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元地下アイドルは異世界で皇帝を目指す!  作者: 烏川トオ
第1部 3章 バック・ステージ
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82、黒い騎士




 自分が知っている宮廷と、今がまったく違う状況であることに今さら気づく。当事者なのに取り残されたような気分だ。


「何で大司教が私を支援するの……?」

 

 確かに以前聖堂で、『自分と手を組まないか』と大司教には持ち掛けられたが、きっぱりと断ったはずだ。




「わたくしが聞きたいですよ! ですが教団のあからさまな離反に、あのイヴお姉様が手をこまねいているはずがありません。それを見逃すということは、やはり皇太子候補を辞すとの噂は本当なのでしょうか……。カレンお姉様こそ、今日はイヴお姉様とずっと一緒だったのでしょう? 何か聞いてないのですか?」


「……具合が悪いのは、疲れが溜まってるせいとしか」


「そんなの重病を隠すための、常套句ではありませんか!」


 簡単に言いくるめられて、と言わんばかりのミリエルの非難の眼差しに、カレンは言葉を返せなかった。真実をミリエルに告げることはできないが、イヴリーズの身に起きた状況を考えれば、本当に近々皇太子候補から降りることになるだろう。




「……とはいえ、仕方ありませんね。イヴお姉様の性格からして、私たち妹には絶対に口を割らないでしょうし」


「そうだね……」

 確かにカレンでも、力技で無理やり口を割らせるしかなかった。


「わたくし後でスウェンお兄様の所に行って、何か知らないか聞いてみます」


「……うん」


「心配しなくても後で教えてあげますよ。今はまだ、カレンお姉様はお兄様の前に顔を出すのは気まずいでしょう?」


 ミリエルの気遣いに、カレンは曖昧に微笑む。

 



 イヴリーズの先ほどの話では、自分の支持者をグリスウェンにすべて譲るのが、彼女の理想の形のだろう。一枚岩ではない教団関係者を、少しでも多くグリスウェンに付けたかったはずだ。しかし大司教は、自分から心が離れかけていた聖職者たちを、再び取りまとめ始めたようだ。


 そこまでして、カレンを支持する意図が分からない。カレンを支持したところで、教団に従順になることはないとわかっているはずだ。


 最有力候補に浮上した、グリスウェンの妨害がしたいということだろうか。確かに騎士らしく実直で、正義感の強いグリスウェンと大司教では相性が悪そうだ。将来を見越して、どうせ反目することになるなら、カレンの方がまだ扱いやすいと判断されたか……。




(こんなのほとんど押し売りじゃない……!)


 まさかイクス教団の支持を、無理やり押し付けられるとは想定外だった。自分の思惑が及ばない所でお膳立てされるのは、はっきり言って気持ちが悪い。


 これでもしカレンが皇太子になれたとして、自分の支持をした教団を蔑ろにする姿勢を見せれば、他からの信頼も揺るぎかねない。どう考えてもカレンの手に余る。




(おかしくない!? ロウは本当に知らなかった……? 知ってたとしたら、どうしてこの面倒な状況を放置してるの?)


 よぎる不安にカレンは嫌な気分になる。カレンが信頼できる臣下は少ない。特に宮廷における権謀術数となると、ロウラントの知恵なくしては対処ができない。


(……だいたいロウはこういう肝心な時に、どこ行っちゃったの?)


 実のところ、カレンにはイヴリーズと会話してからずっとある疑念があった。バルゼルトとの友情も彼の計算の内だったことといい、カレンの心の中で黒い靄のように疑惑広がり始める。




 試合が次々に進む中、カレンは人知れず混乱していた。肝心な自分の騎士が出ていたはずの試合すら上の空だった。


「カレンお姉様! やりましたね、決勝ですよ!」


「え!? ……ああ、うん。す、すごいね……」


 興奮のあまり、カレンの二の腕に取りすがるミリエルの声でようやく我に返る。初めて自分の騎士が決勝まで勝ち進んだことに気づいた。






 しばしの休憩を挟んだ後、高らかな金管楽器の音色と共に、闘技場に一騎の人馬が現れる。全身に重装備プレートアーマーをまとったグリスウェンだ。大きな歓声が沸き起こり、その中には令嬢たちの黄色い声援が多く混ざっている。


