルナードが思わず低く唸った。


 「なるほど……軍略よりも交渉術で駒を引き出すとは、今回の主はこれまでのどの指揮官とも違いますな」


 「へへっ、褒められたー!」


 茜は駒をひらりと放りながらキャッチし、満面の笑みを浮かべた。


 その一方で、ユカナは少し複雑な顔をしていた。


 「……でも、その駒がずっと私の近くにいるってことは……私、今後ずっと……見張られる感じなのかな……」


 「うん、そうなるね!」


 「えー……」


 茜は悪びれもせず笑って言い切り、すぐに戦況盤を指差した。


 「さて、それじゃ次の時代に行く前に、まずは部隊の編成、ちゃちゃっと済ませちゃいましょうか!」


 軽く一歩進みながら、リュシアに振り返る。


 「それと、リュシア? 次の時代のこと、教えてね?」


 リュシアは頷きつつ、戦況盤に新たな文明時代の予告データを表示し始めた。


 光が再び空間を染め、次の戦いの幕がゆっくりと上がり始めていた。


茜はここまでにかなりのズルをしているので、最初の時代に行ってもしばらくは無双することになります。ただ…女神ユクアがそれを許すはずもなく…な感じで、ここからは話が進むと思います。

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