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101話(外伝)神界は今日も平常運転

神界の作戦会議空間──それは地上のいかなる戦場や神殿とも異なる、静寂と秩序に満ちた場所だった。時間の流れすら無いこの空間に、ふたつの光が帰還する。まばゆい閃光の中から姿を現したのは、茜とエンへドゥアンナ。ヒッタイト王都ハットゥシャでの短くも濃密な軍議を終えたばかりのふたりだ。


「……ふぅ、なんとか、思っていたような形にはなったけどさ……正直、気疲れするわ……」


茜は肩の力を抜いて、ぽつりと呟く。その声には、達成感と同時に、濃度の濃い交渉の余韻が滲んでいた。アッシリア、ヒッタイトという二大強国の王と直接対話し、それぞれの戦略転換を実現させた。茜としては、十分な仕事を行ったと言ってよい。しかし、それを隣で聞いたエンへドゥアンナは、相も変わらず涼しい顔をしている。


「しかし、茜の思い描いた通りになったのですから、結果としては万々歳ではありませんか? それに……今回、アッシリアとヒッタイト、両大国に対して方針の決定を促しました。これは神としての影響力が格段に高まった証拠です。おかげで、私の神話筆録も着々と進んでおりますよ。『アカーネ、列国を導きし神となる章』……素晴らしい見出しではありませんか?」


自信たっぷりの語り口に、茜は眉をひくつかせて言い返す。


「あんたねぇ……こっちはそのせいでどれだけ気苦労したと思ってんのよ? アッシリア王は王威バリバリだし、ヒッタイトはヒッタイトであの重たい雰囲気でしょ? 神話書くのは楽かもしれないけど、書かれるこっちは命削ってんの!」


軽く肩をすくめて抗議してみせたものの、茜の声に本気の怒りはない。どこか楽しげで、むしろやり遂げたことへの誇らしさが垣間見える。


「……まあ、愚痴はこのくらいにして。のんびりしてる暇なんてないしね。エジプトに戻る準備、さっさと済ませなきゃ」


そう言いながら茜は、会議室の棚に整然と置かれていた各地で手に入れた記念の品へと歩み寄る。彼女が自らのスタンダードに取り付ける宝物──アラッタの聖石、アッシリア王からの王印付きの指輪、ルガルニル王子の形見である風のアミュレットそして風の指揮棒についていたトルコ石など──いずれも茜の足跡そのものだった。茜はそれらをひとつひとつ確認し、丁寧に運ぶ準備をしながらつぶやく。


「さて……エジプトに戻ったら、色々待っているんだろうなぁ……第五軍アカーネの編成とか、神殿での活動とか、モーゼ達の案内とか…」


エンへドゥアンナはそれを見守りつつ、口元に静かな笑みを浮かべる。


「でも、それが茜の日常なのですから。神である前に、茜はそういう存在なのですよね」


茜はその言葉にちょっとだけ笑って、「あー、そうかもね」と肩をすくめながら応じた。茜が手際よく荷物をまとめ、アカーネ神殿への帰還に向けて準備を整えようとしていたその時だった。空間の中心に、突如として神力の奔流が巻き起こる。光の渦が勢いよく螺旋を描き、眩い輝きの中から、一人の女神が姿を現した。


「……はぁっ、間に合った!」


と、まるで駆け込むように息を切らして降臨したのは──ダ女神こと、ユクアである。その登場に、茜は顔を上げ、じと目で一言。


「……あれ? ダ女神様じゃん。てっきりテラ様の監視下で苦行中だと思ってたけど? まさかお使い? それとも逃亡?」


この煽りにユクアは、茜の期待どおり瞬時に反応した。


「ち、違うわよ! ちょっと状況確認に来ただけ! あんたこそ、どれだけやりたい放題やってるのよ!」


ユクアは茜を指差しながら、まるで堰を切ったようにまくし立てる。


「アッシリアにヒッタイトにと、やりたい放題に降臨するだけに留まらないで、王の前で政策決定に関与して! 作戦会議空間はあなたの個人用出入り口じゃないんだからね! それに──あのラムセス王からもらった金ピカの神像ってなによ!? もう、拝金主義もほどほどにしなさいよ!」


