彼女の名前
「おーい。大丈夫か、葦木」
名門のまったく心配していないような間延びした声で、回想から覚めた。
目の前の光景に意識をやると、名門が手を振りつつ顔をのぞきこんでいた。
「大丈夫だ」
僕はそう答えた。回想にふけっていたというのは恥ずかしい。
が、それに気づかれないようにポーカーフェイスで答える。
本来の意味は違うらしいが。
そういうと名門はふーんと興味なさそうに深葉と話し始めた。
美人3人の前でどんな顔してたんだろ。
そう思いつつ、女子中学生のような高校生の顔を見る。
どこからどうみても、数か月前にぶつかった娘と同じだ。
じろじろ見られるのに慣れていないのか、恥ずかしげにさっと目をそらされた。
・・・かわいい。
そういえば、名前を聞いていなかったな。
近寄って行って肩をとんと軽くたたく。
「お久しぶり、名前は? 」
可愛さに胸が高鳴っているのを気取られないように、ぶっきらぼうに聞いた。
「須々木 印ですよ。あなたは? 」
「葦木だ。葦木 領だ」
「小学生みたいな名前ですね」
・・・うっせえ。
小学生みたいな名前ってなんだよと思った。
しかし、大人な僕は、そのことについて追及せず、明後日の方向を向いた。
こっからの会話の展開がうまくつかめないからな。
店内には珍しく誰もいないようだ。
が、外に目を見やると通行人が結構いる。
気温が上がるにつれて増えてくるだろう。
沈黙の気まずさに耐えかねて、須々木を見る。
須々木は無視されたことにつまらなさを感じているようで口をとがらせて足元を見ていた。
暇そうだ。
足元に小石があったら蹴りそう。
名門と深葉は僕が回想から覚めた後からずっと話ばっかりしてて気まずい。
友達の友達と話せるような男じゃないし、それは須々木も同じみたいだしな。
一応、話題を提供してやるか。
ちょうど気になっていたことがあるから、聞いてみる。
「話は変わる、というか、元の話題に戻るんだが、名門と深葉の関係って何なんだ。あの説明だけじゃ良く分からなかった」
申し訳なさを前面に押し出しながら聞くと、須々木はハイライトが消えうせた、どんよりした目をして、小声で
「ものすごく、直接的に言うと、名門さんがどMで深葉さんがどS。つまり、深葉さんが名門さんをいじめて、両方が性的快楽を得るってことですよ」
といった。
少し間をおいて、意味を理解してからドン引きした。
「ええ・・・」
あまりの変態さに驚いていると須々木は
「まあ、初めて聞く人はだいたいそうですよ! それより、あんな変態放っておいて私たちだけで行きません? 」
おどけたふうにそう笑いかけられた。
心臓が高鳴ってしまうのを感じて、あのなあ・・・といいかけて、くちをつぐむ。
すると
「どきっとしました~? ロリコンの変態ですねえ」
と須々木はにやりと笑って言った。
・・・なんだか手玉にとられているような気がする。
いい返しが思いつかず、名門と深葉に目を見やるともう話をやめてこっちを見ていた。
気が付かない間に、待たせていたらしい。
しかし、どSにどM、ロリっ子とかなりキャラが立っているメンバーだな。
今さっきのやりとりも、深葉と名門の関係も知られたら大事になりそうなんだが。
幸い、店内には従業員以外いないし、大丈夫だろ。
そう思いつつ、名門に駆け寄り、
「じゃあ行くか! 」
と言った。
サブタイトル本当に思いつかない・・・。