合法ロリ
「なんか、須々木を見てると妹を見てる感じがするな」
はしゃいでいる須々木を見ながら、感慨深げに名門がつぶやいた。
まともなセリフに驚きを禁じ得なくなって名門を見ると、どこか遠い目をしていた。
昔の思い出を懐かしんでいるようだ。
「ようやく、まともなセリフを吐きやがったなー。てか、名門って妹居たんだ? 」
「ああ、意外か?これがまた可愛い妹でな。能力者じゃあなかったから、ここにはこれなかった。あっちで元気してるといいんだが」
すごい笑顔から一転、心配そうに名門は言う。
「まったくだ」
僕も妹がいるからなあ・・・。
あまり他人事ではないのだけど、能力者之園に来れるのは能力者のみ、非能力者はここの存在すら知らされていないそうだ。
それに能力者は遺伝しないという学説がある。
しかも、そこそこ有力な学説らしいから、非能力者を入れるのは百害あって一利なしとここを作った人が考えたのかもしれない。
ここを作った人って誰だっけ?
「まったくだ、ってことは、葦木も兄弟がいるのか? 」
興味深そうに名門が言った。
一瞬、なんだか深いところにたどり着いた気がしたが。
すぐに霧散してしまった。
なんだったんだ。あれ。
やべ、すぐ答えないと!
うちの妹に手を出されちゃ困るぜ、言外にいうように言った。
「ああ、多分名門の妹より可愛い」
「なわけねーだろ」
馬鹿にすんなよ、という風に名門は笑った。
だが、可愛い分だけ心配だ。
外の世界は治安が悪いらしい。
あいつとは一番付き合いがうまくいっていたから、失いたくないと思う。
今から考えると、勉強を教えてと泣きながらいってくるあいつに夜な夜な起こされて付き合ってやるというのはいい思い出のようで、一夜の夢のように思う。
「みんな、気にならないのかな?兄弟とか親とか、友達とか彼女とかさ」
名門が足元を見ながら感情を押し殺した声で言った。
僕も足元をみる。
白いタイルに光が反射し、僕の下唇をかんだ顔が映る。
あいにく、僕は友達が多かったわけでもないし、親との折り合いも悪かった。
彼女なんているわけないしな。
でも、名門みたいに友達が多そうな人だと、やはり心配なのだろう。
「あっちじゃあ、まだ戦争があるって噂もある。クラスメイトは他人事のように話していたけどね」
一人っ子が多いのかな。
そう思わないと、みんなの神経を疑ってしまうほど、クラスメイトは他人事のように話していた。
名門はみんなとは違うようだが。
「戦争って言ってもさ、あんまし実感わかなかったし、記憶にないよな」
「うん。太平洋戦争を体験した人だと戦時中のフラッシュバックが起きるらしいけどね」
なんでだろうと考えて、答えなんて出せないと頭を振る。
あのときはあわただしかった。
別れの言葉を言う暇もないぐらいだった。
本当にいつの間にか、ここにいた。
「あら、須々木さん。似合うじゃない! 」
試着室の方から、深葉のはしゃぐ声が聞こえる。
本当にここは平和だなあと思いつつ、顔を上げて名門に声をかける。
「おい、名門」
「ちぇっ、深葉の着替えシーン見たかったな」
惜しかったという顔をしながら、名門はゆるゆると立ち上がった。
ほんと、キャラぶれないな、お前。
シリアスシーンの後なのに、自重しろよ。
あるいは名門も自分をだましながら生きているのかもしれなかった。
僕たちは深葉に呼ばれて須々木の試着姿を見に行くことにした。
試着室のカーテンをあけ、おどおどした感じで出てきた須々木は、
デニム生地のショートパンツに白いノースリーブを着ており、夏を意識した露出の多い、おどおどした態度とは正反対の服をきていた。
随分と可愛い。
ギャップ萌えってやつか?
小学生が背伸びして大人の色気を出しているみたいなところか?
「かわいいなあ」
まばゆいばかりに真っ白な太ももを見つつ、つぶやいた。
「本当ですか?嬉しいです!」
あくまで、独り言のつもりだったのだが、須々木はそれに気づいて、後ろを向いてガッツポーズをした。
可愛いと言われたことがなかったのか?
いや、あの容姿でそれはないだろう。
僕に言われたのが嬉しかったのかと童貞丸出しの妄想をして、それはないと大きくかぶりを振って、足元を見る。
顔面が熱い。真っ赤になっているのに気づかれないといいなと思いつつ、顔を上げて前を見ると
「レジいってきますね!」
と勢いよく須々木が駆け出していくところだった。
そのあと、深葉も
「ついていくわー」
と笑顔でいいつつ、まちなさーいとおいかける。
須々木は立ち止まって、深葉と合流した。
そして、深葉と楽しそうに話しつつ、レジに向かった。