「……うらやましいのは認めないの?」と、茜がにやにや笑いながら横槍を入れる。


「う、うらやましくなんて……ないわよ! そんなことないわよ!」


ユクアの声が微妙に上ずる。耳まで真っ赤である。


「あー、これは完全に妬みだよね……それにしてもさあ、ずっと私の動きを監視してたって、どんだけ暇なのよ? ストーカー気質? むしろこれって、地上だったら通報案件じゃない?」


「ち、ちがっ──! あんたが妙なズルをしないように、監視という神界の義務を果たしていたまでよ!」


「あっそ。それで、その義務の最中にこうやって勝手にここに来ちゃってるわけだ?」


茜があくまで平坦な口調で言うと、ユクアはぴしりと固まった。が、すぐに胸を張って強弁する。


「今、テラ様は別件で席を外しているの! だから、今は自由に動けるのよ! 今だけは、私の時間なのよ!」


「ふむふむ……つまり、テラ様の目を盗んで勝手に来たと。これは……完全にアウトじゃない?」


「う、うるさいうるさいうるさぁいっ!」


語彙が尽きたらしい。三連うるさいが出たところで、エンへドゥアンナが恐る恐る尋ねた。


挿絵(By みてみん)


「あ、茜? この方は……一応、上位神でしたよね? そんなに邪険にして大丈夫なのですか?」


「大丈夫大丈夫。あの残念神だって一応上位神なんだからさ。で、その残念神が最近、信仰伸びてウハウハ状態なわけでしょ? でもこのダ女神様は神力に飢えてる状態の筈なんだよね。 だから、序列上は上位神でも、今の立ち位置は……ぶっちゃけあの残念神以下ってことだよねー?」


ユクアはがたがた震えながら、顔を真っ赤にして唇を噛む。


「う、うう……私の、なけなしの神力を根こそぎ奪ったのは……あ、あんただからねっ! それに……も、もう少しすれば給料日だから! 神力だって入るんだからぁぁぁ!」


「うっわ。上位神が給料日を気にしてる時点で、もう色々ダメじゃない?」


茜はお腹を押さえて笑いながら、「ぷぷぷぷ……」と吹き出す。


「うるさいっ! うるさいったらうるさーーいっ!!」


もはや神界の空間とは思えぬただのコント舞台のような光景に、エンへドゥアンナはただ、己の書板に記すべきかどうか迷っていた──。


「もう、もうもうもう! どうしてあんたみたいなやつが信仰を集めてるのよおおお!」


作戦会議空間に高らかに響く、ユクアの絶叫。


「え? どのへんが気に入らなかったの? 私の髪型? 服装? それとも顔?」


茜はスタンダードに取り付ける記念品を抱えながら、わざとらしく首を傾げる。


「違うわよ! あなた、今回のエジプトでは戦ってないじゃないの! 戦わずして勝利してるじゃない! なのに、神殿は建つわ、信仰は集まるわ、黄金の神像は奉られるわ……! そんなの、そんなの……ズルいに決まってるでしょ!!」


「へぇ~。じゃあ言ってごらん?」


茜は涼しい顔で、指を一本立てる。


「“戦略的勝利”って」


「むきぃぃぃ……!」


ユクアの眉間が引きつり、頬がヒクヒクと動く。


「せ・ん・りゃ……く……的、勝利……?」


口から出るたびに歯ぎしりの音が混ざる。


「うん、よく言えました!」


茜は拍手とともに親指を立ててにっこり。


「だいたいね? 戦って勝つだけが神じゃない筈だよ?むしろ、戦いそのものを回避して、豊穣や平穏を保つ──その方が信仰が広がるに決まってるじゃん。テラ様だって、絶対に私の言葉に頷くと思うけど」


