~地下の少年~
残酷描写アリ。
なんの光もない真っ暗闇。鉄の匂いが鼻を突く。目を覚ましたのはほんの少し前だった。胃の辺りに鈍い痛み、きっと中身が空っぽなんだ。
(………っ!)
頭がズキンッと釘を刺されたように痛みだす。割れるように痛む頭を押さえ、まだハッキリしない意識の中でどうにか立ち上がろうと立ち上がろうとすると、ジャラッと重く冷たい音がする。
(……あぁ…そっか…)
もう一度その場に座りこみ視線を手元へ移すと、暗闇の中うっすら見える手首、そこには頑丈にはめられた鉄の手枷。その先には鎖が伸びて壁に繋がれていた。次第に震え始める両手。生臭い鉄とカビの匂い。冷たい空気を吸い込むと肺が重く痛い…痛い痛い痛い体のあちこちが痛くて痛くて仕方ない。
『はぁ…っ……はっ…』
目頭が熱くなって視界が滲み始めたその瞬間。遠くの方から歩く音が聞こえてきた。わからない。なにもわからないのに息が上がって苦しくなる。荒れる呼吸をどうにか抑えようとうずくまった瞬間…
ガンッ!!
ギィッと音を立てて重たい鉄の扉が開くと、そこには人が立っていた。後ろから差し込むオレンジ色の光が眩しくてよく見えないけど、多分女の人…
「あぁ…起きてたの。もう薬が切れてたのね…ヨミ、いい子だからこのご飯を食べたらもう一度寝ましょうね。」
聞き覚えのある声で話すその女性は、僕に近づくと無理やり何かを口に詰めてきた。パサつき固くなったパンだろうか。余りにも突然で両手で突き放そうともがいても唾液を飲み込む隙もなく、苦しくてむせ返る。その瞬間鈍い音と共に頭がぐわんと揺れた。あぁ…殴られたのか。
『…っ!?』
「お願い!!食べて!!あんたに死なれたら私たちの幸せが壊れるのよ!!!食べて!!食べなさい!!!!」
『んぐっ…ゃめ…っ!』
苦しくて涙目になりながらも、今まで自分がここで何をしてきたのかぼんやりと思い出していた。
ーーー
あの頃はまだみんな優しくしてくれた。お母さんも、近所のおじいさんもみんな僕に優しくて大好きだった。そんな平和な日がいつまでも続くと思っていたのに…
突然ここに連れてこられた僕は、何もわからず出された豪華な食事に喜んで飛びつく。滅多に食べられないような食べ物が沢山あって必死に口に運んでいると、誰かがその部屋に入ってきた。それはいつも優しくしてくれたおじいさんでこの街の偉い人だった。僕の隣に座ると、僕の方を見つめてニコリと笑った。
そして、幸せになれる薬だと言われて小さな小瓶を渡された。
『幸せ…?』
「そうだよ。これを飲んでここにいればみんなが幸せになれるんだ!ヨミは街のみんなが好きかい?」
『うん!大好き!』
「ヨミは優しい子だね。…じゃあ飲んでくれるね?」
僕は大きく縦に頷くと、その小瓶の中身を一気に飲み干した。すぐに視界がゆがみ始めて気持ちが悪くり次第に意識が薄れていく…
「ヨミ…ありがとう。」
それからは目覚める度その繰り返し。食事も少しずつ変わり豪華だった食べ物はパン1つと牛乳1瓶。関わる人々も接し方が変わって怖くなり初めて脱走しようとした。でも、すぐに捕まりその日は一晩中、意識が無くなるまで殴られ続けた。ボロボロになった僕をその場にいる誰もが見て見ぬふりをする。異様なこの光景に逃げ出す術はない…そう思ったら何もかもどうでもよくなった。
何で僕は生きてるんだろう。
そしてまた、無理やり飲まされた液体が喉の奥へと流し込まれる。
ゴクツ
薄れゆく意識の中必死に願った。
誰か…ここから出して……。