 彼の愛馬は、房飾りに覆われた金色の馬着まとっていた。そこにはグリスウェンの徽章である、剣を咥えた獅子が描かれている。長槍を手に馬にまたがるその堂々たる姿は、帝国の皇子に相応しい威厳が感じられた。


「わたくしがしっかりお兄様を応援しておきますからね。カレンお姉様は心置きなく、ご自分の臣下を応援してください」


 ぐっと握られたミリエルの手には力が入っている。この熱狂を前に、自分の騎士が兄に負けたことはもう忘れたらしい。




 楽器の響きと共に、もう一人の騎士も登場する。装備も馬も黒づくめで、輝かしいグリスウェンとは対照的だ。


(この人が私の騎士ねえ……)


 バルゼルトの話にあったように背は高そうだが、それでも騎士として特別恵まれているというほどではない。身長ならグリスウェンの方が勝っているように見えた。


 馬を飾る馬着にはハート形の荊棘と薔薇が描かれている。カレンディアの徽章だ。漆黒の中でただ一点、深紅の薔薇は良く映えた。不思議なことに、グリスウェンの煌びやかな装備にも見劣りしていないように思える。




 二騎がそれぞれ所定の場所へと動き、長い距離を取って対峙する。大きな拍手が鳴り、やがて静まりいく中で立会人の合図が下された。


 人馬が互いを目掛け、土煙を上げ突撃していく。その迫力に思わずカレンの拳にも力が入る。


 すれ違い様の瞬間、破裂音と共に互いの盾が砕け、木片が飛び散るのがわかった。しかしどちらも決定打にはならなかったらしく、すぐに大勢を立て直し駆け抜けていく。再び馬首を巡らし、今度は互いの位置が入れ替わった状態で対峙する。


 どっと歓声が響く。いつの間にか前のめりになっていたカレンは、ほうと息をつき椅子に身を沈めた。白熱する決戦に、二人の騎士を称賛する声と拍手が鳴る。やはり皇子自らが戦う、グリスウェンの応援が圧倒的に多い。

 



 合図と共に再び突撃が始まる。今度は先にグリスウェンが黒い騎士の盾を捉えたが、表面を削るように受け流される。流れるような動きで黒衣の騎士の槍が繰り出されるが、グリスウェンが態勢を立て直すのが早く、あえなく空を切る。また決着つかず(ドロー)だ。

 

 その後も三撃目、四撃目と、互いに決定打が得られない試合運びとなり、ついに六撃目の対峙となった。


 カレンは隣に座る妹にささやく。

「……ねえ、ミリー。馬上槍試合トーナメントって、こんなに何度も試合がもつれ込むものなの?」


「わたくしもここまでのは見たことが……大半は初撃で、あっても二撃目くらいで、普通は決着するものです」




 観客席に飛び交う声も少し傾向が変わっていた。互いに後一手が届かないという状況に、焦りや落胆の声が混ざる。そして明らかに、最初よりも黒衣の騎士を応援する声が増えてきた。

 

 体格で不利ながらも、前年優勝の皇子にしつこく食らいつく謎の騎士。アンダードッグとか判官贔屓というやつだ。




 グリスウェンもこの状況をどう打破するか、考えあぐねているようだ。馬は主人の焦りを感じ取っているのか、興奮してなかなか定位置に着こうとしない。


 一方疲れが来ているのか、黒い騎士は装備の上からも肩で息をしているのがわかる。黒い騎士は息を整えながら、たてがみを撫で馬を落ち着かせていた。時間をかけるほど劣勢になるはずなのに、まるで歴戦の戦士のように妙な余裕がある。




 カレンには騎士の勝負についてはわからない。だが、この相手が混乱したり興奮したりするときほど、冷ややかになる性質。対峙する相手の神経を逆撫でする感じには、嫌というほど既視感があった。

 

 座ったまま、カレンはぐったりと脱力する。

(ホント、何でこういう大事なことを言わないかなぁ……)

 

 黒い騎士がその面具バイザーの奥で、小憎らしいほど涼しげな顔をしていることが、手に取るようにわかった。











本日中にもう1話更新します。




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