「ぐ……そうだけど……! でもでもでもっ!!」


ユクアは腕をぶんぶん振り回しながら詰め寄る。


「戦いもなしに名を広めて! ただ交渉して調和をもたらして! 金ピカの像もらって! そういうの……私がやりたかったやつーーーッ!!」


「はいはい、やりたかった、やりたかった。つまり、うらやましいってことね?」


茜はわざとらしく頷きながら、アラッタの聖石であるラピスラズリの巨石を手に取って磨き始める。


「いいもん……どうせ私は神力に飢えたダ女神よ! でも、それならそれで、やり方を変えてやるわ! 戦わずに勝つなら、私だって! 私だってぇぇぇ……!」


「まずは神界での評判を勝ち取るところから始めようか」


茜は笑いながら、ユクアに応える。


「ていうか、妬むくらいなら自分で信仰広げる努力すればいいじゃん。ほら、ユクア神社とか開いて、金運アップとか恋愛運向上とか」


「ぐっ……それ、ちょっといいかも……って、騙されないわよ!」


神界空間に響く、神々しさとは正反対のドタバタ劇。そして、また一人、神格よりも人間味に磨きをかける女神がここに誕生しつつあった。


先ほどまでの大騒ぎがようやく一段落し、空気が少し落ち着いた頃、茜は首をひねりながら尋ねた。


「でさ、テラ様に内緒でわざわざ抜け出してきたダ女神様が、私に何の用なの? まさか“監視の延長戦”ってわけじゃないよね?」


その問いに、ユクアはふんぞり返って腕を組み──そしていきなり、憤慨したように叫んだ。


「ミラナのことよ!」


唐突すぎる一言に、茜は一瞬ポカンとする。


「あの残念神が……何かやらかしたの? それとも、私の居ない間に間違ってエジプトのピラミッドを逆さに建てたとか?」


「違うわよっ! というか、なんでそんな方向性の心配してるのよ!」


ユクアはわなわなと肩を震わせたあと、とうとう口を尖らせて叫んだ。


「ミラナ、最近ずーっと神力が安定して流入してるじゃない! もうバブル状態って言っても過言じゃないわ! こっちは毎月の定時神力すら待ち遠しいというのに!」


「えぇ……それはちょっと厳しいね……」


茜は苦笑しながらも、言葉を選んで答える。


「……たしかに、あの残念神が “神として”何か目立った行動してたかと言われると、記憶にないけどさ。でも……信仰が発生してるってことは、なにかしら民衆に受け入れられてるって事だよね?まぁ、私のサポートもあるけどさ」


「そう、それが許せないのよ! 私なんて神界から何年もモニター見っぱなしで! 監視業務に、記録業務、果ては神界雑務までこなしてるのに! それなのに、なんで神力は月給制なのよぉおおおっ!」


ついには床に崩れ落ち、嘆きのポーズを決めるユクア。その姿はもはや女神というより、待遇改善を求めて訴える社畜の鑑であった。


「……で、何が言いたいの?」と茜。


顔を上げたユクアは、キラキラした目で一言。


「私を連れて行って!」


「……は?」


「ほら、ミラナの代わりにさ! どうせミラナ、何もしてないでしょ? だったら私を現場に連れてって! 私は実務型、即戦力! 記録も監視もこなせるし、多少の情報改ざんも……じゃなくて、観察も得意よ!」


「前半はまだしも、後半アウトじゃない!?」


と茜が突っ込むより早く、冷静な声が横から差し込んだ。


「まさか、神がこのように自らを売り込むとは……」


静かに首を振るエンへドゥアンナ。その表情には、どこかこの光景に慣れてしまったような諦めが見える。茜は腕を組みつつ、じっとユクアを見つめた。


「……ダ女神様? あなたさ、過去に何やったか、もう忘れた? 私を無理やりこの旅に送り込んだ本人が、今さら一緒に行きたいとか、正気とは思えないんだけど」


「あなたこそ、私があなたを選んでこの旅をさせたという、私からの最大の恩を忘れてない!?」


誇らしげに、いや、どこか必死に声を張り上げるユクア。その言葉が会議空間に響いた直後──


ピシィッ……!


