走った、山姥
山姥は歩いていた、人間じゃない。年を取ったら無理な運動はやらない方がいい。
けど、妖怪なんだ。見た目がお婆さんなだけで。
走ってみた。景色が流れる。
ガラスに色を塗ったのが、水で薄くなって、すぐに消えていくように、まるで。山姥は人間時代の自分も若くて、恋人も若かった頃の、記憶のようだと思った。
ずっと昔、昔。
隣にあるよ、その頃は今も。自分の心が、ごまかし無く真っ直ぐにそう、答える。理由に負けるぐらいなら、始まりなんて、縁が無い。
自分が人間じゃなくなったなら、愛する人だって人間じゃないかもしれない。奇跡は起きる。駄目だって、挑戦した過去は残る。
次、走りやすくなるんじゃないかな。ただ単純に、愛を信じていけるんで、あったら絶対。
終