4人の友達
「あら、名門にはこれがよく似合うわね」
そういって、深葉は嗜虐的な笑みを浮かべつつ名門に犬の首輪をつけ、リードを取り付けた。
名門は顔を気持ち悪くゆがませつつ、
「わっ、わんわん!」
と吠える。
嫌でも周りの客の白い目線が目に入る。
僕と手にこの店の手提げ袋を持った須々木はそっと、二人から離れた。
・・・どうしてこうなった。
試着室で着替え中の名門にラッキースケベをかました。
その後に、着替えてでてきた名門にあまりにも服のセンスがないというので深葉が服を選ぶ流れになったのだが・・・。
「もう、これでいいんじゃないかしら」
深葉が冷たい微笑をうかべた。
名門は首輪にリード、そして、上半身裸にネクタイのみ。下半身はミニスカートにニーソをはいていた。
あきらかに変態である。
「分かりました! ご主人様」
これ以上ない笑顔を浮かべつつ、名門が言うと
「あなたを執事にした覚えはないわ。獣風情が」
と四つん這いになっていた名門の腹を深葉が蹴り飛ばした。
うひゃあと悦びの声をあげる名門。
見ての通り、名門はおもちゃにされていた。
それをみて、店内にいた人が蜘蛛の子をちらすように逃げ帰った。
これって、威力業務執行妨害なんじゃあないだろうか?
と思ったが、逃げ帰った人々が吹聴して回ったのか、まばらに野次馬がやってきていた。
このままだと、出入り禁止を食らってしまいそうな勢いだ。
「名門はいいから! 僕の服も選んでくれないか」
見ていられなくなって声を上げた。
こいつらと友達だと認識されるのは嫌だが、背に腹は代えられない!
「なに言ってんの! あなたは何着ても似合わないわ」
こちらを一瞥もせず、名門に鞭をふるいながら、ひどいことをいいやがった。
覚えてろよ、深葉。
そうにらみつけるも深葉は名門と遊んでいてこっちを見向きもしない。
店員が血相を変えて事務所にいったのでかなりやばいと思うんだが・・・。
困ったなあと須々木を見ると、目が合って
「ここは私が選んであげますから、大丈夫ですよ」
と親指をたててウインクしてきた。
唐突にお姉たんキャラになる須々木。
少々、ぐっときたが、
「ばっ、馬鹿!須々木に選んでもらえる服はない! 」
とツンデレみたいな態度をとってしまった。
ふふと陰のある笑いを見せる須々木。
それを見ると見事に手玉に乗せられた感が否めない・・・。
「やべ、店長呼ばれた。帰るぞお前ら! 」
店長がにらみつつやってきていたので深葉と名門に呼び掛けると、もう着替え終わり、店の外に駆け出していた。
なんという変わり身の早さ!
あきれていると須々木が僕の手をつかみ、引っ張っていたので引っ張られるままにかけだした。
まさか、女子に手をにぎられるとは思っていなかったので須々木の顔を見た。
が、顔をそむけていてよく表情が見えなかった。
むず痒さというか嬉しさとか恥ずかしさが入り交じり、どんな顔をしていいか分からなかった。
が、変態的な顔をしていただろうことは想像に難くない。
そんな感じで怒鳴り散らす店長の剣幕に追い出されるように野次馬たちに交じって外に出た。
・・・スリル満点だったな。
そう思いつつ、三人の顔を見る。
それぞれ苦笑いしていた。
少々、やりすぎてしまったと思っているのかもしれない。
空はまだ青く、一日の終わりまでにはたっぷり時間がある。
そのころ、僕のおなかが、くうーと気抜けした音を立てた。
それを聞いて名門が
「うわ! 恥ずかし! 」
と笑いつつ言った後、名門のおなかからも同じような音がしてきた。
恥ずかし気にうつむく名門を見て笑っていると、女子勢からも同じような音がして、さらに笑いこけた。
街中には、同じような笑い声が響き、夏が近づいてくる楽し気な雰囲気を醸し出していた。
その後もすっかり日が暮れるまで4人で遊んだ。
能力者の園には、あまり娯楽施設がない。
それに、能力者は能力を好んで見せることはない。
だから、遊びにもいけず、能力者が能力を使うのも見られない、退屈な生活を送っていた。
しかし、今日は本当に楽しかった。
玄関の前で空を見上げると夕焼けの後の紺色の空が広がっていた。
「また、遊びに行きたいな」
そう、独り言ちると僕は玄関の戸をあけた。