罪のラブレター
今日は良い天気だったが森木君のあのニヤッとした顔を思い出すたびに気分優れなかった。
あれはなんだったんだろうと何回もループして考えていると、頭が痛くなる。
愛理が自分の気持ちを察したのか五限の休み時間に私の近くに来た。
「ねぇ、私考えたんだけど世異にラブレター書かない?まぁ、要はラブレター大作戦って奴」
「ラブレター大作戦……、なんか古風じゃない?」
今時ラブレター書く奴いるの?普通、仲良くなってから告白だよね。
ケータイのメールとかスマホの通信アプリとかで仲良くなってそれで告白するもんじゃないの?
「古風って理沙は思うかもしんないけど、ラブレターにだって需要があるんだよ」
「ラブレター大作戦かぁ……、ちょっと考えてみる」
「理沙があんまり乗り気じゃない!!なんでっ、まさか世異の事どうでもよくなったの?そうじゃなきゃこんな事、天変地異が起こる位ありえないよ」
「べっ、別に嫌いになったわけじゃないけど。森木君のある行動見て正直ちょっと驚いただけだよ」
「ある行動って?まさか放課後……、世異を監視してたわけじゃないよね。約束…だ・も・ん・ねぇ…」
怖い顔で愛理が鋭いとこを突いてきた。
愛理ってたまに鋭いとこあるんだよねぇ。
私は無表情の顔にして何も無かったという事をアピールしたかったが、それが逆に愛理にとって怪しく見えたらしい。
「彼ってたまにケータイ持って笑ってる事あるんだよね」
えっ?
それは初耳だった。
そんな所見たことない……、この前見たのは後ろ振り向いてたけど。
「へぇ……、そ・う・な・ん・だ……」
私は学生服の裾をつかんで表情を殺していた。
無表情、無表情……。
約束を破った事を愛理にバレたくない。
約束を破った極悪非道な人には思われたくないし、心配もかけたくなかった。
『そんな事をして、またストーカー度が上がるよ』とか言われるの目が見えてるし、そう言われるのは朝だけで十分だと思った。
ていうか、森木君はケータイの何を見てニヤついてたんだろう。
まだ、その点が謎だった。
お笑い番組でも見てたのだろうか?でも、遠くから見てたけど間違いなくあれはEメールの画面もといメールアドレスだったはず。
私の確信に間違いあるはずがない。
「まぁそんな事より、今回の主体のラブレター大作戦の事考えてくれた?やるよね、やるよねっ!」
「まぁ、やってみようかな」
さっきの話を聞いて少しはヤル気が出た気がする。
それ以前に愛理に押されて言っちゃってる気が……。
愛理はニコッと笑みを浮かべると段取りを説明しだした。
「じゃぁ、段取りはこう。まず、ラブレターを書いて学校に持ってくる。その次、そのラブレターを昼休みに世異の机の中に突っ込むかバックの中かあるいは靴箱の中に投入。それが終わったら放課まで待って屋上に行く。以上、質問はある?」
愛理はイキイキしながら淡々と喋っている。
もう、これは早口言葉と同じ域だ。
「質問…、ていうか意見なんだけど、靴箱がいいと思う。だって、机やバックだと他の人に見られる危険性があるから靴箱がいいと思う」
「じゃぁ、これでいいってことで。明日が楽しみだね」
「うん」
明日、ラブレター大作戦が決行する事となり愛理主催の議会は閉会になった。
■ ■ ■
ラブレター大作戦当日、私は眠くなりながら徹夜で書いた出来立てホヤホヤのハートマーク付きのラブレターをバックに入れて学校に登校した。
やはり、ラブレターはいいものだ。なんか持ってるだけでもドキドキする。
最初の一時間目はソワソワして気が気ではなかったが、時間が経つごとに緊張は和らいでいった。
昼休み、愛理から周りに誰もいない合図を貰い、靴箱にラブレターを入れた。
