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元地下アイドルは異世界で皇帝を目指す!  作者: 烏川トオ
第1部 4章 プロモーション
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141、逆臣




 円卓から離れたトランドン伯爵が、幽鬼のようにおぼつかない足取りで、まじろぎもせずにダリウスの元へ向かう。 皆が呆気にとられる中、どす黒い顔色に血走った目でダリウスを覗き込むように問う。


「……我が娘アンフィリーネを陥れたのは貴様か?」

 

 その鬼気迫る様子に息を呑んだダリウスだったが、やがて痛ましい物を見るかのように目を細める。そして次の瞬間には、あざ笑うかのように口の端を歪めた。


 大貴族たちが、揃いも揃って慌てふためく様子を嘲笑したのか、それとも自らの陰謀が露見したことへの失笑か。とにかくそれは、ダリウスが罪を認めた瞬間だった。




「……今思えば、あなたの娘御が一番容易かった」


 落ち着き払った声を向けられ、トランドン伯爵が音を立てそうな勢いで歯噛みする。


「どういう訳か、私は昔から他人の相談事を受ける機会が多いのですよ。ラグセスの大使から、アンフィリーネ妃殿下への秘めた思慕を打ち明けられましてね。全てに満たされながら、その実は愛情に飢えている妃殿下ならば、身を引く素振りで何かを求める方が気を惹けるとお伝えしたまでです。調子に乗って好意を悪用したのは、あくまで大使です」


 罪を告白するにしては、動揺している訳でも開き直っている訳でもない。意見を表明するような淡々とした声だった。




 トランドン伯爵がさらに問う。

「他の三人の死にも、貴様とベルディ―タ皇妃が関わっているのか?」


「セリシア妃殿下とルテア妃殿下に関しては、直接ベルディ―タ様が手を下されたいとおっしゃっていましたので、毒の調合をお教えしました。病や出産の後ならば、毒を盛っても露見しにくいとも伝えました。ティアヌ妃殿下に関しては、兄君のことは完全に偶然です。ハイゼン伯爵邸を訪ねた折に、伯爵に娘御を頼ってはどうかと助言はいたしましたが、ただそれだけですよ」


 トランドン伯爵は両手の拳を握り震わせる。しかし堪えるように呻くと、やがて平静な表情を取り戻し、皇帝に向かい直る。


「陛下。おっしゃる通り、この者は紛れもない逆臣です。今すぐに幽閉し、取り調べの後はしかるべき刑に処すべきかと存じます」




 ディオスはあいかわらず無表情のまま、ダリウスに問う。


「ベルディ―タの動機はわからなくはない。だがなぜそなたが、妃たちを殺さねばならなかった?」


「陛下と二人だけで話をする機会を設けていただけるのであれば、お教えしましょう」


「なりませぬ、陛下!」

 トランドン伯爵が声を上げる。


「ダリウスめは罪から逃れるため、陛下を口先で丸め込むつもりでしょう。厳しく取り調べれば、動機などすぐにわかること。陛下の元従者とはいえ、情けをかけるなどあってはなりませぬ!」


 ディオスはトランドン伯爵の諫言をあっさりと無視した。

「――よかろう。レブラッド公爵の申し出を受ける」


「陛下!」


「トランドン伯爵、心配せずとも情けをかける機は逸している。どのような事情があろうと、もはや死を賜ることは決まっている」


 皇帝がはっきりとレブラッド公爵に死罪を宣告したことで、室内に沈痛な空気が満ちる。




「選帝会議の結論は明日に延期とする」


「いえいえ、陛下。お待ちください」


 選定会議の中断を宣言するディオスに、レスカーが頬杖をついたまま不遜な態度で声をかける。


「選帝会議は話し合いが終わるまで、参加者は室内から退出できない習わしです。さすがに、こればかりは譲れませんよ」

 

 ディオスはその言い分に眉根を寄せたが、すぐに上げかけた腰を下ろした。


「私は退出いたしましょう、陛下。もはや罪人なのですから、問題ありますまい」


「いいや、ダリウス。そなたにも話を聞いてもらう」




 ディオスは改めて、円卓の中央に向き直る。


「皆もわかっていると思うが、まず伝えておく。イヴリーズとグリスウェン、そしてユイルヴェルトの皇位継承権は剥奪とする」


 カロン公爵がおそるおそる問いかける。


「やはり、その……イヴリーズ殿下がご懐妊という話は……」


「事実だ。――この件に関しては、そなたには特に迷惑をかける」


 宮内大臣であり、皇子皇女たちが幼い頃から関りのあるカロン公爵が、青ざめた顔でため息をこぼす。




「並びに、グリスウェンは皇籍から離脱させる。くわしくは後ほど説明するが、これはすべて私の不徳が原因であり、グリスウェンはもちろん亡きルテア皇妃に一切の落ち度はない」

 

 その言葉にレスカーの目が怪しく細められる。


「……一応はっきりさせておきたいのですが、イヴリーズ殿下とグリスウェン殿下には、間違いなく血の繋がりがないのですね?」


「その通りだ。つまりあなたの出る幕もないということだ、大司教殿」


 近親者同士の密通は国教であるイクス教の教えでも重罪とされている。現在では宮廷からの承認が必要とはいえ、異端審問は教団の管轄だ。


「それを聞いて安心いたしました。……さすがの私も身内を審問に掛けるのは堪える」


 イヴリーズの伯父でもある、レスカーの冗談とも本気ともつかぬ言葉に、一同がひやりと背筋を凍らせる。




「しかし陛下、皇位継承権を失った以上、どのみち後のお二方共も皇籍を失うことになるのでは?」


 シュクラ侯爵からの問いかけに、ディオスははっきりと告げる。


「イヴリーズとユイルヴェルトに関しては皇籍には残す。先ほど自ら継承権放棄を宣言したミリエルも同等だ」


「お待ちください! それでは継承法にそぐいません。皇太子になれぬ方は皇籍から除籍される決まりです」


「むろん承知している。……話は皇太子の審議から少し逸れるが、私は今回の選帝より継承法の一部を改定しようと思う」


 ディオスのその一言に、人々の顔つきが変わった。








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