空間に張り詰めるような高音と共に、作戦会議室全体がまばゆい光に包まれる。荘厳な神光の柱が天より降り注ぎ、空間そのものが一瞬で静寂と緊張に染まった。そして次の瞬間、その光の中心から静かに現れたのは──


「そのように恩返しを強制するのはいかがかと思いますが…」


静かに、しかし明確な威厳を伴って告げる声。至高神テラ。全ての神々を統べる存在であり、その一挙一言は神界において絶対の重みを持つ。


「え、えええ……!?」


と絶句するユクア。目をぐるぐると回しながら、すでに背筋は氷柱のように硬直していた。テラはゆっくりと歩を進めながら、続ける。


「それに、自らが選んだ旅の案内人へ、後から同行を願い出るなど……身勝手も甚だしいこと。私が一時、席を外していたからといって、自由行動が許されると思っていたのですか?」


「ち、ちが……私はただ、ちょっと様子を見に……」


「……その様子を見るという行為が、すでに問題なのです。ユクア、あなたには後ほど正式な聴取を行います」


「ひぃぃぃぃっ……!!」


ユクアは顔を真っ青にし、腰を抜かしそうになりながらも、何とかよろよろと後退。光の端を見つけるや否や、ぴょんっと跳ねるようにそこへ飛び込み、まるで逃げるように空間から退場した。その様子を見送った後、テラはようやく柔らかく微笑み、茜の方に顔を向けた。


「……あなたが行ってきたこと、私はちゃんと見ていましたよ。あなたの歩みも、その働きも。実に見事でした」


その言葉には、叱責とはまったく異なる温もりと敬意が込められていた。茜は一瞬きょとんとし、それから少し照れ臭そうに頭をかく。ユクアが逃げ、作戦会議空間に漂う静寂の中、至高神テラの声は凛とした余韻を残しながら続いた。


「アカーネ──あなたはこの短い時間の中で、エジプト、ヒッタイト、そしてアッシリアという大国の間を駆け巡り、それぞれの王と対話し、この時代における衝突を未然に防ぎ、オリエント文明全体に調和をもたらしました。あなたの働きは、神界においても高く評価されるべきものです」


柔らかな声だったが、そこには神の威がはっきりと宿っていた。


「通常、神界の序列は慎重に運用されるものです。一足飛びで変えることはできません。しかし、あなたが行った行為は──下位神…いえ、既にあなたは中位神です。しかしその中位神としても異例、上位神に等しい働きと断じてよいでしょう」


そう断言された瞬間、茜は心底困った顔で両手を小さく振った。


「え、えぇ……いやちょっと待ってテラ様、それ、あんまり実感ないんだけど……私、ただの普通のOLなんだけど……」


肩をすくめて笑いながらも、声には微妙に本音が混じっている。地上の紛争を調停し、王たちと対等に話していたとは思えないほど、今の茜は素朴な現代人の表情をしていた。だが、隣のエンへドゥアンナはというと、すでに持っていた神界の記録媒体を取り出し、真顔で淡々と刻み始めている。


「記録します。アカーネ様、中位神に昇格。しかも至高神直々に、上位神に等しいと認定される──これは転機ですね。私の筆録における章題は、『中位神アカーネ、文明を導く理神となりし日』で決定ですね」


「だから、やめなさいってばあぁぁぁ!」と、茜がツッコミを入れるのも恒例行事である。


テラはその様子をどこか楽しげに、しかし温かい眼差しで見守っていた。


「……アカーネ。あなたは確かに人としての感覚を今も持ち続けています。その姿勢は尊く、決して忘れてはならぬものです。しかしあなたがこれまでに成した事実は神の所業。しかもその恩恵を、ユカナや──他の神格にも惜しみなく分け与えている。あなたは意図していないと言うかもしれませんが、あなたは周囲に善き影響を与えているのです」