後は待つのみ、果報は寝て待てって奴だ。
私は自分のクラスに戻り、自分の机に座っていた。前の席には愛理が座っている。
「どうだと思う?結果!!」
「うぅん、実際見てみないと分かんないなぁ」
私は首を傾げ、バックの中を開いてビニールの中に入っているサヴァランと弁当を取り出した。
サヴァランは聞き覚えの無い人もいるかもしれない、西洋の菓子で私の大好物だ。
パティシエをしている母が一週間分くらい作り置きしているので毎日持ってきている。
だから、昼休みは弁当を食べた後にサヴァランを食べるのを毎日の日課にしている。
その位、サヴァランが好きなのだ。
「理沙のその弁当美味しそう。食べていい?」
「まぁ、今日は特別デーということで一個だけ選んでいいよ。結果が駄目でも今日はホント感謝してるからね」
「じゃぁ、そのサヴァランがいい。理沙が毎日食べてるから、どんなに美味しいのか食べてみたい!サヴァランも弁当の一部だからいいでしょ!?」
「うぅぅ、究極の選択」
いつも、愛理にはお世話になってるけど毎日の楽しみが失われる。
親友への感謝を取るか大好物を取るか悩む。
私は意を決し、あげたくはなかったがサヴァランを愛理に渡すことにした。
「ありがとう。でも、やっぱりいいや。今度は理沙の家で食べさせてね」
「えっ?じゃぁ、その時がきたらサヴァラン用意しとくね」
私は愛理と約束を交わし、その時がきたらこのお菓子を用意するつもりだ。
放課に差しかかり、私はホントに森木君がラブレターを読んだか気になった。
授業が全て終わってから私は森木君から見えないように隠れて後をつけた。
森木君が靴箱に手を入れると不思議な顔をしてラブレターを見ていた。
「これってもしや……」
森木君は嬉しそうにそう呟くとラブレターを隠れていた私の方に向けて開けた。
あれっ?私のじゃ・な・い……。
靴箱に入れたハートマーク付きのラブレターがスターマーク付きのラブレターに変換されていた。
私のじゃない、あれは誰のラブレターなの‼
森木君が下駄箱の場所から駆け出したのを見て、私はまた隠れながら後をつけていた。
ニ階に上がり、三階に上がって、最終的には私の指定した屋上のドアに着いていた。
そこには森木君と黒髪の長い女子が屋上のベンチの近くに佇んでいた。
森木君と何を話しているのか聞こえなかったので耳を澄まして聞いた。
「あのっ、来てくれたんですか?」
「この手紙、お前のだったのか」
「はい、そうですよ。私が書きました」
森木君は頷くとベンチに腰をかけて女子はニコッとして、私にとって呪いの言葉を発した。
「だから……、私と付き合って下さい」
「うん。俺も付き合いたかったんだ」
その言葉を聞いた私はドアを閉めて、泣きながら教室の方まで全力で走った。
私は絶望に打ちひしがれながら自分のクラスの中に入った。
愛理はまだ戻って来てないのだろう、誰も居ない教室の明るさは徐々に暗くなっていくのが容易に想像がつく。
もうこれじゃぁ……、振られたも同然だよね。
相手は私のラブレターをすり替えた悪女、敵うわけないよ。
『フフフ』と不気味な笑い声を上げた私は自分の物を持ち帰る為に自分の席に行った。
引き出しに教科書をバックに入れる。その中に何かゴツゴツした物が入っている気がした。
んっ?何これ……。
そのゴツゴツした物は『恋愛リモート』と書かれたディスクと『crime』と書かれた普通のテレビリモコンだった。
和訳で『罪』と書かれたリモコンとディスクをバックの中に入れた。
私の机に入ってたんだから使ってもいいよね。入れる奴が悪いんだから。
私は帰りを待ち、愛理に二つの機器の事は言わずに別れた。
悪女に勝つ為の機器だと気付いたのは学校に帰ってからだった。