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映画

『明日10時、いつもの駅に集合だよね? よろしく!』


『こちらこそ!』



朝奈さんとのラインを返信し終わった。明日はデート当日。楽しいデートにして、朝奈さんに告白するぞ……。


緊張して台無しにしてはいけない。まずは計画通り、手を繋ぐことにチャレンジしよう。一歩一歩、ゆっくりだとしても進むことが大切だ。自分なりのペースでいい。その上で、朝奈さんに伝えれるように頑張るのだ。


両頬をペチペチ叩いて、自分を奮起させる。明日着る服もすでに用意した。準備は万端だ。


よし、寝よう!





デート当日。俺は時間通り、いつもの駅に着いた。12月の空気は冷たい。寒さが喉や鼻に突き刺さる。


駅を出ると朝奈さんを見つけた。朝奈さんが白い息を吐きながら、小走りで駆け寄ってくる。



「おはよう、柏木君」


「おはよう、朝奈さん」



朝奈さんは両手をすりすり合わせて、はぁーっとそこに息を当てた。



「今日寒いね。早く行こっか」



朝奈さんの顔を見れただけで、小躍りしたくなるほど嬉しい。それだけでも十分なのだが、今日はもっと朝奈さんと近づきたい。もっと知りたい。


だから、俺は勇気を出した。朝奈さんに向けて、俺はそっと右手を差し出す。緊張してちょっと震えているのが、手を出してから気づいた。



「手を‥‥‥繋いでも、良いですか」



震える声で俺は伝えた。朝奈さんはまず俺の右手を見て、次に俺の顔を見る。朝奈さんは2、3度白い息を吐いてから、俺の右手をそっと握った。



「‥‥‥うん」



朝奈さんの温度が伝わる。冷たかったお互いの指先が、ゆっくり温まっていく。



「行こう、朝奈さん」


「うん」



朝奈さんと手を繋いで、映画館のあるショッピングモールに向かう。


こんなあっさりと、朝奈さんと手を繋げるなんて。勇気を出して良かった。

 手を繋いだら繋いだで、手汗が滲んでないかとかが気になりだす。朝奈さんの柔らかい女の子の手も、俺をそわそわさせる。


落ち着かない俺の右手を、朝奈さんがしっかり握り直した。



「手を動かされたら、繋ぎ辛いんだけど、柏木君」


「あっ、ごめん」



緊張してしまう。会話も何を話せば良いのやら。シミュレーションはたくさんしたはずなんだけどな。いつもは何を喋ってたっけ。



「柏木君、緊張してる? 大丈夫だよ、私も手を繋ぎたかったから‥‥‥柏木君が伝えてくれて、その、嬉しかった」



そう言って朝奈さんは、照れ臭そうに俺から目を逸らした。


俺も朝奈さんの手をちゃんと握り返す。幸せな感覚で、体がぽかぽかする。



「映画、楽しみだね、柏木君」


「そうだね」



多分、俺はこのまま朝奈さんと手を繋いでいるだけで、映画よりもずっと楽しめる。



「朝奈さん、収録は大丈夫なの?」


「大丈夫だよ! 動画のストックあるし、露ちゃんも編集追いついてないからむしろありがたいってさ」


「それならよかった」



『ゆかなん』さんとしての活動の邪魔になっていないなら安心だ。



「映画2時間ぐらいだよね。終わったら何する? とりあえずお昼?」


「朝奈さんは買い物したいって言ってなかった?」


「ああ、あそこは可愛い小物を売ってるお店があるんだよね。そこ寄りたい!」


「寄ろう!」



おー、と言いながら、朝奈さんは繋いでいない方の拳をつき上げる。俺は緊張もとけて、楽しく会話も出来るくらいには落ち着いてきた。


ゆるゆる喋りながら、ショッピングモールに近づいていく。俺としてはもう少し映画館に着かなくても全然よかったのだが、駅から徒歩15分の情報は正確だった。だいたい15分で映画館の入り口に到着。


券売機でチケットを買う。さすがに朝奈さんの手を離す。名残惜しいが仕方ない。


人気の映画と聞いていたが、割と席が空いている。あまり映画に行かないので、こんなものなのかもしれない。見やすそうで、隣同士の席を選んだ。



「はい、チケット。朝奈さんはポップコーンとか食べる?」


「ん〜ん。いらない」



発券されたチケットを朝奈さんに手渡す。あと10分もすれば映画は始まる。サクッと館内に入場した。


俺が先に入場して、朝奈さんが続いて入場。待っていた俺の手を、朝奈さんが握った。



「行こっか。もう始まっちゃうよっ」



不意に手を繋がれてドキッとした。また手を繋げて嬉しい。しかも朝奈さんの方から。


手を繋いだまま、席を探す。チケットに書かれた番号の席を見つけ、俺と朝奈さんは席に着いた。俺と朝奈さんの手はほどける。朝奈さんの小さくて温かい手は、彼女の膝の上にちょこんと乗せられた。



「……始まるね」



朝奈さんは小声で俺に話しかけた。薄暗かった映画館が、上映開始を知らせるために真っ暗闇をつくる。


——映画が始まった。恋愛映画だ。でも、別れ話の映画。最初は、付き合って楽しく過ごす二人。でもだんだん心の距離が離れていく。でも最終的に悲しい別れではない。お互いに良い未来に繋がるんだろうなと思える、そんな二人の別れ方。


これから告白しようかというのに、この映画の内容はどうなのだろう。でも評判通り、楽しめたというか心に響くというか。


どうしても映画の二人と、俺と朝奈さんを重ねてしまう。もし付き合えたとしても、こうしていつか別れるのだろうか。別れるとしても、せめてこうして良い別れ方をしたいな。


……付き合っても無いのに、こんなことを心配してどうするんだ。映画の合間に気を抜いて、朝奈さんの方を見る。視線に気づいた朝奈さんと目が合った。


——あ。ポンと俺と朝奈さんの間の肘掛けに、朝奈さんの手が置かれた。俺もそれに応えるように、そこに手を重ねる。


どうなるかわからないけれど、今、こうして朝奈さんと一緒に入れることを嬉しく思う。……それでいいか。

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