一語一語が、茜の胸に染み入るように届いていく。


「……だから私は、あなたの行いを、神界の一柱として、心から高く評価します」


まっすぐな言葉に、茜はほんの少しだけ戸惑いを見せ、やがて──


「……ありがとうございます」


静かに、だが確かに、頭を下げた。そして去り際にテラは、最後にもう一言を茜へと贈った。


「アカーネ──あなたの旅は、通常のこの種の旅で行う一時的な降臨とは異なります。あなたは時代の流れの中に入り込み、継続性のある歴史を歩んでいます。だからこそ、あなたの神性は“点”ではなく、“線”として蓄積されていく」


その声には、ただの説明以上の響きがあった。


「あなたがシュメールに立ち、アラッタで戦い、ヒッタイトとミタンニに理を示し、アッシリアを導き、今はエジプトに息づいている……。その一つ一つが時代を超えて連なり、かつて与えた恩義や指針は、後の時代に信仰という形で芽吹いていくのです。あなたの神性は、“ある場所の守護神”ではなく、“時を貫く導き手”として根を下ろしはじめています」


言葉を聞きながら、茜は思わず小さくつぶやいた。


「……なるほどね。そうか、結果的に次の時代でも私が有利になるって、そういう構造だったんだ……神性って、ポイントカードみたいなものなのかも」


思わず現代的な喩えを出してしまった自分に、茜は少しだけ苦笑した。だが、テラはその言葉に対しても、穏やかに頷く。


「軽やかで良い感性です。アカーネ、あなたのように“人”としての視点を持ちつづけながら、“神”としての道を歩む者は極めて稀です。最初の切欠はユカナのための導き手だったのかもしれませんが、その在り方を、私は高く尊びます」


そう言ってテラは静かに背を向けると、神殿のようなこの空間に再び光が満ちていく。空気がふわりと揺れ、テラの姿は光の粒子となって、空間に溶けていった。


「……それでは、良い旅を。アカーネ」


その言葉を最後に、神界の至高神は消えた。作戦会議空間が静寂に戻った中、茜はふぅと深く息を吐き出しながら天井を仰ぐ。


「至高神様に見られながらの旅って……緊張するよね……いやまじ勘弁」


それは冗談半分、本音半分の呟きだった。だが、すかさず隣のエンへドゥアンナが真顔で返す。


「ですが茜? 至高神様が見ているという事は、逆に言えば……茜は守られているという事になるのではありませんか?」


すると茜は即座に眉をひそめながらも皮肉っぽく笑う。


「ダ女神様からね」


思わずエンへドゥアンナも肩を揺らして笑う。そして茜は、ふと思い出したように立ち上がる。


「さぁ、そろそろ戻ろうか? エジプト王国に。みんな待ってると思うし」


エンへドゥアンナも頷く。


「はい、茜がいないと、リュシア様が心配して……いえ、正確には叱責の準備を始めているかと」


「うわぁ、それは避けたいなあ……さっさと帰らないとまた説教ラッシュになりそう……」


そう言いながら茜は、アラッタの聖石、シュメール時代に自らの指揮棒についていたトルコ石、シャラドゥムの形見のカーネリアン、アッシリアの王印を刻んだ指輪、そして――


「……ルガルニル王子の形見。風のアミュレット」


彼女はそっとその小さな品を手に取る。


「この子も一緒に行こう。私のスタンダード、オリエント全体の記憶みたいにしていきたいんだよね」


準備が整うと、茜は最後にもう一度振り返り、にっと笑った。


「よし。じゃあ帰ろっかエジプトへ。また怒られる前にね」


「はい、茜。戻りましょう、アカーネ神殿へ」


二人は静かに光に包まれ、時を繋ぐ旅へと再び歩を進める。

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