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76. 二人きりの夜

 その後、私は治癒術師の資格試験に無事合格を果たした。

 国から合格者に支給される真っ白なローブを持って帰り、初めて袖を通した時、感激のあまり胸がいっぱいになって言葉も出なかった。


「まま、かっこいーい!」

「本当!? どう? ママ似合ってる? ユーリ」

「うんっ! しゅっごくかっこいい!!」

「ふふ。ありがとうユーリ!」


 キラキラしたおめめでローブ姿の私を見つめながら、無邪気にパチパチと拍手をくれる愛しい息子。そのそばで見ていたセシルと母も、満足そうに頷いている。


「最高に綺麗だ、ティナ」

「っ!? な、何を言ってるのよセシル。その褒め言葉は、ちょっと違うでしょ……」

「本当だ。そのローブを着ていると、癒やしの力を持つ君がますます輝いて見える」

「……母の前なのよ。そういうの控えて」


 恥ずかしくて真っ赤になりながらセシルを責める私を見て、母は楽しそうにクスクスと笑っている。


「仲が良くて何よりだわ。……おめでとう、ティナ」

「あ、ありがとう、お母さん」


 少し照れながらそう答えると、ユーリが突然大きな声で宣言した。


「ゆーりも、ままとおなじろーぶ、きる!」

「え? ユーリもこのローブ、着たいの?」

「うんっ」


 ワクワクした表情でそう答えるユーリに、セシルが苦笑する。


「お前には四歳の誕生日に、パパとお揃いの騎士服をあげただろう。あれ、ものすごく喜んだじゃないか」


 するとユーリはニッコニコの笑顔で言った。


「うんっ! じゃあ、ごしゃいのおたんじょうびには、ままとおなじろーぶをくだしゃいっ!」


 その無邪気なお願いに、大人三人は一斉に笑ったのだった。


「分かったよ。ユーリ用のサイズのレプリカを、また作ってもらうか。……お前は将来、どんな道を進むんだろうな」


 セシルはそう言って、大きな手のひらでユーリの頭をそっと撫でた。




 コレット先生が実の祖母と知って以来、ユーリはますますおばあちゃん子になった。母の家にしょっちゅう泊まりに行きたがり、母もそれが嬉しくてたまらないらしい。「あなたたちも夫婦二人きりの時間なんて、ほとんど過ごしたことがないのでしょう。ユーリがうちに来ている間は、二人でゆっくりすればいいわ」と、優しいことを言ってくれる母の好意に、すっかり甘えてしまっている。母もユーリも幸せそうにしているから、私も嬉しい。

 その夜も、ユーリは母の家に行っていた。徒歩圏内に頼れる親族。何て素晴らしい環境なのだろう。

 そしてセシルも、私と二人きりの夜を満喫していた。


「ユーリと三人で過ごす時間は幸せだが、こうして君を独占できる夜も最高だ」


 そんなことを言いながら、私を膝の上に抱き上げてソファーに座り、至るところにキスをする。

 首筋に彼の優しい唇を感じながら、私は少し照れてそっぽを向く。


「……何でこっちを見てくれないんだ、ティナ」

「……恥ずかしいからよ」


 そう答えると、セシルは楽しそうに笑う。


「全く。君はいつまで経っても初心(うぶ)だな。そんなところがたまらなく可愛い。……思えば、初めて二人で過ごしたあの夜の君が、一番積極的だった」

「っ!! ま、またその話をする……! 何度思い出すつもりなの!?」

「何度でもだよ。君に会えなかった数年間は、毎日毎夜思い返していた」

「……っ、セ、セシル……」

「君は?」

「……へっ?」


 逃さないぞといわんばかりに私の顎に手を添え、クイッと持ち上げると、彼は至近距離から私の瞳をジッと覗き込む。

 どんな想いも、見逃さないというように。


「君は俺のことを、思い出してくれていた?」

「……。……当たり前でしょう」

「どれくらい?」

「…………毎日よ」


 顔をカッカと火照らせながら素直にそう答えると、セシルは私が息をするのを忘れてしまうほどに、素敵な笑みを浮かべた。


「……なぁ、ティナ」

「ん?」

「ユーリに、弟か妹ができるといいよな」

「……。え? あ、え、……えぇ」


 露骨に動揺する私。……やだ、顔がどんどん熱くなる。


「兄弟が多いと、きっと楽しい。あの子は面倒見がいいし、きっといい兄になるだろうな」

「……ええ。そうね」


 そう返事をするやいなや、セシルは私に唇を重ねた。

 私の耳や首筋を、巧みな手つきで柔らかく撫でながら、私の体を従順にしていく。あっという間に全身の力が抜け、息が上がる。

 彼の首筋に夢中でしがみつき、濃密な口づけを繰り返した後、ようやく唇を離したセシルは色っぽく掠れた声で囁いた。


「今夜は二人きりだ。時間も音も、何も気にしなくていい」

「……っ、」


 どういう意味? ……なんて聞き返すほど、私も子どもじゃない。


 私はそのままセシルに抱き上げられ、寝室へと連れて行かれた。


 火傷しそうなほどの熱を帯びたセシルの視線が、私の肌の上を一晩中なぞっていた。








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