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元地下アイドルは異世界で皇帝を目指す!  作者: 烏川トオ
第1部 4章 プロモーション
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146、かみあわない問答




 ロウラントは少し考えて答える。


「ベルディ―タ皇妃の件は、父上から罪には問わないとは言われていますが、具体的な『ロウラント』の処遇については、まだ伺っていないので何とも……」


「そうなんだ……」


「殿下、俺は何があっても必ずあなたの元へ戻ります。……そう誓約しました」


「うん。知ってる」


 ロウラントの言葉を微塵も疑う素振りはなく、当然のごとく言われる。それが少し悔しくもあり、うれしかった。




「きっとこれから忙しくなるね」


「まず年末か年明けの立太子式ですね。その準備と並行して、皇太子宮への転居といったところでしょうか。国内外からたくさんの人が集まりますから、殿下の腕の見せ所ですよ」


「正直ちょっと不安かな。ロウが側にいてくれないと」


「フレイ先生や他の兄弟姉妹きょうだいがいるじゃないですか」


 その言葉になぜかカレンの表情が曇る。




「うん……皆がいるもんね。でも実はフレイ先生、正宮殿ここに呼び出されてるんだよね。その後もずっと連絡がつかなくて……」


 ロウラントはそこで初めて、フレイが皇帝直々の呼び出しを受けていたことを知る。十中八九ルテア皇妃とグリスウェンの件だろうが、父の様子からして、今更フレイに恨み言をぶつけるつもりはないだろうと思った。


「そうでしたか……でも父上なら悪いようにはしませんよ。きっと先生を殿下の元へ返してくれるはずです」


「うん。……そうだよね」




 答えながらも、表情が暗いカレンを見てロウラントは何か明るい話題はと考える。彼女くらいの年齢の貴族令嬢といえば、話題の大半は恋愛や結婚に関するものだ。よく飽きもせず同じような話ばかりできるなと思うが、以前カレンにも恋人の有無について聞かれたことがあった。その手の話は嫌いではないのだろう。


「――殿下も来年には十八歳ですから、皇太子決定の旨が公表されれば、たくさん縁談が来るでしょうね」


「そういうものなの?」


「跡継ぎがいるということは、次代も安定して皇位が保たれる証明になります。周囲が最初に皇太子に期待するのは、政治的な実績よりもそこです。ちなみに殿下の年齢で定まった婚約者もいないとなると、普通の令嬢ならかなり焦るものですよ」


「でも姉上は? ロウたちの一つ上だよね?」


「皇族だから仕方なかったとはいえ、普通あの年齢だと行き遅れ扱いされます」


「え、ええー……」


 ルスキエの貴族令嬢らは大抵十代の内に嫁いで行く。心構えだけでどうにかなるものではないので、うるさく言うつもりはないが、本来カレンも悠長にしている余裕はあまりない。




 大陸唯一無二の帝国であるルスキエは、その力関係から無理に他国におもねる必要性はない。フロテア大河を隔てた西方諸国の王家のように、他国の王族と婚姻関係による同盟を結ぶ必要がなく、国内から婚姻相手を自由に選べる。そういう意味では、相性や年齢関係なしに政略目的のみで嫁がされる、西方諸国の姫君たちよりカレンはまだましだ。


 とはいえ、誰でもいいというわけでもなく、皇族の相手となれば最低でも貴族階級である必要がある。ただしルスキエの男性貴族も、十代後半から遅くとも二十代半ばくらいには結婚するものだ。釣り合いの取れる青年たちは未婚であっても、恐らく大半は決まった婚約者がいる。


 例えば筆頭貴族である七家門の子弟ともなれば、ほぼ確実に売れてしまっているはずだ。カレンが皇太子になったことで、婚約を破棄してでも皇配候補に名乗り出る者もいるかもしれない。それもまた波乱を起こす要因になりそうで、頭の痛いところだ。






 話題選びに失敗したことは明らかだった。


「皇太子になれると思ったら、いきなり結婚に出産かあ……」


 カレンのげんなりした表情を見て、彼女にとって『出産』が鬼門だったことを思い出す。


「こっちのって十七、八くらいで結婚するんだもんね。下手したら私の歳で、子供がいてもおかしくないのかあ」


「まあ……あり得なくはないですね」


 そう言いつつも、カレンが赤子を抱いている姿などロウラントも想像できない。




「『元の世界』なら学校行ったり、友達と遊んだりしてるような年齢としなんだよ? 向こうなら、三十過ぎで結婚も出産も当たり前なのに」 


「それはさすがに遅すぎませんか? 心身共に成熟してから結婚すべき、という点については理解できますが、三十過ぎではそうたくさん子供は望めないでしょう」


「うん、だから兄弟姉妹きょうだいいても二、三人くらいの人がほとんどだね」


「それで人口が維持できるのなら、『元の世界』というのはよほど、医療技術が高いのでしょうね」


「んー、それはあるかも。少子化とか問題がないわけじゃないけどね」

 

 ときどき聞くカレンの『元の世界』の話は、突拍子もない事情も多いが、やはり妄想や作り話とは思えない合理性がある。結局彼女の言う『元の世界』とは何なのか、ロウラントにはいまだにわからない。




「ロウが前に言ってた、種馬扱いってこういうことね……」


 カレンの苦笑に自分の発言を後悔する。……あの時は感情が高ぶっていたとはいえ、いろいろと失言してしまった。


「あれは俺だったら、如才なく皇家を取り仕切るのは無理だという話です。殿下なら誰が相手だろうと、きっとそつなく結婚生活を送れますよ」


 その言葉にカレンが目を見張った。

 すっと表情を消す彼女に、ロウラントはしまったと思う。何かを決定的に間違えたことはわかったが、それが何なのかわからない。


「うん……そうだね。私はその辺の人間関係は上手くやれる自信があるし」


 浮かない顔で言われて、ロウラントは言葉を失う。




「殿下……あの」


「ロウは?」


「え? 」


「皇太子の結婚も大事だけど、ロウの方が私より年上じゃん。自分こそ結婚は考えてないの?」


 カレンに言われ、今更ながら気づく。確かに自分も一般的には結婚を勧められる年齢だ。実際、同い年のグリスウェンには来年子供が生まれるのだ。彼の場合そこに至るまでの展開が壮絶だっただけで、妻子を持つのに早過ぎる歳でもない。


 しかし今のロウラントの立場では、引き継ぐべき家門も財産もない。むしろ皇族じぶんの血を引く子供など、後々で厄介事の種になるかもしれない。そう考え、瞬時に結論が出た。




「結婚はしません」


「何で!?」


「だって、俺が一般的な結婚生活に向く人間だと思いますか?」


「ううん。まったく」


 想像以上に、はっきりと否定され複雑な思いになるが、同時に仕方ないとも思う。幼い頃『あなた様には人の心がない』と、乳母に泣かれた実績がある自分だ。それでも自分との婚姻によって、一人の女性を確実に不幸にするとなれば、さすがに気が咎める。


「だからいいんです。……独り身の方が身動きもしやすく、面倒なしがらみを抱えなくて済みますから」


「柵か……そうだよね」


「はい」


 カレンの表情は曇ったままだ。気まずい空気は変わらず、一体何を間違えたのか自問するが、答えは出なかった。











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