表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元地下アイドルは異世界で皇帝を目指す!  作者: 烏川トオ
第1部 3章 バック・ステージ
95/228

91、フレイとルテア2




 その頃、次代皇帝を身内から出すため、貴族たちは娘を皇太子妃にすべく、次々に宮廷へ送り込んでいた。ルテアの遠縁にあたる伯爵は、年頃の娘を病で亡くしていた。そこで新たな手駒として、かつて修道院に送ったルテアに目を付けたのだ。


 フレイは怒りと絶望に駆られた。一度は厄介払いとして修道院に送り、若い娘としての未来を奪っておきながら、今度は自分たちの野望のため、どす黒い思惑渦巻く宮廷へルテアを送り込もうというのだ。




 フレイはルテアに自分の秘密を打ち明け、一緒に逃げてほしいと告げる決意をする。故郷タルタスの王座を奪った王子は、フレイがルスキエにたどり着いて間もなく亡くなっていた。その子供が王位を継承し、情勢も安定していると聞いている。今さら追手がかかるとは考えにくい。


 修道院で身に着けた技術や教養は、裁縫から医療の知識まで多岐に渡る。食うに困ることもないだろう。慎ましく二人で生きていくことくらいならできるはずだ。




 だが突然の告白に、混乱したルテアはフレイを『嘘つき』と責めた。ルテアは秘密を誰にも洩らさなかったが、それ以来フレイを頑なに拒絶して側に近づけなかった。そして、そのまま帝都へと旅立っていった。


 悲しくはあったが、これで良かったのだと諦めがついた。愛らしく魅力あふれるルテア。偏屈な修道女も笑顔にしてしまう彼女なら、きっと若き皇太子は虜になる。彼女はこんな閉ざされた世界で終わってはいけない。市井で慎ましく暮らすような小さな器でもない。そう思い直した。


 だからルテアが正式に皇太子妃になると知らされた時も、すんなりと受け止めることができた。間を置かず皇帝が崩御したため、ルテアは正式に皇帝の第三皇妃となった。

 



 しかしルテアは再び修道院に戻ってきた。皇妃として修道院への表敬訪問という形ではあったが、まさか再会できるとは思わなかった。


 ルテアは驚愕するフレイに言った。どうしてもフレイのことが忘れられなかったと。自分が側にいたかったのはただ一人。後戻りできないところまで来て、ようやく一番大切な存在に気づいたと、ルテアは涙ながらに語った。


『私が愛しているのはフレイなの……』


 ルテアの言葉はフレイの心をたやすく溶解した。もはや止めようがなかった。愛を伝えることも、後戻りできない関係になることも。




 それ以来、ルテアは頻繁にレイローグ女子修道院へとやって来た。修道院で育ち、敬虔で奉仕活動に熱心な皇妃として知られていたルテアを怪しむ者はいなかった。


 いささか皇帝陛下の元を離れすぎなのではと、修道院長などは心配していたが、時の寵妃が実家にも等しい場所に帰ることに、異を唱える者もいなかった。




 それから数か月経ち、年が明け、春が訪れるとルテアの訪問が途絶えた。ラドニア紛争が勃発し、皇帝自らが出陣を決めた時期だった。ルテアも宮廷から外出する余裕がないのだろうと思っていたが、その予想は違っていた。


 フレイの元にルテアから、身籠ったことと夏に出産を迎える知らせが届いた。手紙にはそれ以外何も書いてなかったが、産み月から考えれば、子供の父親がフレイである可能性は十分にあった。




 うれしさと不安が半々、しかし罪悪感はなかった。自分たちは逆らうことのできない、権力と時流によって引き離された。むしろ心の底から愛し合っている自分たちが、不貞とみなされる世の中こそおかしいのだと思った。


 後々フレイはその時の考えを、若さゆえのひどい傲慢だったと後悔することになる。結果的に一番の被害者は、そうして生まれてきた子供なのだから。

 



 ルテア生んだ男児は、母親そっくりの面差しと、輝くような赤銅あかがね色の髪、そして金色をおびた茜色の瞳をしていると聞いた。第二皇子として誕生した、その男児はグリスウェンと名付けられた。


 フレイとルテアの逢瀬はその後も続いていたが、赤子の父親の可能性については濁されていた。我が子かもしれない、何より愛するルテアが生んだ子に対する思いはあったが、幸いにも病気一つしない健康な子と聞いていた。どのみち正統な皇子として宮殿にいる子供に、フレイができることなどなかった。


 そして三年が経った。再びルテアが子を宿し、修道院への足は遠のいた。






 忘れもしないあの日。呼び出されて部屋へ向かうと、すでに目を真っ赤にし、鼻をすする修道院長の姿があった。


 フレイに渡されたのは、宮廷からの手紙だった。

 ――ルテアが女児を出産した後、容体が悪化し亡くなった。そう記されていた。




 信じられなかった。フレイは修道院で妊婦の面倒を見たこともある。若く健康な女性であっても、出産で命を落とす可能性が低くないことは知っていた。特に普段から体を動かす平民の女たちより、貴族の婦人の方がお産が重くなりやすいことも。


 だがルテアは子供の頃から野外を駆け回る、元気すぎるほど健康な少女だった。屋敷の中で大切には育まれた、一般的な貴族令嬢とは違う。初産の時も、周りが驚くほど安産だったと聞いていた。何かの間違いだと思った。例えばフレイとルテアを引き離すための、皇宮の陰謀ではないかと。




 それから数日間、フレイは抜け殻になったように過ごした。そして願い虚しく、宮廷からの使者がルテアの遺品を携えて修道院を訪ねて来た。もはや現実を受け入れざるを得なかった。


 フレイはルテアが母親から譲り受けたという、指輪と首飾りを渡された。それは着の身着のままで修道院にやってきた、ルテアの数少ない持ち物だった。死の床でルテアは、家族同然に育ったフレイに渡してほしいと、最後の力を振り絞り懇願したのだという。




 茫然とそれらを受け取ったフレイに、使者はもう一つの物を渡した。それは皇帝直々の書簡だった。ルテアの生んだ皇女が成長し、正宮殿から自分の離邸に移り住む時、母の腹心の友であったフレイを、教育係として宮殿へ招きたいと書かれていた。


 まず皇帝が自分の存在を知っていることに驚いた。同時に、風前の灯火だったフレイの魂がもう一度燃え上がる。ルテアが命を賭けて残した子供――カレンディア皇女。今度こそ、大切な存在の側を離れず自分が守ると。










本日中にもう1話更新します。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