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不帰之客。  作者: 柿本修一
1/1

迷い込んだのか。あるいは、引きずり込まれたのか。

まだ夏だってのに、どうしてこうも冷えるのか。

そんなに山の高いところまで登ってきてしまったのだろうか。

街の明かりが遠い。彼方に見えるのは、果たして男の暮らす町の灯りなのだろうか。


どうしてこんな事になってしまったのであろうか。


何処(いずこ)とも判然としない深い森の中で、ついに己が帰り道を失念していることを自覚した。

陽はとうに西方の山の背に。つい先刻、星たちが姿を見せたところである。


男は、身一つ。助けを乞うような手段など持ち合わせていない。


ああ、ここまでか。これ以上動くのはどうにも危険な気がするから、仕方ない。

男は一晩を明かすことを決意した。


布団も枕もないというのは、こうも寝れないものかと、不用意を嘆きながら凌ぐのだろうか。


蛙の大合唱は、脳内の錯乱を誇張させた。


やかましい!うるさい!!などと、男が大声で咆哮したところで、いかなる結実も無いとわかっていても、そうでもしないと男の気が済まないのである。




…………


「今のは…汽笛の音か?」


時が流れ、蛙たちの合唱も落ち着いてきたとき、男の耳が彼方からそんなような音をとらえた……気がした。





はて、こんなところに駅などあったかな、との疑問はあったが、男は最後の希望とばかりに音のした方へと向かって行った。


「これは…」


男が目にしたのは、確かに列車であった。前方には、おそらく蒸気機関車と思しき黒い物体が、白煙と火花を噴き上げていた。



「こいつはすげぇや。こんな山の中に蒸気機関車が置いてあるなんてなぁ。しかし……。動くのか?これ」


汽笛が再び煙を上げると、扉が閉まろうとしたので、男は迷わずそれに飛び乗ってしまった。

これが、すべての始まりであった。

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