買い物
移動して店内の女性用コーナーへ来た。
マネキンが夏らしいTシャツを着こなしていたり、海外のモデルがすずしそうな白いパンツをはいている写真があったりして、あんまし男性用と変わらないな。
正直、ここにいてもやることはないので近くにあった座るスペースに名門と隣り合わせで座り、彼女たちを観察することにした。
「わあ!いい服がいっぱいありますね!」
須々木が目を輝かせつつ深葉を見る。
深葉は深く何度もうなずきながら、小さい妹を見るような目で須々木を見ていた。
須々木、完全にロリ要員だ。
いい加減気づけ!
「ふふふ、深葉はどんな女王様ファッションなのかな」
隣から急にきもい声が聞こえた、と思い、隣を見ると名門だった。
坊主刈りのさわやかなスポーツ青年がにやにやと変態おやじのように笑いつつ、女王様について語ってる・・・。
いかんな。
どうしても、こいつがMだと思うときついものがある。
「女王様に興味はないが、楽しみだな」
そう無難に返しておいた。
返し方が返し方だとちょっとMの沼に引きずり込まれそうだしな。
名門は相変わらずにまにま笑っている。
ときおり、「そんな棘のついた鞭で・・・」とか「俺の金属バットに釘を刺してそれでたたくなんて・・・」とか聞こえてきて、非常に不快だ・・・。
こいつと二人きりにされるっていうのは理不尽さを感じる。
だが、僕も名門とはニュアンスが違うが彼女たちがどんな服を選んでくるか興味がある。
ちょうどいま、棚が邪魔でここから見えないあたりに行ってしまったからなあ。
服なんかよりも彼女たちの方が魅力的なのもあって選んでいる服はあまり見てないし。
「露出が多いといいな」
「だろう!」
ぽろっとでてしまった本音に名門が大きな声で相槌をうつ。
ばっと深葉と須々木が振り返り、徐々に増えてきた店内客もなんだという野次馬根性丸出しの顔でこちらを見てくる。
こいつ!
「ばかっ、声がデカい。フォローしろよ! 」
と小声で注意。
「もちろんだ」
名門もなにが誇りなのかは知らないが、胸をはって、小さい声で言った。
・・・胸を張って小さい声って器用。
変態にフォローとか不安でしかないが、フォローを名門に任せるしかないか。
頼むぞ・・・。
「いや、葦木は露出が大きい服装が好きみたいだな。俺もそう思う」
はあっ!? 何言ってるの! フォローしてないし! 悪化してるし!
「変態ね」
マイナス百度ぐらいの声音で、そういった深葉は胸の前で腕を組んでたっていた。
残念ながらアニメでよくある、腕組で胸が押し上げられる腕組でなく、どっちかというと視線をガードしてるみたいに、腕を組んでる。
そんな恰好をした深葉が見下げてくる。
彼女は男でも見ないほどの長身なので普通の身長である僕とかだと見下ろせるのだった。
威圧感が凄い。
一方須々木はじとっとした目線で胸を腕で隠しながらあとずさりしている。
痴漢を見る目だ。
あはは。
あははははは。とほほ。
「てか、おかしいだろ! なんで名門は変態扱いされないんだ! 」
「慣れてるから」
すぐに返された的確な答えに反論できない・・・。
名門はいまさら露出どころで変態とか言えない。
が、当の名門は呑気に服を見ている。
ふざけんな。
「てかさー、楽しい買い物なんだからさあ! 楽しみまっしょう! 」
思い切り話をずらした。
我ながら無理があるかと思ったが、ぶつぶつ言いつつも彼女たちは再び服を物色し始める。
ほんとによかった!
・・・よかったのか?
少しひっかかったが、まあいいか。
そういうことにしておこう。
彼女たちは僕への愚痴を言い合うのはもうやめたのか、わいわい話しながら服を物色している。
ここに口を挟めるほど僕はファッションに興味があるわけでも知識があるわけでもないし、人間観察してたら変態だとより一層思われそうなので名門と与太話でもして、暇をつぶしておくか。